プロローグ
ここではないどこか、とある異世界。その異世界では魔力が存在していました。
その異世界の大地も、魔力で出来ていました。そこに住む人間達は、発展のために大地を削って魔力を奪います。
底知れぬ貪欲ぶりにやがて大地は怒り、生贄を与えねば恐ろしい天災を引き起こすようになったのです。
人間達は迷いました。既に天災で人口が著しく減っているのですから。これ以上仲間を失うなんて。それに誰を生贄にするかで、全員が疑心暗鬼になりました。そして大地の要求する生贄は『魔力の優れた者』 大地が怒れるほど魔力を衰退させた現在では、まともな魔力を持った人間が生まれてこないようになっていました。まさに八方ふさがりでした。
そんな人間達の前に現れたのはある妖精でした。「自分を崇めれば、異世界から適当な人間を拉致してくる」
人間達は大いに喜びました。自分達に一切の負担が無かったからです。
その妖精はルセといい、魔法の発展による世界の魔力激減によって凋落した、かつての大神でした。ルセがこんなことを申し出たのには勿論打算があります。「失われた大地の魔力が戻ったら、自分は神として再び世界に君臨できる」
異世界を見回した結果、ある世界の国の少女が一番魔力を持っていたことに気づきます。手当たり次第引っ張り込み、その数は十五人にのぼりました。
最初の生贄の少女は途中でこちらの思惑に気づき、激しく抵抗しました。仕方なく餓死寸前にまで追い詰めてから地核に投げ入れました。これに懲りてルセは、徹底的に酷い目に合わせて生きる希望を奪い、自分から死ぬように仕向けることにしました。
何人目かの少女が――もう誰なのかも覚えていないが――虚ろな目で言った台詞。
「いつか、生贄にされた少女達の誰かが、ルセ、貴方に復讐をするでしょう」
魔力の使い方も知らぬ小娘が何か言っている。そうせせら笑って、ルセは少女を突き落とします。
そして十五人目の少女。人食いの家付近に落とし、欠損体にして、まともな人間ではないと思わせ、自分から地核に消えた。今度も成功だ――そう思ったがその時だった。
少女が誑かしたであろう男がルセを刺したのです。
「……世界、を、ほろぼす……気か!」 それがルセの最後の言葉となりました。
弱い少女が大いなる存在に一矢報いた、という単純な話ではありません。ルセのしたことは外道そのものでしたが、一応は世界を救うためだったのだから。
ルセが消えた世界は、再び天災が吹き荒れます。生贄を提供していた存在が消え、自分達で何とかしようにも適性がない。人々は再び嘆きました。これで世界は終わりだと覚悟したその時、どこからか『魔術師』 と名乗る者が現れます。
「大地が荒れるのは魔力を欲しているからだ。しかし諸君らには魔力が無い。ならこうしよう。かつてルセがしたように、私が異世界から再び少女を呼ぶ。殺すためではない。少女を魔力を産む道具とするのだよ。そのほうが生産的じゃないか。大地の怒りも、膨大な魔力を持った少女の生きている間は抑えられるのだから」
目から鱗のその発想に、民は魔術師を受け入れました。「むしろどうして今まで考えつかなかったのか」 魔術師はそう呟きましたが。
さて、魔術師は民から賛同を得て、魔法を発動させます。まずは……。
「起きろ、ルセの魂よ」
潰えたはずの魔法を使い、かつての神――妖精に堕ちたルセを呼び戻します。
「何だ、お前は」
ルセはふてぶてしく返事をします。その態度は、全てを承知しているという風でした。
「記録によると、十五人だそうだな。お前がこの世界で殺した少女達は」
「だからなんだ。言っとくが、それやってなかったら今ごろ世界は滅んでんぞ」
「分かっている。だが、何の報いもないという訳にはいくまい。そこで提案だ。お前はこれから、亡くなった十五人と同じ数だけの少女を、この世界で幸せにするんだ」
「はあ? 無理矢理よんで幸せもクソもねーだろ!」
「召喚には条件をつける。恵まれない少女達だ。お前に拒否権はない」
こうして、かつての大神ルセは、異世界から召喚される少女のお目付け役に任命されました。実に奇妙な任務でした。
そして魔術師により、異世界から少女が呼ばれます――――。




