表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い風船  作者: 黒猫
4/13

人形

「お母さん。」

夕飯のチキンカレーを食べながら、僕は言った。

「カナの部屋片付けた?」

カナは妹の名前だ。

母は不思議そうに僕を見た。

「そのままにしてあるわよ。お兄ちゃんに怒られるから。」

「そう。」

僕はテレビに視線を移した。

それにしても、人形はどこに行ってしまったんだろう。

テレビでは、最近起きた事件を取り上げていた。ニュースキャスターが原稿を読み上げる。

「3日前に発生した、ホームレスを狙った暴行事件ですが、意識不明の重体だった男性が今日未明死亡しました。なお、犯人グループは未だ捕まっておらず、警察は目撃情報の提供を呼びかけています。

続いて、あしたの天気です。」

パッと画面が一瞬真っ黒になった。

僕は口に入れたカレーを咀嚼しながら、テレビを見つめた。


女の子が、雪の降り積もった公園を駆け回っている。何かのCMだろうか。

それにしても、夏に冬のCMなんて季節感が全くない。

よく見ると、女の子は裸足だった。

裸足で雪の上を跳ねているのだ。

人工の雪だから冷たくないのだろうか。でも、彼女の小さな可愛らしい足は、しもやけで赤く腫れ上がっている。

まるで、


「どうしたの、そんなに真剣に天気予報見て」

母が言った。

その時玄関のチャイムが鳴った。

「お父さん帰ってきた。はーい。」

母は父を迎えに玄関へ向かった。

僕は小さく息を吐いた。

どうかしている。

テレビでは気象予報士が、明日は猛暑日になるので熱中症に注意してください、と呼び掛けていた。



夕飯を食べ終えると、僕は2階の妹の部屋に入った。

明日公園に行くときに、妹の靴を持っていかなくてはならない。

でも、妹があの日着ていた服や、履いていた靴は、証拠品として警察が保管している。

何か代わりになるものはないだろうか。

僕は妹が喜びそうな物を探した。

お気に入りのハンカチ、好きだったお菓子の空き箱、集めていたおまけのアクセサリー、甘い匂いのする消しゴム・・・

ふと、ベッドの下に目が行った。

小さな腕がはみ出している。

「ここにいたんだ。」

僕は人形を抱き上げた。

埃っぽいところにいたせいで、少し服や髪が汚れていた。

優しく叩いてやりながら、ふと僕は、人形の靴に泥が付いていることに気がついた。

「あれ、なんで土なんか付いたんだろう。」

指先で撫でるとキレイに取れた。

ふと違和感を覚えた。

「あれ」

こんな靴履いていただろうか。

そもそも、靴なんて履いていたっけ。


「ショウちゃん、次お風呂入れるけど。」

部屋の外で母の遠慮がちな声がした。

「今行く。」

僕は思考を中断して人形をベッドの上に座らせた。

「後できちんと拭いてやるから、もういなくなるなよ。」

人形はグレーの瞳で、僕を見つめていた。

















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ