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8話 昼食時、無邪気な親友と主夫な兄



昼である。

確認するまでもなく、教室内のクラスメイトたちは、机を寄せ合い持参した弁当を広げる者や、各々の友人同士で声を掛け合い食堂へ向かう者などで、思い思いの昼休みを満喫し始めている。では、なぜ分かり切っている事を確認しているのか、と問われても答えにくい。

そういう気分は誰にしろあるものだ。


「昼飯の時間だぞっ」


声を掛けられた方を見やると、一人の男子が立っていた。何が楽しいのか笑みを浮かべているその男子の名は、葛城かつらぎ 京也きょうや、四年前、つまり中学生の時に知り合い、妙に懐かれてしまったのがきっかけで、その後も偶然なのか同じクラスが続き、四年の付き合いになる友人である。

顔付きは高二の割には幼く、丸い瞳に小顔で、笑う姿は正しく無邪気なモノだ。身長が低い事もあってか、上級生の女子生徒たちには人気がある事を聞いたことがある。ただ、本人は自分の容姿が不服らしく事あるごとにショックを受けている様。

実際、こいつから髭を剃ったことが無いと言われた時にはなんとなく気苦労が分かった気がしたものだ。


「要っちは弁当?学食?」


『要っち』。この上なく恥ずかしい愛称は、出会った当初から言われ続けている忌まわしき呼び名だ。

思わず、睨み付けてしまうが、相変わらずの笑顔を見るかぎり、俺の呼び名は『要っち』のままなのだろう。当に諦めているのもあるけどな。


「弁当だ」


素っ気ない答えでも京也には関係無いようで、輝かんばかりの笑顔を残して自分の席へと駈けていった。

その突飛な行動に眉を潜めてしまうのを感じつつ、京也の行動を見守る。

まず、鞄を漁り猫柄の包みを取り出すと、またもや輝かんばかりの笑顔を浮かべこちらへと走ってくる。包みと椅子を持って。

オチが読めた。


「がふっ」


案外、教室というのは狭いものだ。生徒分の机に椅子、机に掛けてある各々の鞄やバッグなどで自然と行動を制限されてしまう。その為、安易に動き回ろうとするならば、それ相応のリスクを伴う。

結果としては机の足に、小指をぶつけたり、華麗に避けようと足をもつれさせ、派手に転けたり。自分に返ってくることが多い。


しかし、京也は違った。走るという行為は自然と腕を振る形になる。素手ならばまだしも、椅子が加わっているのならば既に凶器だ。そして教室内には食事や友達と話している者が居るという事。あはれ、クラスメイトAは無邪気な椅子の強襲を鳩尾に受け、その場に崩れ落ちた。

そのすぐ傍で彼と談笑していた男子は、茫然と崩れ落ちた彼を見下ろしている。天災だと諦めるのを切に願うばかりだ。


「今日は、オレも弁当。一緒に食べようなっ」


つい今し方、無力なクラスメイトを一撃で沈めたとは思えない無邪気な笑み。恐らく、気付いていないのだろうが。

その容姿に似合う、猫がプリントされた弁当袋を俺の机の上に置くと、いそいそと包みを開き始めた。

感触すら無かったのか?


「おっ、おにぎりに卵焼きだ。エビフライもハンバーグも旨そうっ」


なぜか、俺一人だけ取り残された様な気持ちに。結果論からすれば、俺は関係ない。だけど居たたまれないこの感情はなんだ。

目の前では、弁当に箸をつけ始めている京也の姿。好物ばかりの品数にとろけた表情だ。


悩んでいる自分が馬鹿らしくなったので、胸につかえた疲労感をため息で押し流しつつ、鞄から弁当を取り出す。ちなみに俺と妹の弁当は我が手作りである。かなめも今頃は友達と食べている頃だろう。


「ん?要っち、昼ご飯たべないのか?」


頬一杯に弁当の中身を詰め、器用に尋ねてくる京也。何故か、今朝の美鈴ちゃんと重なって見える。

ああ、二人とも似てるからだ。性格ともに体型も。


「しかしさぁ、要っちの弁当って何か堅苦しいよ」

「人の弁当を見るなり、それか?」


何やら、不満げに言ってくる京也を多少睨んで自分の弁当に目を落とす。

鶏ロールの照り焼きに一口大のオムレツ、いんげんの胡麻和え。ちょっとした隙間には野菜を詰めている。我ながら頑張って作った弁当だ。リンゴのウサギが可愛いじゃないか。


「なんていうか、お母さんのお弁当って感じ」

「殴るぞ」

「オレの弁当なんか、大好物ばっかりっ。姉ちゃんは分かってるな〜」


そう言って、再び自分の弁当に箸をつける京也を尻目に、京也の姉は弟の好物は子供が大好きなメニューと思ってるんだろう、と確信めいたモノを感じつつ、自分の弁当に箸をつけ始めたのだった。



字数を平均的にしたいものです。         新キャラ三回連続。収拾がつかなくなる前に考え直さなければ(汗)                 それでわ、また次回。

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