3話 怠い日曜のおやつ又は昼ドラの時間
時刻は三時。
所謂、おやつの時間と呼ばれる時刻である。他にも呼び方かあるのかも知れないが、あいにく俺はそう認識している。
さて、この時間帯でテレビの電源を入れると映るのは昼ドラだろう。ドロドロの、おやつの時間なんて霞むぐらいな。
「ドロドロしてるわね」
「ああ、ドロドロしてるなぁ」
俺の肩に背中を預ける形でソファーに座り、ぼそりと呟く妹。ついつい、同意してしまうほどドロドロしてるのだ。具体的には説明できないが、なんかもう恐いよ、女性って。
「ダメな男ね」
確かに、画面に映る主人公級の男性は誠実そうに見えてヘタレの様だ。登場する女性全てに良いように扱われ、その場しのぎのセリフで余計にドロドロさせている。
だけど、胸が痛いのはなんでだ。
「本末転倒ね」
なんだか、無性に部屋に逃げ込んで思い切り泣きたくなってきた。けっして、俺に言っている訳じゃないと信じたい。
と、何か引っ張られる感触が。そちらに目をやるとなにやら神妙な顔つきの妹。いつになく真剣な眼差しに思わず、身を固めていると、
「例え、兄さんがそうであっても私だけは味方よ」
なんかもー、ぶん殴りたくなるセリフを真剣な面持ちで言ってくれた。
純度百%の嫌がらせだよ、お前の中では俺はどこまで堕ちてるんだ?
「出会う女性に良いように扱われて、言われるがままに甘いセリフを吐いて、いざ修羅場になると、自分は関係ありません、とでも言いたげな顔でその場に居るような落ちぶれた男性になっても、私は決して悲観したり、蔑みはしないわ」
「なら具体的に説明するんじゃないっ」
すらすらと、具体的かつ分かりやすい人生を語ってくれた妹に思わず、ツッコミを入れてしまう。
というか、長くて嫌に現実味があるセリフを淡々と真剣に語れるお前に感心してしまった自分を消滅させてぇよ。
もっとも、俺のツッコミなど気にも止めていない様で、妹の視線は昼ドラだ。
コイツが、俺の心情を気にする訳がないのは知ってはいるが、何故か淋しい。
しかし、やられっぱなしというのも兄の威厳に関わるので、些細だが仕返ししてやろう。
相変わらずの無表情で、喋る事無くテレビを眺める妹の横顔を見つめる。ドロドロの展開に目を離せないようだ。
ちょっと笑みを浮かべたのが気になったが今がその時である。ターゲットは捉えている、距離は問題ない。心の準備はとうに出来ている。妙なテンションだが、今こそっ。
「ふぅー」
「ひゃっ」
任務完了、目標の戦力は確かに削がれた。耳を押さえて飛び離れ、顔を真っ赤に染めているその姿からはっきりと見て取れる。
要は、妹の髪から覗いていた耳に息を吹き掛けただけ。何故か、耳が非常に弱い妹の弱点を的確に突いた、俺の勝ちである。
仕返しが小さいとか、ただの変態じゃんとかそういうツッコミは受け付けていないからあしからず。
さて、飛び退いた妹は依然として顔は真っ赤で、何やら言葉が出ないのかパクパク口を動かしていた。素晴らしい威力である。
新鮮な表情も見れた事だし謝ってやるかな。
自然と顔がにやけてしまうのを、極力、押さえながら妹に声を掛けようとしたのだが。
「ま、まさか」
顔は赤いままだが、愕然とした表情で呟かれる。そして、ふっと視線をさ迷わせ、
「兄さんが耳フェチだっぷっ」
アホな事をほざいたので、傍にあったクッションを思い切り投げつけてやりました。
兄妹の容姿が触れられていませんが、次回にて書きますのでご容赦ください。 さて、なんとか一日一更新が続いています。なんちゅーか、奇跡? でわ、次回の後書きで。