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捨てようとした命を彼に救われた話  作者:


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6/6

最終話

最終話になります。

いつもより少し長め。

 今日も私の方が早く帰ってきたので晩ご飯を用意してる。今日は何か悩んでいるみたいだから好きだと言っていた生姜焼きだ。少し量を多めに作ったから喜んでくれるだろうか。今の私に出来る事はそれしかない。

 いつもより少し遅い時間。玄関の開く音が聞こえたので小走りで向かう。

「朝比奈さんおかえりなさい」

「冬月さんただいま。あ、もしかしてご飯待たせた?」

「大丈夫ですよ。今準備しますね」



 パタパタと小走りでキッチンへ向かう彼女の背中を見て思う。元気になってよかった、このままずっと元気な姿を見ていたい。準備が出来ましたと微笑む彼女を日に日に好きになっていく。

「今日は生姜焼きか。ありがとう」

 気持ちを伝えようと思った日の夜は俺の好きな生姜焼きだった。多分今朝俺の元気が無いことを心配してくれていたからなんだろう。その優しさが心に染み渡って嬉しくなった。

 いつもの様に他愛のない話をしながら食べるご飯。凄く美味しい。ごちそうさまでしたと綺麗に平らげる。作ってくれた感謝の言葉も伝えつつ丁度湧いたお風呂に順番に入った。

 もう少ししたらいつもの寝る時間。何度も何度も心の中で考えてた言葉を伝えなければ。



「冬月さん」

 いつもと違うどこか強張った様な声色。

「はい」

 真剣な表情をしていてドキドキと緊張する。何か言いたいけれど言葉に出来ないと言った風に口をパクパクさせている。静かにただ声が聞こえるのを待つ。

「今朝の話なんだけど……」

 今朝……。今朝は朝比奈さんが元気が無くて、私に何か言いた気だったけれど何でもないと仕事へ行った。その続きなんだと思いコクリと頷く。

「冬月さんが元気になって、仕事も慣れてきて本当に安心したんだ。

だけどそれって冬月さんがここから出て行ってしまう日が近付いたと思った」

「そう……ですね」

 元々仕事を見つけて、次の住まいも見つかれば出て行く話だったから。そのつもりでしかなかった。

「でも、俺冬月さんと一緒に過ごしたこの日常が楽しくて、帰ると冬月さんが家に居ることが嬉しくて……」

 膝に置いていた左手が握られる。少し震えている手の彼の体温が心地良い。

「嫌じゃなければ冬月さんにはずっとここに居てほしい……」

 少しだけ握る手に力が入る。

「俺は冬月さんの事が好き」

 震えた声で告げられた言葉にドクリと心臓が大きく跳ね上がる。朝比奈さんが私を好き……?いつから?

「俺は冬月さんの事手放したりしない。だから……」

 朝比奈さんの顔が赤くて、なんだか泣きそうになっている。私も顔が熱い。多分彼と同じくらい赤くなってる。



 困らせてしまったことは分かる。それでも伝えなきゃならない言葉だから。好きだと伝えた彼女は真っ赤でそれが可愛いと思ってしまった。

「朝比奈さん……私朝比奈さんに凄く感謝してます」

 静かに彼女の返事を待つ。

「こんなにも良くしてもらって、何も返せない事に悲しくなって……」

 少し伏せられた瞼が震えてる。

「それでも何でもないと笑ってくれる朝比奈さんに救われました」

 彼女の左手を握っていた俺の手に彼女の右手が重なる。温かい。

「わた……私も、ここから出て行かなければと思う度に寂しくなって」

 重なる手にコツンとおでこが乗せられる。

「朝比奈さんと離れたくない……」

 冬月さんが俺と同じ気持ちを抱えてくれていた……?

「私も朝比奈さんの事が好きです」

 ドクドクと心臓がうるさい。けれどこれが夢じゃないと教えてくれてる。

「冬月さん……顔上げて……?」

 俺の手に伏せられていた顔を上げる。彼女の目には涙が溜められてて今にも溢れそうだった。

「冬月さん、俺と結婚を前提にお付き合いして頂けますか?」

 真っ直ぐ彼女の目を見て告げる。ポロポロと溢れた涙を彼女は拭い笑ってくれた。

「はい、朝比奈さんとお付き合いさせて下さい」

 その言葉を聞いて思わず抱き寄せた。嬉しい。

「ありがとう冬月さん」



 彼から紡がれるありがとうの言葉。心の傷を埋めるように優しく入ってくる。

「朝比奈さんありがとうございます」

 だから私も同じ言葉を返す。

 どちらかともなく触れ合う唇。何度も重なる柔らかな感触に力が抜けていく。

「明日は早く帰ってくる……」

 明日は金曜日。その次の日は二人共休みだ。ゆっくり話すのにも丁度いい。

「私も早く帰りますね」

「うん、じゃあ今日はもう寝ようか」

 いつもなら別の部屋で寝ている私達。でも今日は離れ難い事と私の力が抜けてしまって立ち上がれないので抱き上げられて朝比奈さんのベッドへ行く。横になりながらも変わらず抱き締め合う。

 こんなに幸せを感じていいんだろうか。今度は最後まで幸せを感じられるだろうと安心出来た。


 目が覚めると寝るまで感じていた温もりが無かった。リビングの方から音が聞こえるから先に起きて朝ご飯の準備をしてるんだろう。起きて寝室から出れば笑顔でおはようと挨拶された。まだ寝惚けてる私を抱き締めて頭頂部にキスを落とした。この感触が昨日の事は夢じゃないと感じられた。

「朝比奈さんおはようございます」

 抱き締め返して挨拶をする。ご飯を食べて身支度をしてからまたお互いを抱き締める。端から見たらバカップルの様に見えるだろう。

 じゃあまた夜にと言い先に仕事へ行く朝比奈さんを見送り少ししてから私も家を出る。



「三浦はよ」

「おす。その感じ上手く行った?」

 分かりやすいか。うん、表情が緩んでる気はしてるから分かりやすいと思う。

「お陰様で」

「じゃああとしばらくしたらお前も独身仲間から外れるのかー」

 独身じゃなくなる。元々結婚願望とかは無かったからあまり気にしてなかったけどそう言う事になる。

「三浦良い奴だから見つかるよ」

「あんがとよ」

 さて、今日は残業出来ないからさっさと仕事を進めるか。今夜の事を思いながらいつもよりサクサクと進める。



 部屋が明るい。もう朝比奈さんは帰ってきてるんだ。ドキドキソワソワしながら部屋へ向かう。

「ただいま」

 そう言えば奥からおかえりなさいと朝比奈さんが出迎えてくれる。そして朝の様にお互いを抱き締める。昨日の今は不安が強かったけど今はそんなものを一切感じない。

「晩ご飯出来てるから食べようか」

「はい」

 いつもの日常。だけれどちょっと違う。

 お風呂等も済ませ後は寝るだけになった頃、何となくソワソワしてしまい左に居る朝比奈さんに寄りかかる。



 右肩にかかった重さに一瞬びっくりした。嫌でない。好きな人が信じてくれているから寄りかかってくれたんだ。寧ろ一生感じていたいくらいだ。

「ふゆ……えっと……依澄……さん」

「はい……湊さん……」

 名前で呼べば名前で返してくれた。胸の中で広がる温かい気持ち。少しだけ擽ったくも感じる。

「俺依澄さんの事一生大事にする……」

 彼女が笑う時も、泣いてしまう事があっても、隣りに居るのは俺でありたい。この先何年経っても……結構長い間片思いしてたからもう手放せない。

「ありがとう。信じてます……」

 それだけだった。いや、それだけでいい。信じてもらえるならその約束を反故にしないだけ。彼女の中でもこれからの未来に俺が居られればいいから。



 隣に感じる温もりに甘える様に擦り寄ってしまう。顔を見れば既に起きていたのか優しい表情で見つめられていた。

「おはようございます」

「おはよ。そう言えば最近は大丈夫?」

 最近はと言うと、この部屋に来た頃はご飯はろくに食べられなかった。最近は仕事を始めた関係で体力が厳しい日が度々あった。多分その事だろうけど今は問題ない。

「大丈夫です」

 そう返事をすれば良かった……と笑ってくれた。擽ったい。

「朝ご飯食べましょう?」

「うん、そうだね」

「今日は朝ご飯何にしましょうね」

 二人でキッチンへ向かいながら話す。昨日は和食だったし洋食でもいいかもしれない。


 元婚約者の事が好きだったし結婚も考えていたから彼との事は辛かったし朝比奈さんが来るのがもう少し遅ければ私はここに居なかった。けれど朝比奈さんが私を救ってくれたから今ここにいる。

 まずはしばらく連絡出来てなかった親に相手が変わった報告をしないと。もしかしたらずっと連絡が無くて心配してるかもしれない。後で予定を聞いて朝比奈さんを紹介しないとかな?

 想像していなかった相手だったけれど、誠実な朝比奈さんだからこれからの未来は明るいんだって前向きになれる。

「湊さんありがとうございます」

「えっ?どうしたの?」

 あの時見つけてくれたのが彼で良かった。

「これまでの事全部にです」

 好きになれて良かった。好きになってくれて良かった。

ここまで読んで頂きありがとうございました。


もし出会った頃やこの二人の未来を読みたいと思っていただけるなら、また二人の物語を書きたいと思っています。

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