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……は囁く

「!」


 召喚中、魔術師はミスに気づいた。ほどなく、部屋に人間二人が落ちてきた。



 なんということだ。一度に二人も召喚してしまった――。手痛い失敗に内心頭を抱える。

 しかしそんな動揺を押さえつつ、いつものように呼びかける。「ようこそ、花嫁様」 さてどう出るか。


 それを聞いた美しい少女達のうち派手なほうが、もう一人の地味なほうを突き飛ばすように押し退け、魔術師に走り寄る。


「はい! あたしが本物です! あっちはただの召し使い!」


◇◇◇


「……で、結局のところ、どっちが本物なわけ?」


 召喚の間から三人で出てきたのには驚いたが、そこは長年の経験あるプロ。ルセは笑顔で応対し、魔術師にどの部屋に通すか聞いた。


「『本物』 の大和田美憂(おおわだみゆ)様」を南のマツの部屋に。付き添いの陣内夕夏(じんないゆうか)さんは北のウメの部屋に通せ」


 魔術師は何故二人いるのかは説明せず、通すべき部屋だけを述べた。あとで説明、もしくは二人がいなくなってから話すということかとルセは察する。

 二人がそれぞれの部屋で落ち着き、侍女達の手配も終わったあと、ルセは魔術師に今回仕えるべき本物を尋ねた。それに対する魔術師の答えは、はっきりしないものだった。


「……魔力がより強いのが夕夏、召喚条件に合致してたのは美憂」

「は?」


 要領をえない答えにさすがのルセも疑問符を飛ばす。


「本物も偽物もないってことだ。ややこしくてすまない。私としては万が一異世界でこちらの少女召喚が明るみになっても、誘拐だ拉致だと文句を言わせない境遇の少女を選び召喚している。その意味では美憂が本物。そんなことを考慮しなければはるかに魔力に優れた夕夏が正解。……単純な話ではないのだ」


 ルセは納得し、それならと案を出す。


「いっそ両方に滞在してもらえば」

「法外な待遇はそれが一人だから、みな納得する。二人もいるのは混乱のもとだ」

「じゃあ涙をのんで、夕夏を還すか?」

「そうしたかった……が、二人も召喚してしまい、魔力が空同然だ。還すにも時間がいる」


 そう言って、魔術師は深々と溜め息をついた。その顔には疲労の色がありありと浮かんでいる。


「無理するなよ、もう帰って寝ていろ。あとは俺がなんとかするから」

「頼む。しかしルセ、気をつけろよ。あの二人は正直……美しすぎる」


 ふらついた足取りで魔術師は館へ帰った。

 召喚少女が二人、しかもどちらも美しい。

 ……言われなくても、嫌な予感しかしない。


◇◇◇


 美憂は迫力ある美人系、夕夏は一見目立たないがよく見ると、儚げな風貌の可愛い系だった。彼女らを目にした連中は色めきたった。しかしルセが「美憂が本物で、夕夏は巻き込まれだ。いずれ帰すから滅多な事は考えるなよ」 と釘を刺したので、貴族も庶民も今のところ落ち着いていた。

 ルセは美憂を本物として遇する一方、夕夏の扱いに考えあぐねていた。本当に召使いにするには出自が……しかも容姿が容姿だから悪目立ちしてしょうがない。目の届かないところに行ったら犯罪に巻き込まれそうだ。

 ということで、夕夏は夕夏で悠々自適にニート生活をしていた。

 一方、本物と称して優雅な『花嫁』 生活を送っている美憂はというと。



「この下手くそ!」


 勢いよく手を振り下ろし、髪をとかしていた侍女を引っぱたく。侍女の手から落ちた櫛には髪の毛が何本も絡まっていた。彼女は新人だった。


「ごめ、ごめなさ……」


 鼻血を出して泣きながら謝る侍女には見向きもせず、美憂は侍女の血が付着した手の部分を凝視していた。彼女の目にはそこだけ若返っているように見えた。


「……ここの世界の化粧水の質って酷いのよね。ろくなのない。ねえ? 召使いなら主人のために死ねるわよね?」

「は、はい?」

「あたしの世界にね、美貌を保つために少女の生き血を浴びた王妃様がいたんですって。本で読んだ時はそんなの本当かなあって思うじゃない? でも本当かもしれないじゃない? 漫画とかでは、究極の物質の正体が人間だったなんてよく聞く話だし……ねえ?」


 言いながら、豪華に花を生けてあった壺を抱える美憂。 


「どのみち躾けのなってない侍女なんていらないのよ!」



 ――――すんでのところで、ルセが美憂を突き飛ばした。侍女は無事だったが、恐怖のあまり逃げるのも忘れて失禁していた。

 確かに躾けがなってない。二人も呼んで予定外の人員補充の必要があったとはいえ、微妙なのを入れてしまったとある意味では、美憂に同意するルセ。


「ちょっと! よくも美憂を突き飛ばしたわね! ただの世話役のくせに何様のつもり!」


 激高する美憂を宥めるルセ。しかし宥めながらも、何でこんな奴が花嫁なんだろうか、歴代最悪じゃないかと心中で悪態をつく。


「落ち着け、花嫁ともあろう少女が情けない。この侍女が悪いならこっちで処分するから、お前がやらなくていいだろう、な?」

「あたしするわよ、殺せばいんだから」

「……本気か? 冗談きついぞ」


 舐められてる、と美憂は思った。最高の身分として異世界に来たはずなのに。あの日、いつもの帰り道。夕夏と歩いていると、突然地面が消えた。マンホールが外れていたのか? と思って慌てて夕夏にしがみ付いた。そしてここに居た。だから、美憂が花嫁で間違いない。なのにどうだ。

 偽物の夕夏を追い出すこともせず、あたしが一日遊んでいたら外聞が悪いと注意され、男を複数侍らそうとするとよく考えろとお小言。

 あたし、一番偉いんじゃないの? こんなの学校にいるのと変わんないじゃない。元の世界だって社長令嬢の美憂に自由平等とかいってその他大勢を押し付けたけど、ここまで小うるさくなかった!


「誰かこの世話役を! ううん妖精を追い出しなさい! 花嫁の命令よ!」


 駆けつけた召使い達は戸惑った。花嫁はそう言うが、はっきり言ってこの世界の人間には、花嫁は偉いが代えがきくもので、ルセは代えのきかない重要な存在なのに。今回の花嫁も所詮、今まで何人も来た中の一人なのに。

 ルセは空気を読んで、追い出す振りをしてくれと目配せした。召使いに囲まれ、ルセは部屋から退出した。それに紛れて粗相した侍女も連れ帰った。


 一人になった美憂は侍女までいないことに気づいてまた怒鳴り散らす。


「なんなのよ! ふざけやがって! 馬鹿にして! あたしはあたしよ! 誰かの代わりじゃない!」


 自分でも何故そう思うのか分からない。もしかしたら美憂は、ルセが本心では自分を見下していること、この世界の人間が常に誰かと自分を比べていることに無意識に気がついていたのかもしれない。



『忙しいのよ。部下の家の夕夏ちゃんところにでも行ってなさい』


 結構名の知れた、会社の一人娘だった。父も母も幼い時から忙しく、いつも一人だった。甘えようとすると両親は、近所に住む同い年の夕夏のところへ行けとよく命令した。娘を娘とも思わない両親だ。部下にベビーシッターを押し付けるくらいなんでもない。


 父と母に愛された夕夏は、無邪気なイイ子ちゃんだった。それが癇に障って、クラスの男子に金を握らせてあいつの裸を写真にとって奴隷にしてやった。やらせといてなんだけど、本当に実行する奴もどうかと思う。ともあれ、あたしは忠実なトモダチを手に入れた。……え? 皆こうやって友達つくってるんじゃないの? 輪の一人が抜けたら、一斉にそいつの悪口を言ってるの見たらそうかと思ってたのに。


 雑用とか面倒くさいことはみんな夕夏にやってもらった。しばらくは楽しい生活だった。けどある日、それは白雪姫の鏡みたいに起こった。夕夏を置き去りにして、いつもより早く教室に入った朝。


『あの二人、美人だけど……夕夏ちゃんのほう性格いいよな』

『いくら金持ちで美人でも、性格最悪とか勘弁って感じ』


 その二人は親に頼んで地方に行ってもらった。これで問題は解決したのに、気分はずっと優れない。そしたら美容室で「白髪生えてますよ?」 と言われた。見たやつは消えてもらった。


 あたし、特別なんかじゃないのかも。

 そう思うのが、一番怖かった。両親がいつもいないのも、友達の作り方も分からないのも、人の頼り方や甘え方を知らないのは、自分が特別だから。だから絶対、惨めな存在なんかじゃない。そう信じていたかった。



◇◇◇


 魔術師は魔力が少し回復したのを確認して、鏡に魔法をかけた。


「あの世界は今、どうなっているのか映してくれ」


 鏡は魔術師の要望に答えた。そこに現れたのは――――。


「何だこれは……」


 日本ではあの二人をモチーフにした映画が公開されていた。ここに至るまでの過程が分からず、時間を遡って映してもらう。


 女子高生二人同時失踪は多少のニュースにはなった。手がかりが全くないことから神隠し、プロの犯行と取りざたされたが、それで終わるはずだった。


『話題のJKズ美人すぎだろ!』


 パソコンの中のネットという世界で、彼女らの写真が流出したのが悲劇の始まりだった。時期は春の嵐のころと思われ、砂が目に入って痛がる清楚な美少女夕夏を、風から庇うように立っている……ように見える大人っぽい美人系顔立ちの美憂の写真。想像を掻き立てられるというか、新しい扉を開けるようなクオリティだったというか、まあとりあえず変な奴らを呼び込むには充分だった。


『俺の考えた二人の関係!』


 数日後、画像投稿サイトにおいて、百ページにも及ぶ美憂と夕夏の軌跡(捏造)が掲載された。それによると二人は相思相愛で、許されない愛に悩んで誰も知らない場所に駆け落ちしたという事になっていた。


『俺が考えた二人の生き様!』


 次は小説投稿サイトで、二人の愛のメモリー? が少々下品な文体で掲載された。肖像権とR18に触れて、どちらもすぐに削除されたのだが、無駄にいい出来だったのが災いし、消してもまた上がるという謎の現象が起きた。


『えー次のニュースです。先日の二人の女子高生失踪ですが、何故かネットでは二人について様々な憶測が流れるという現象が……』


 次に暇なニュース番組がこの現象を取り上げた。放っておけば忘れるだろうに、また話題にしたことで現象は延命した。


 そして二人の写真を見て感動したらしい某映画監督が、あからさまに二人のことだと分かる映画を作ってしまった。不謹慎だ、いやいまだ見つからない二人を探すためには効果的だとの論争もあり、映画は社会現象になった。


 ここまで見て、美人はどちらかというと損だな……と魔術師は思いながら、鏡の視点を美憂と夕夏の両親へと移動させる。


 苦しんでいたのは、夕夏の両親だけだった。


『美憂さんのご両親は映画を受け入れたそうよ』

『……』

『あんな……あんなデタラメだけの映画をよくも……うちの娘が同性愛なんて! 私には無理して付き合ってたように見えたのに! あいつら会社の経営が悪化したからって! それに娘のネグレクト疑惑を報道した週刊誌は、コネでもみ消したっていうし!』

『よしなさい。あれは……別人だ。そう別人の話だ。いいからチラシを印刷しよう。明日は○○の駅で配るんだ』

『あなた……。そうね、こんなことで怒るより、少しでも娘の情報を集めるのが大事よね……』


 どうやら二人は、休日のたびに地方をめぐって娘の情報提供を呼びかけているらしい。無駄な事を。同じ世界ならまだしも……。


 そこまで見て、魔術師は一旦映像を止めた。そして考えた。元に戻すならやはり夕夏のほうだろう。美憂の両親と違い、夕夏の両親が気の毒だ。しかし……。

 気になることがあって、魔術師は今夕夏を戻した場合を鏡に映した。


『この裏切り者! 美憂ちゃんが可哀相だ!』


 その場合、夕夏は映画の熱狂的信者に刺されて死ぬらしい。ちなみにそいつは、夕夏を殺すために家に押し入り、庇おうとした夕夏の両親をも惨殺している。


「……では、こちらに来る直前なら」


 この場合、夕夏は精神病院に居た。直前まで一緒に居た人間ということで、長期間にわたって警察にマークされ、精神不安定になりがちだったところに、昔美憂に壮絶な苛めを受けたことが明るみになり、夕夏は口走ってしまった。

『美憂なら異世界で王妃やってる! 妖精に傅かれて豪華な暮らししてたもん! だから私は関係ない! 何もやってない!』


 発狂したと思われて、少しでもよくなるようにと強制的に入れられた。そこがまたやぶ医者的な病院だったから、夕夏は本当に気が狂ってしまった。

『あはは……あはは……』


 ならいっそ、帰すのを美憂にすれば? そう思って今帰すのと直前に帰すのパターンを両方見た。どちらにせよ「どうしてうちの娘は戻らない」 と詰め寄った夕夏の両親が悲惨な末路となっていた。


 もう両方を帰してしまえば……。それだと一生夕夏は美憂の奴隷だった。それどころか、今二人同時に帰せば一生映画の影に付きまとわれ、直後でも「お前のせいで花嫁になれなかった」 と夕夏は苛められ続ける。



「……どうすんだよ?」


 黙って後ろで眺めていたルセが呟いた。それに答えず、八方塞な現状に頭を抱えていると、ルセがまた何か言ってくる。


「俺は……美憂を廃するのは賛成だけどな。ダメだあれは……プライドばっかり高くて。少しでも良い所や操りやすい所があればまだ何とかなったが、相当昔から我侭に慣れてるらしくて手遅れだ。俺の手に負えない。放っておけばいつか死人が出るぞ」



 それを聞いてついに魔術師は決断した。美憂を消して夕夏を後釜にすることを。



◇◇◇


「申し訳ありません。本物は貴方でした」


 私をここに呼んだ魔術師が、私が軟禁されている部屋に現れてそう言った。

 私が、本物?


「さあ、身支度を整えて」


 ふよふよと飛ぶルセくんが呼び鈴を鳴らすと、童話のお姫様みたいな衣装をたくさん抱えた侍女さん達がわーっと出てきた。


「え? え? ちょっと待ってください、美憂は?」


 魔術師さんやルセくんは見てても変化なかったけど、周りの侍女達はすぐ分かった。強張った顔してたもの。でもその後にちょっとほっとしたような顔。

 美憂、もしかしなくても、死んだか殺された?




 ざっまあああああああああああああ!!!!!


 七歳の頃からあいつに我慢してた。公園のトイレに連れ込まれてとても口に出来ないようなことをされて、私はあいつの奴隷になった。お茶がぬるいと怒鳴られ、ケーキが食べたいと言われて買ってくればクッキーの気分だったのにと叩かれ、学校まで二人分の鞄をもって、トイレだってあいつより先にしちゃいけない決まりだってあった。

 そんなあいつが、良く躾けられた奴隷もいない環境で上手くやれるわけがないと思ってたけどね。少しでも我慢するのが嫌で、人が苦しむのを見るのが好きな根性悪だから、破滅するんじゃないかって予想はしてた。

 ああせいせいした。生きてても嫌われただろうけど、死んでからも恥晒して地獄に行けばいい。


 ……そんなことはこの人達の前では言わないけどね。ただ悲しそうに目を伏せて、そうですかって言うだけ。私は聞き分けがいいの。奴隷生活長かったしね。



◇◇◇


 それからは、人として当たり前の行動をするだけで、私は聖女みたいに言われた。


「ほんと、前とは大違い」

「素晴らしいわ。私にも声をかけてくださるのよ。先代と違って」

「いつも不満顔だった美憂とはうってかわって、彼女の笑顔の爽やかなこと!」


 そんな賛辞にも「そんな、おおげさです」 と笑いをこらえて返す。そうすると「謙虚なのも素敵!」 と返ってくる。美憂のやつに感謝することがあるとしたら、私の良い引き立て役、いいえ踏み台になったことかしら? ふふ。


 そんな日々に充足感を覚えつつ、部屋に戻る。そこには、悪魔がいた。


「最悪だ、最悪な人間の気配だ」


 真っ黒で角の生えた、まさに悪魔と言った風情の何か。恐怖を通り越して声も上げられない。この世界って悪魔いるの? そんな私の心境を知って知らずか、悪魔は囁き続ける。


「お前もしかして、自分が美憂の被害者だと思ってるんじゃないか? とんでもない。確かに我侭なやつだったが、尽くすお前に両親の地位をプレゼントしたこともあっただろう? お前が熱を出したら、早く治して学校へ来いと高い薬をもらった事もあっただろう? お前、たまに様子見に来る疲れた様子のルセに、美憂の暴走を感じながら何もフォローしなかったな。美憂は自覚のない悪だが、お前は自覚のある悪だ。善人ではない。そんなお前が聖女だって! バカらしい! きっとろくな死に方しないな!」

「うるさい!!!」


 叫び声を聞きつけて、ルセくんが飛んでくる。


「助けて! 部屋に何かいる!」


 ルセくんの背後に隠れる。魔物がいる世界だったなんて知らなかった。私じゃ何もできない。


「……何もいないぞ。魔力のかけらも感じない。夢でも見たんじゃないか?」


 その言葉で部屋を見回す。……いない。誰も、何も。そんなはずは……。


「夕夏……そんなに美憂がいなくなったのがつらいか?」


 動揺している私に、ルセくんは見当違いなことを言い出す。でも仕方ない。私は友人思いのいい子っていうキャラだから。


「大丈夫。ごめんね。クローゼットと見間違えたみたい。おやすみなさい」



◇◇◇


 しかし悪魔はそれからも私に付きまとった。


「聖女? 笑わせる! 両親のところへ帰ろうとしないくせに!」

「王子と結婚だって? 美憂が亡くなって半年もしないうちにか!」

「妊娠おめでとう! お前の子ならきっとお前も子供に捨てられるな!」


 ちがうちがうちがう。だって魔術師が止めるんだもん。ルセが言うんだもん。戻るとよくないことが起きるって。この地位にいる以上、子供産むのが仕事なんだもん。私は悪くない!



 悪く……ない……。



◇◇◇



「少し気になったので、司法解剖させてもらいましたが……。一体どんな環境でお過ごしだったのでしょう? 中身がボロボロでした。まるで老人のように。王妃なのだからそれ相応の暮らしだったはずですが。何か強いストレスを感じるようなことがあったのでしょうか。いえ、原因はそれ以外考えつかないので……」


 夕夏は若くして死んだ。それでも良い環境下で子供も産んだからとカウントされるようだ。


 魔術師の館で定期報告を終えたルセは、美憂と夕夏の墓に花を供えに行った。死んでみれば、ただの骸。今は二人が安らかに眠ることを祈った。




 次の召喚準備の前に、身支度を整えていた魔術師は、ふと鏡に呼びかける。


「夕夏の……」


 両親はどこかの駅でビラ配りをしていた。娘の情報を探していますと書かれたビラを「お願いします、お願いします」 と配っていた。

 気になったからといって、確かめるのではなかった。麻痺したはずの良心が疼く。そう思って、魔術師は鏡に布を被せた。

りょうしんは囁く

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