4話 怠い日曜の就寝前
何時の間にやら夜もふけ、そろそろ就寝の時間が近づいてきた。
時刻は十一時前、あの後、クッションを投げてやった後に妹が反撃してきた為、応酬合戦になってしまい、凄まじく疲れたので今日は早めに寝る事にしよう。
明日から、学校だし。学生の本分は学業です。
「で、俺は寝るぞ」
人様のベット上で雑誌を読みふけている妹に進言する。涼しい顔で読んでいるのがムカつく。
「兄さん、まだ十一時にもなっていないじゃない。学生の本分は夜更かし、遅刻の繰り返しよ」
真面目に学業を取り組んでいる学生たちに喧嘩を売る発言を、寝そべった状態で告げる妹の将来が心配である。
その真面目な学生たちに自分は入ってはいないから、強くは反論できないが。
ともかく、このままでは俺の安眠が奪われてしまう。適当に構ってやるか。
「何の雑誌だ?」
「ファッション誌」
妹も女性だ。やはり、気になるのであろう。その面持ちは真剣である。
自分の部屋なのに突っ立って居るのも馬鹿らしいので、ベッドの淵に腰掛け、覗き込んでみる。
開いてあるページには、流行の服装を身にまとい、それぞれのポーズで写された男女。皆、笑顔で写るその姿は確かに似合っていた。ファッション誌だから当たり前か。
「兄さんは、こういった雑誌に載せてもらいたいと思った事はある?」
「唐突だな」
「会話なんてそういうものよ、質問だと特に」
何故か、諭されてしまった。というより唐突な発言を行うのは妹であって、断じて俺ではない。
いかん、危うく丸め込まれる所だった。
「そういう事にしておいて。さっきの質問だけど、俺は無いな」
そこまで告げると、妹が雑誌から目を離し、こちらを見てくる。非常に驚いた顔で。
これはあれかな、ケンカ売られてると解釈していいのか?
しかし、ここで早合点する訳にもいかないので聞いてみるとしよう。
「お前な、俺の事をなんだと思ってるんだ?」
目を逸らされる。
僅かな希望なんて絶対に信じるか、この野郎。
自分の容姿ぐらい把握しているつもりである。ボサボサに延びた髪に、吊り上がった目尻、目付きが悪いと注意される事も多々あった。
身長は高校の男子生徒平均なみ。体格はやや細いので、会う人に心配されてしまう。そのおかげか、よく食物を貰えるので、この点だけは差し引きゼロかも知れない。
とにかく、この容姿でファッション誌に掲載されようとは微塵にも思っていない。言ってて、虚しくなってきた。はぁ。
反論する気力もつき、ふと、元凶の妹を見るとまたもや雑誌を読んでいた。
今更だが、自由すぎやしないか?妹よ。
「お前はどうなんだ?」
手持ちぶさたになってしまい、何気なく聞いてしまう。妹ほどの容姿なら、街を歩くだけで声を掛けられそうだが。
「私は、無理よ」
だが、返ってきたのは想像していたのとは、まるきり違うものだった。
「友達にも言われたのだけど、私は無愛想だし」
愕然とする俺など気にしていないのか、少し頬を染めて、照れ臭そうに話し始める。
ここで、愕然してしまった理由ついてに語らなければならないだろう。
我が妹、間宮 かなめは間違いなく美人の部類に属する。兄としてのひいき抜きにしてもだ。
腰まで伸ばしている艶やかな黒髪に切れ長の瞳、だいたいは眠そうな半眼だが、置いておく。
体重までは恐ろしくて聞けないが、身長は俺と同じか少し低いくらいだが長身。華奢に見えるが、スタイルは良い。生憎とスリーサイズは知らないけど。
今でこそ犬がプリントされたパジャマを着ているが、何を着せても似合うのは間違いない。
もし、俺が流行の服装を着たとしても、頑張ったんだね?と言われるのが関の山だろう。
なんだか無償に腹が立ってきた。妹に嫉妬なんかしてないぞ、俺。
「そういう訳だから、私は無理よ」
と、聞こえてきた方を見ると頬の赤みが少しばかり残るかなめの顔。
いかん、全く聞いてなかった。
取り敢えず、頷いておく。かなめの目付きが少しばかり恐いのは考えないでおこう。
「兄さん、聞いてたの?」
「ごめんなさい、聞いてませんでした」
即座に謝る。
兄としての威厳など年を重ねるごと無くなるものだ。
かなめの目が、更に細くなってきた。美人に睨まれると予想以上に恐いよな。
馬鹿みたいに現実から逃避していると、ふっと、かなめの目尻が柔らかいそれに変わった。
「私も寝ようかしら」
そう宣言しつつベッドから起き上がり、ドアへと向かっていく。ただ、呆然とそれを見送る事しか出来ない俺。
助かったのか?
「私は、どんな兄さんでも好き。もちろん、昔からね」
爆弾を残して、かなめの姿がドアの向こうへと消えていく。
後に残ったのはこの上なく間抜けな顔をしているであろう俺だけとなった。
一体、なんなんだよ。
少し、長くなってしまいましたが、ようやく二人の容姿と名前が書けました。 次回からは学校編です。緩い展開に拍車をかけるとは思いますが、よろしくお願いします。