表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤い風船  作者: 黒猫
3/13

僕の名前

公園には、誰もいない。

元々ブランコと滑り台と砂場しかない小さな公園だったし、殺人事件があった場所ということで、利用する子供はほとんどいなかった。

公園の入り口にも、『変質者に注意!あやしい人を見かけたらすぐに110番!!』と大きな縦長の看板がかけられている。その隣の電柱に、少年の妹の事件が小さく張られていた。

『目撃情報にご協力ください!』手書きの文字の下に、色褪せた女の子の写真。にっこり笑ってこちらを見つめている。

少年は、毎日公園に通う。

妹が寂しくないように。

妹を殺した犯人の手がかりを、見つけるために。

少年はブランコへ向かう。

風でギィギィ鎖が揺れている。

妹のサンダルは、そのままになっていた。

「ごめんな。」

妹に謝って、サンダルを回収した。

「この靴じゃないよな、あの日履いていたのは。」

ブランコがギィギィ揺れる。

「今度必ず持ってくるから。」

少年は妹に約束した。

「そしたら一緒に家に帰ろうな。」

妹が頷いたような気がした。


返シテ


少年は、何か大切なことを忘れていた。

でもそれが何か思い出せずにいた。



―――――この子はあれ以来、赤い物を怖がるんです。


母の声がする。


―――――他に症状はありませんか。


落ち着いた男の人の声がする。

ここからは、顔を見ることが出来ない。

僕は母に抱き抱えられて、部屋のドアを見つめていた。男の声は僕の背中の方から聞こえる。


―――――夜もよく眠れていないようです。食欲もあまり。


どうして母に抱っこされているんだろう、と僕は不思議に思う。

母の首に回した自分の手を眺める。

小さな手のひらが2つ。

そうか、これは小さいときの記憶だ。

ここは、病院だろうか。

消毒液のにおい、病気の治るにおい、死んでいく人の細胞のにおい。


僕は息が出来なくなって、母の首から腕を放した。


―――――ショウちゃん!


母が僕の名前を呼んだ。


「ショウちゃん。」

部屋の外から母の遠慮がちな声がする。

「夕飯出来たけど、食べる?」

僕はベッドに寝そべって目を見開いていた。呼吸が荒く、汗だくだった。

「今行く。」

呼吸を整えて、僕は応えた。

階段を降りる母親の足音を確認してから僕は身体を起こした。

今の夢は何だったんだろう。

僕はぼんやり考えながら、立ち上がって、部屋のドアを開けた。


オ兄チャン


ドアを閉めるとき微かに女の子の声がした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ