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10.ひとつ足りない


 玲衣くんがぼくの部屋に来てくれてきちんと話ができた。


 お互い大切に思ってることも確認できてぼくの心は落ち着いた。


 玲衣くんから、『伊吹に避けられてた数日苦しかった。もうあの思いはしたくない』そう言われて、玲衣くんがぼくをどれだけ大切にしてくれてるのかも感じられた。


 逃げずにきちんと話せて良かった。



「今後はちょっとした不安や心配事もきちんと話そう。ぼくが伊吹を嫌うことない」

 そう玲衣くんは帰り際にまたぼくに伝えてくれた。



 今日は朝スッキリ目が覚めた。

 ここ数日寝れてなかったからよく寝た――。そう実感できた。


 朝から玲衣くんの部屋にいく。


 今日の玲衣くんはいつも以上にキラキラして見える。

「今日の玲衣くん、なんか普段よりかっこいい」


 ぼくがそう言うと玲衣くんは弾けるように笑った。


「伊吹が隣にいるからね」

 そんな嬉しいことを言ってくれる玲衣くん。



 肩を並べて一緒に大学まで行く。


 昨日まではやりたいことが浮かんで来なくて何も楽しくなかったのに、今日はネイルもメイクも新しく試したいことが次々に浮かんでくる。


「伊吹は今日お昼、3号館だよね?」

 校内に入ったら玲衣くんがそう聞いて来た。


「うん。そうだよ。玲衣くんは?」

「ぼくは1号館だから伊吹より食堂着くの遅くなるかも。急ぐけど少し待たせるかも」


「ううん。伊吹も片付けとかあるし、玲衣くん慌てなくていいよ」

「ありがとう。でもぼくが伊吹に早く会いたいだけだよ」


 玲衣くんのその言葉にぼくは握ってるカバンの紐をギュッと掴んだ。


 (ぼく……今、絶対顔赤い)


 

 1限目はお互い同じ2号館だから同じ建物を目指して歩いていく。


 その時……。

 後ろから大きな声が聞こえてきた。


「れ――い」


 ドドドドとすごい勢いが聞こえる。

 思わず足を止めて振り返る。


 櫂くんだ。


「れ――い。呼んでるんだから振り返るぐらいしろよ」


 全く反応せずに歩いてる玲衣くん。

 ちょっとだけ走って玲衣くんの隣に並ぶ。

 


「玲衣くん。呼ばれてるよ?」

 シャツの裾を掴んで玲衣くんにそう伝える。


「うん。大丈夫。気にしなくていいよ。多分大した用事じゃないから。それにぼくは今伊吹と一緒の時間を邪魔されたくない」

 玲衣くんがそう言い切ってくれた。


 (……うれしい)


 少しだけ下を向いてにやけてしまう顔を隠す。


 お友達は大切にして。そう言わなきゃと思うのに。

 玲衣くんの言葉が嬉しい。



 でも……。


 胸に手を当てて、ぼくはもう大丈夫。と自分に確認をする。


 そして足を止めた。


 玲衣くんも一緒に止まってぼくの顔を見てる。

 

「いぶきもう大丈夫。だから玲衣くん、今はお友達優先して」

 玲衣くんに向き合って顔を見てそう伝える。


 ぼくの顔を見てにっこりとした顔で笑ってくれる玲衣くん。



 櫂くんが追いついて、膝に手を当てて息を整えてる。


「玲衣。呼んだんだから足止めろよ」

 玲衣くんが櫂くんの方をチラッとみる。

 

「いきなり後ろで大声で呼ばれても怖いからね。それで何?」

「今日お昼にご飯食べながらみんなでレポートしようって話しんだ。玲衣も参加するよな」


「ぼくは参加しない。みんなでして」

「なんでだよ!玲衣がいてくれなきゃ俺ら困るし」


「そんなの知らないよ。ぼくお昼は大事な用事あるから。じゃあ伊吹行こう」

 玲衣くんが、それだけ言ってぼくの腕を取って歩き始めた。


「玲衣くんいいの?いぶき大丈夫だよ?お勉強してきて?」

「ぼくが伊吹と食べたいからいいの。ぼくレポート終わってるから」


 玲衣くんはそう言った後にぼくの顔をチラッと見てくれた。


 

「それにぼくが伊吹とご飯食べたいんだよ」

 玲衣くんが力強くそう言ってくれた。


 ぼくは、顔のニヤニヤが止まらない。


「ありがとう。いぶきも玲衣くんと一緒にいたい」

 ぼくもきちんと玲衣くんに気持ちを伝える。


 隣の玲衣くんと目が合う。2人で笑い合う。


 (この時間……いいな)

 


 2号館のエントランスでお昼にと声を掛け合って左右に別れた。


 今日は階段もスキップで駆け上がれそう。そんな気分で歩いていく。


 階段を上がり、廊下を進んでいくと、反対側からはーくんが歩いて来てるのが見えた。


 はーくんだ!嬉しくなって、ぴょんぴょんと飛び跳ねて両手を大きく広げてはーくんにアピールしてみる。


 ぼくに気がついたらはーくんが手を振りかえしながら早歩きで来てくれた。


 

「伊吹おはよう。今日はここの講義室なんだ」

「うん。はーくんは?今日ピアノのレッスンないの?」


「午前中は一般教養の授業。レッスンは午後からだよ。伊吹玲衣と話せたんだね」

 はーくんがそう言ってぼくの頭をぐしゃっと撫でてくれた。


「はーくんありがとう。玲衣くんときちんと話せた。玲衣くんね、いぶきと一緒にいたい。そう言ってくれたの」

「そっか。良かったね。伊吹には笑顔が似合う。じゃあ玲衣と恋人になったんだね」


 はーくんの言葉で大変なことに気がついた。


「はーくんどうしよ!いぶきまだ玲衣くんに告白してない」

 ひゃーと両頬に手を添える。


 はーくんは、びっくりした顔してる。


 はーくんの大きいな目が普段以上に大きくなってる。

 そして次の瞬間……お腹を押さえて笑い始めた。


「いぶき……。おもしろっ……。なにしてっ……」

 はーくんはしばらくそのまま笑い続けた。


「はーくん。そんなに笑わないでよ」

 ぼくがほっぺを膨らませてはーくんをみる。


「こんな面白いこと笑わずにはいられない。玲衣と話せて一番大切な言葉を言い忘れるなんて……ほんと、伊吹らしい」

 一通り笑ったはーくんは、そう言いながらぼくの頭をぽんぽんとした。


「はーくんひどいよ!でも大変。ちゃんと玲衣くんに告白しなきゃ」

「告白しなくても伊吹と玲衣は付き合ってるようなものだとぼくは思うけどね」


「でもいぶきはきちんと告白して、玲衣くんにずっと隣にいられる権利くださいと言いたいの」

 はーくんがあまりに笑うからぼくは、またほっぺを膨らませた。


「それならさ、伊吹この際だから玲衣がびっくりするよう告白したら?」

 はーくんがイタズラっぽい顔をぼくに見せる。


「インパクト?どんなの?」

「そうだな。普段絶対伊吹がしないようなことが面白いだろうね」


 腕を組みながら考え始めるはーくん。

 

「これはどう?壁ドンしながら告白とか」

 はーくん指をパチンとしてぼくに提案してくる。


「壁ドン?」

「そう!壁ドンして玲衣に告白してごらん」


「それ玲衣くんびっくりしてくれる?」

 はーくんに聞いてみる。はーくんは、自信満々な顔して大きく頷いてる。


「間違いなく効果的。インパクト大だよ」


 (はーくんが言うならそうなんだ)


「わかった。いぶき玲衣くんに壁ドンして告白してみる」


 はーくんにガッツポーズをみせる。

 笑いながら頷くはーくん。


「結果はまた教えて。じゃあぼくも授業行くね」

 はーくんに手を振って講義室に入った。


 席に座りカバンを隣に置いた。


 そして胸に手を当てる。


 (よし!壁ドンして告白しよう)

 

 

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