エピローグ・a 《探しモノの旅》
突き抜ける蒼さの空には、薄い雲が転々と漂う。
少し目をすがめたくなるほどに太陽が輝く、晴天である。
空から視線を落とせば、そこには地平の果てまで平原が続く。
ぐるりと三百六十度見回しても、同じ風景だ。
背の低い生命力が図太い草たちが、ちらほら見える程度でなにも変化がない。
そんな中を、一人の男がリアカーを引きながら歩いていた。
額には汗が浮かび、粒を作っては流れ落ちている。
男は汗だくだ。
水分が抜けすぎて、どことなくしわがれた老人に見えるが、この男はまだ老人と呼ぶほどの年齢ではない。
そんな一気に老け込むほど汗を流す男とは対照的な人物が一人、テキトウに張った布で作った日陰のあるリアカーの荷台に寝そべり――というか、眠っていた。
こちらは女だった。
まだ若い。
子どもが、大人になる少し手前くらいだろうか。
その安らかな寝顔は、可愛く可憐である。
汗を流しながらリアカーを引く男が、振り返り様子をうかがう。
彼にしてみれば、少なかれ文句を言いたくなるような光景であるが、しかしその寝顔を見ると、どうにもなにも言えまい。
男は微笑みながらも溜め息を一つ。
リアカーを引いて、えっちらおっちら歩みゆく――
* * *
戦争があった。
少し前の話だ。
超大国と超大国の主義主張の為に起こった大戦は、周辺諸国から全世界を巻き込み戦渦を拡大させ――
対話もなく。
協調もなく。
拮抗し過ぎた力は互いの体力を削り、しかし果ての見えない争いは国家を疲弊させ、やがて国力は衰退してゆき――
超大国の“財政/経済”は破綻した。
周りの国々もその荒波にのまれ、もはや国家としての体裁をなせず――
そして各地で紛争が起こった。
そこにはもはや主義も主張もなく。
暴力の応酬によってイデオロギーは失われ――
以来、世界は疲弊し混沌し衰退している。
この世界は間違いなく、
――終焉へ、その大きな一歩を踏み出してしまった。
やがて総てが終わるだろう。
この一瞬後か、
明日か、
明後日か、
一ヵ月後か、
一年後か……、
いつになるかは、誰にもわからない。
しかし確かなのは、もはや後戻りできないという事実だ。
後悔したところで、意味はない。
こんな世界でも、ヒトは“生き/生かされ/生きている”のだから。
生きているかぎり、
生かされているかぎり、
生きてゆく道は、そこにある。
荒んだ道でも、
ぬかるんだ道でも、
――道は、先へと続いている。