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赤い風船  作者: 黒猫
2/13

熱中症

赤い靴履いてた女の子

異人さんに連れられて行っちゃった


妹は、異人さんに連れて行かれたんだ、あの歌の通りに。

少年は公園のブランコに揺られながらそんなことを思った。

だから言ったんだ、そんな靴似合わないって。

クリスマスの、サンタからのプレゼント。おませな妹は、靴を欲しがった。

「わたし、赤い靴が欲しいな。ピアノの発表会に履いていくみたいな、ツヤツヤしてる真っ赤な靴。」

妹は、ピアノを習ってる訳でも、発表会がある訳でもなかったのに。

「冬は雪が降るでしょ、そしたら赤が映えると思うの。」

―――――雪が降ったら長靴かスニーカー を履いた方が良いんだよ。滑って転んだら危ないでしょ。赤い長靴にしたら?

母親が諭しても、聞かなかった。


赤い靴履いてた女の子

異人さんに連れられて行っちゃった


行ッチャッタ

連レテカレチャッタヨ

オ兄チャン


また、幻聴が聞こえる。

少年はブランコを降りた。


待ッテヨ オ兄チャン

ワタシ靴ガ 無イノ

裸足ジャ 帰レナイヨ


形のない声。

少年はその声に慣れてしまっていた。

「靴なら持ってきたけど 」

そっと隣のブランコの下に置く。

それは、妹が夏に履いていた黒いサンダルだった。

赤い靴は駄目だ。また連れていかれてしまうから。

祈るように耳を澄ます。

しかし、反応は無かった。

少年はため息をついて靴を取ろうと身をかがめた。

その時、何かが少年の右手首を掴んだ。

「!」

驚きのあまり、声が出ない。

それは、人間の手だった。

小さな子どもの腕が、ブランコの下から突き出ていて、ものすごい力で少年の手首を引っ張った。

「っやめろ」

少年は力に抗うことができず、引きずられるまま片腕を土の中に沈めていた。

「コノ靴ジャナイ」

耳元で怒ったような声がした。

今までのどの幻聴よりはっきりと、まるで生きている者の声のように聞こえた。

少年は気を失った。



―――――熱中症ですね。


公園の木陰で意識を取り戻した時、おじさんがにこにこしながら言った。

確か、近所でたまに見かけるホームレスの人だ。

ゴミをあさりに公園を通りかかったおじさんが、ブランコの下に倒れていた僕を見つけてくれたらしい。


「ありがとうございました。」

「一人で帰れる?」

「大丈夫です。」

「気を付けてね。」


僕は家路に着いた。

何かを忘れているような気がしたけれど、考えるのがだるかった。

玄関を開けて、気がついた。

「あサンダル。」

また、置いてきてしまった。

僕は公園に引き返した。

ホームレスのおじさんはもういなくなっていた。






























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