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赤い風船  作者: 黒猫
7/13

鈴蘭の毒

-----カナちゃんの好きな鈴蘭を持ってきたわよ。


去年の春、小さな花瓶にすずらんを活けて、母は涙ぐんだ。公園のブランコの近くにそっと置いて、立ち上がる。

その日は妹の誕生日だった。

生きていたら、8歳になっていた。

父は、お皿に盛ったショートケーキを、そっと供えた。


-----ハッピバースディ、カナ、寂しかっただろう。うちに帰ろう。


僕は犯人は、すぐに捕まると思っていた。その日公園には、何人か高校生がたむろしていて、妹が公園にいるところを見ていた人もいたのだ。

丁度夕刊を配る時間帯で、新聞配達のお兄さんも、道中妹らしき女の子が、一人で歩いているのとすれ違っていた。

でも、誰も妹を殺した犯人を見ていなかった。凶器も見つからず、手がかりは全く無かった。


今年の春は、妹の写真の隣に、すずらんの花を活けた。

白くて小さくて、可憐な花。きれいな香りもする。庭に咲いていた物を、僕が摘んだ。

「気を付けてね、鈴蘭には毒があるから。」

母が言った。

「ちゃんと手を洗ってね。」

まるで小さな子どもに言うみたいに、母は話す。

「分かった。」

でも僕は何も言わない。

抵抗したら、母が消えてしまいそうな気がした。

小さい頃、僕に何かがあって、母は少し過敏になっていた。


-----ごめんね、ごめんね、ショウちゃん。


あの日僕を抱き締めて、母は言った。

母の腕は、震えていた。



真夏の暑さの中で僕は、何かを思い出そうとしている。

忘れなければいけなかった何かを。

アブラゼミのジージーという音。

消毒液のにおい、死んでいく細胞のにおい、アロマのにおい、人の、血のにおい、人の、死んでいくにおい、人の、死んでいくうめき声、せんせえの、笑った顔、腫れていく、風船みたいな、


オ兄チャン

コワイヨ


パンっと風船が割れる音がした。


「大丈夫?一人で帰れる?」

ホームレスのおじさんの声。


-----犯人グループは未だ捕まっておらず、

-----今日未明、死亡が確認されました。


ニュースキャスターの原稿を読み上げる声。


コワイヨ


「おはよう。」

白衣のせんせえの、笑った顔。


夏の暑さが、かげろうを作る。

殺される、と僕は思った。

僕は、この夏に殺される。


-----お兄ちゃん


妹が僕を呼ぶ。

風もないのにブランコが揺れる。

頭の中を激しく光が駆け巡る。


「あアあアアあアああアアあああ」


僕は絶叫した。



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