裏8話 屋上にて、素直じゃない妹と素直な子
妹視点のお話です。
見上げれば輝く太陽。
朝に比べ多少は雲が出ているけれど良い天気である。耳を澄まさずとも校内の学生たちの声が耳に届く。
春の陽気を感じながら私と美鈴は学校の屋上にて昼食を取っていた。
「かなちゃんのお弁当って先輩が作ってるんだっけ?」
「そうよ」
すぐ隣で自身のお弁当を食べながら問うてくる美鈴。お弁当の包みが、黄色一色なのがとても彼女らしくて似合っているな、等と今更な事を考えつつ自分のお弁当の包みを開く。
今日も美味しそう。
「わっ、凄く美味しそう。先輩って料理上手だよね」
彩り鮮やかな中身を物欲しそうに物色される。ヨダレが出てる、と指摘すると慌てて黄色の包みで拭き取り、恥ずかしそうに食事を再開。
「顔、真っ赤よ」
注意せずとも本人には分かっていただろうけど、心優しい私はあえて指摘した。途端、吹き出す美鈴。その声と動作については、本人の名誉の為、脳内でカットしておこう。
女の子だもの。
「あ、ウサギ」
改めて中身を確認すると、思わず笑みが浮かんできてしまう。前日の夜、リクエストしていたリンゴが、ウサギの形に切り飾られてこちらを見上げていたからである。
兄が真剣にリンゴと向かい合い、ウサギの形に整えているその姿を想像してしまい、頬が熱くなってきた。隣で、いまだむせている美鈴に気取られてしまわない様に、軽く咳払いをして、私は兄が作ったお弁当に箸をつける。
今日も美味しいわ。
気管にでも入ってしまったのか、止まない咳の音が少しばかり耳障りだが、気にせずお弁当に舌鼓を打つとしよう。
「っ。かっなちゃんっ」
「にゃっ」
急に復活を遂げた美鈴に、声を上げられ、体を揺さ振られた為、妙な声を出してしまう。思わず、顔が熱くなってしまうのを自覚してしまうが、それよりも大変な事態が起きてしまった。まさか、声を掛けられることはあれど、体を揺さ振られる事までは想定していなかった私は、大切なおかずを味わおうと箸で取っていたのだ。
ゆっくりと落下してゆく鶏ロール、私にはただそれを見つめる事しかできない。中には青じそと梅肉が挟まれ、醤油の芳ばしさと梅肉の酸味がご飯に良く合うのだ。
それを、それを。
「美鈴」
とコンクリートに転がり落ちたソレから目を離し、何やら憤慨した様子の美鈴へと顔を向ける。
次の瞬間にはその表情が強ばり、小さく息を飲み込む様子が見て取れたが、私にはどうでもいい事だった。
「か、かな、ちゃん?」
まるで怯えているかの様に目尻に涙を浮かべ、口角を引きつらせる美鈴に何時もの笑顔は無く、たどたどしく私に声を掛けてくる。
可愛そうに。
「何かしら」
ただ、返事を返しただけと言うのに彼女の表情は更に引きつった。その態度が少し面白いので続ける事にしよう。ちょっとだけ癪に触ったのもあるけれど。
「ここに落ちているのは何かしらね?」
落とされてしまった私のお昼ご飯を指差し、ゆっくりと問い掛ける。
美鈴はしばらくの間、私の顔と落ちているおかずを見比べ続けた。私の顔を見るたびに息を飲んでいるのが非常に気になるが。
やがて、美鈴の顔から血の気が引いていくのが、青ざめ始めた事で分かり、冷や汗らしきモノが額に一筋。
やっと、理解したようね。
「ご、ごめんっ。かなちゃんっ」
両の手を合わせ、すまなさそうに頭を下げる美鈴の姿、彼女の利点は素直な所だ。ケンカをしても、自分の非を認めて先に謝ってしまうその性格は、クラスメイトたちにも彼女の美徳として認識されている。
実の所、私もそんな美鈴の素直さが好きなのだ。
到底、恥ずかしくて言えないけれど。
ちらりちらりと瞳を動かし、こちらの様子を伺う仕草に毒気を抜かれ始めたのを自覚してしまった私は、小さく息を押し出した。
元は私が悪いのだし、許してあげようかしら。
「かなちゃんが大好きな先輩が作ったお弁当が食べれないなんて、かなちゃんには辛すぎるよね・・・ごめんね、かなちゃん」
口は災いの元とはよくいったモノである。私は自分の顔が真っ赤に染まったのを感じながら、きょとんとこちらを見やる美鈴の額に目がけて、力の限りデコピンを放ったのだった。
なんと1000アクセス突破。こんな緩い小説を読んで頂いて感謝です。 そういうわけでは無いのですが、今回のお話は妹視点でした。如何だったでしょうか? それでわ、次回は9話で。