5話 登校時、呆れる兄と照れる妹
見上げると雲一つ無い空。寝呆けきった頭には少し辛い太陽の光。あちらこちらで聞こえてくる挨拶の声。通りには、俺たちと同じ学生や仕事に出かける方々の姿。
そろそろ、行こう。
振り返った先には涼しげな顔の女性が立っている。俺が彼女に笑いかけると
「いってらっしゃい」
微笑み付きの挨拶を送ってくる。その言葉に頷き、俺は流れ行く人々の中に加わるのだった。
「兄さん、何か言ってくれないと悲しいのだけれど」
知った事か。勝手にボケてきたのはお前だ。
寝呆けた頭でツッコム気力は全く無い。朝から疲れるのは勘弁してほしいので、かなめのボケには極力、反応しないようにしよう。
規則的に通りを進む。後ろを着いてきているであろうかなめは、諦めたのか静かだ。
しかし眠い。静かなのは良いことなのだが、黙っていると眠くなってきてしまうもので、
「そういや、鍵は閉めてきたんだろうな?」
先程の決意はどこかに捨て、つい話し掛けてしまう。だが、返事が無い。着いてきてないのか?
と、肩を叩かれる。さっきの事をまだ拗ねてるのだろうか、回りくどい奴だ。
振り向こうとした先には、指。その先には何処か嬉しそうに目を細めたかなめの姿。
考えている間に、かなめの人差し指が俺の頬に当たる。コレをされると憮然としてしまうのはなんでなんだろうな?
「何がしたいんた?」
答える気は無いのか、当たっている指をグリグリと動かしてくる。それが答えだと言わんばかりに。
抵抗しないかぎりするつもりか、お前は。
癪に触るのと、往来の目が気になるのですぐさま止めさせる。文句の一つでも言うかと思っていたが、その表情は満足気で、トコトコと俺の横に並んできた。
「兄さん、ボケを流してはダメよ」
「今更、蒸し返すか?」
我が妹ながら読めない奴なのは分かっていたが、こうも如実に表されると困るばかりである。
まぁ、そのあたりは流してしまえば良い。かなめとのコミュニケーションをとるために必須だ。少しの決断力と惰性、後は諦めとかそういう感じなモノを駆使すれば出来るから。
取り敢えずはかなめの質問に答えてやるとしよう。
「朝から漫才をする必要があるか?」
質問で返してしまったが、しごく当たり前な答えを言ったと思う。
が、かなめに通用する訳もなく、思い切り嘆息されてしまった。
「円滑な人間関係を養うためには必須なの。兄と妹との漫才なんて当たり前だわ」
表情こそ真剣そのものだが、言っていることは無茶苦茶である。かなめの脳内では世界中の兄妹が出かけに漫才をしているのだろうか?一度、頭の中を覗いてみたいよ。
どうしようもなく呆れ果てているのを肯定と受け取ったか、一つ頷き、眠そうな半眼でこちらを見てくる。質問をはぐらかすつもりだったんだが、バレてたみたいだな。
面倒だが答えるより他は無いようだ。
「学校の制服を着て、登校の準備ができてる妹に見送られてもツッコミを入れる気がしなかったし、なにより寝呆けててお前のボケに構う暇はなかった。というか、構って欲しいならちゃんと言え」
途中で妙なボケを入れられぬように、一息で告げてやる。ちょっと間が抜けた表情をしているかなめが可愛かったりしたが、異次元にでも葬っておこう。
やがて、ぽかんと口を開けていた事に気が付いたのか、取り繕うように表情をいつもの涼しげなソレに変えた。頬が赤く染まっているので無駄な行動となっているのには気付いていないようだ。
「顔、赤いぞ」
それでも忠告してやると、急に歩のスピードを早めて、十字路を曲がって行ってしまった。
どちらにせよ、曲がらなければ学校に辿り着かないので俺も続いて曲がる。
「何してるんだ、お前は」
曲がった先には少し俯いて立っているかなめの姿。
そしてボソリと、
「兄さんに迷子になられたら困る」
頬の赤みが残った状態で呟く。それが照れ隠しなのか、いつものボケなのかは定かではないが。
なんとなくムカついたのは確かである。
なんだか、二人のキャラが定まっていないような。 ダメだなぁ。 次は新キャラ登場、です。きっと(汗)