10話 下校前、悪魔の様な副担任と帰れない兄
刻々と下校の時刻が近付き、窓越しに見える景色は茜色に染まりつつある。周囲のクラスメイトたちは疲労困憊している様で一様に机に突っ伏していた。一つだけ主を失った席があるが、それについて触れるのは止めておこう。
自業自得。
と、教室のドアが開く。入ってきたのは微笑む春日井先生その人である。その笑みがいつもより深く見えてしまうのは錯覚だと思いたい。
「皆さん、席に着いてください」
その鶴の一声によって、席に着くクラスメイト。もとより、席に突っ伏している者が過半数だったため、さしたる時間は掛からなかった。
「出来るなら、すぐにでも皆を帰させたい所なのですが。少し皆にやって貰いたい事があります」
微笑みだけは天下一品なその言葉に、教室内に落胆のため息付きで嫌な雰囲気が漂い始めた。最後の授業で制裁を加えなければならなくなった者たちには更に辛いのだろう。どの顔も疲労感に満ち、上げていた顔を再度、突っ伏させる者が。まぁ、春日井先生の話は基本的に聞き手を疲れさせるのばかりだし。
「簡単なアンケートですから。ぱぱっと終わらせましょう」
そう宣言し、春日井先生の手元に置いてあった用紙が配られ始めた。
最前列の者に手渡され、ソレを後列の者に渡す。見慣れた光景とともに用紙が配られてゆく。
ここで、俺の席について説明しておこう。四十と並べられた机。その四隅、教卓より最も遠い際後部の窓側の席が俺の席である。隠れて何か行うには最も適した場所なのだが、それ故、教師の注意も自然と集まりやすい場所でもあるのだ。駆け引きを覚えるには最良の場所かも知れないが。
そういう訳で、配り方にもよるがテスト用紙など、学校からのお知らせなどといったモノを受け取るには必然的に最後となる。ぼうっと待つのも気が引けて、周りを見回していたのだが。
「うわー・・・」
悟ったような声が時折、漏れてくるのは何故だろう。それに伴い、春日井先生の微笑みが嬉しそうに変化してゆくのが物凄く恐い。
言い様の無い不安が押し寄せてくるが春日井先生の笑みが、逃がさぬ、とばかりに強烈なオーラを放っている為、諦めざるをおえないようだ。
「はい・・・」
哀しげな声音と、悟りきった瞳に失笑に歪む唇の絶望の表情と共に、いよいよアンケート用紙が回ってきた。
「うわぁ」
配られた紙、その内容はひどく簡潔で分かりやすく、皆に悟りを開かせるには十分すぎるものだった。
『今朝のHRにて、エロい事を連想した人はYES、していない人はNOに○を付けてください』
この教師、ほんと性格ねじまがってるよ。
「それじゃ、皆。ぱぱっと書いてくださいね」
にっこりと笑う春日井先生、もといドS教師の一言。勿論、ペンが走る音は無く、クラスメイトたちは固まったままである。よもや、実行するとは誰も想像できなかったのだろう。
というか、仕事中に何やってんだ。
誰も動こうとはせず、ただ時間ばかりが過ぎてゆく。
やがて、痺れを切らしたのか、春日井先生の眉が若干よせられ、小さく舌打ちする音が。
「未記入者は、アタシの独断と思い込みでYESにしますからね」
さらりと最低にして最悪な発言をしてくる。クラスメイトたちはただ唖然とするばかりだ。誰もが、アンタしだいで答え変わるじゃん、と思っているだろうに春日井先生の表情は涼しげである。
教職員ってセクハラで訴えても問題ないよな。
ギリギリでした。 急いで書くと駄文しか書けない、普通に書いても駄文ですが。 それでわ、また次回で