4話
前半は朝比奈さん視点。
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から視点変わります。
何でもするか……。いやいや、多分他意はないんだと思う。純粋に俺が色々と彼女を気に掛けてる事に対してのお礼をしたいって事だけ。だけどまあ健全な20代にはその言葉は破壊力がある。ましてや部門は違うけど一時期一緒に働いてた頃から片思いしてる相手だぞ。風呂上がりを見るだけでも理性を繋ぎ止めてるのに向こうからその糸を切ろうとして来てる。今誰にも頼れないのに怖がらせる理由にも行かないんだから我慢するしかない。
「だけどなぁ……」
まだ婚約破棄済だから浮気やら不倫にならないのは良い事。だから俺が気にかけられるって事だからありがたいと言えば……。いや、それは彼女に悪い。あんなにボロボロになってて、ちゃんと見た訳でもないけど抱えた時に感じた重みが成人女性の割に軽過ぎる。多分50もあるか怪しいんじゃないか。いつからまともな生活が送れなくなったのかは分からない。
それに会社では自己都合なんて話だったのに聞けば彼女の意志じゃない。社長が代替わりしてから怪しくなったから副業して金は貯めてたから面倒見られるけど、多分このまま放置は出来ないか……。彼女みたいな人が増えないようにどうにかするか。
「近々辞めるつもりだったけどまだ続行だな」
とりあえずさっさと寝て起きてからまた考えよう。
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起きた頃には大体朝食の準備は完了してる。非常に申し訳ないと感じてしまうので明日は目覚ましでもかけて早く起きよう。そしてどれも美味しい。
「ごちそうさまでした」
「昨日も思ったけどちゃんとご飯食べられてて良かったよ」
倒れたあの日顔色が酷く痩せ細っていたから心配だったのだと言われた。今は血色良くなって来ているらしい。痩せていたのは自分でも分かっていた。けれどそれは服で隠せていたから大丈夫だと思ってた。けれどそんな顔色にまで出てたとは思ってなくて驚いた。
「体力が無ければ何も出来ないからね。もう少しご飯の量を食べられる様になれるといい」
実際昨日の食事も朝比奈さんの分を少し分けてもらったくらいだった、今も1人分の半量程度しか食べられていないので心配はごもっとも。
「それでも一日三食食べられているので充分だとは……」
「あまり深く聞かなかったけど、その……平均的な生活が出来なくなってどれくらい経った?」
そう言われていつ頃からこうなったのか考える。
三ヶ月前に元婚約者の浮気発覚。その後彼とその浮気相手に慰謝料を請求したもののその一ヶ月後には彼の借金の連帯保証人と言う事でほとんどを持って行かれた。明らかにその見た目が一般人とは大きく離れていたので良くない所なんだろう。元婚約者と同棲していた部屋から引っ越したはずだけれど、どこから情報漏れたのかまだ未回収分があると言われ、その後も定期的に取り立てが来るように。勿論そもそも私は連帯保証人になった記憶は無いけれど、彼に連絡がつかない事と脅されていた為に警察にも行けなかった事で返済地獄。仕事をしてもしてもほとんどが返済へ。その時にはもう食費以外はもう削り切っていた。
「だいたい二ヶ月くらい……ですかね……」
「寧ろよく生き延びてくれたよ……」
心底ホッとしたと言う表情の朝比奈さんを見て私も生きられてて良かったと感じた。
「あの時朝比奈さんが私を引っ張ってくれなければ生きていなかったので、本当に心から感謝してます」
そう素直に言葉を伝えれば朝比奈さんは少しだけ顔を赤くし片付けを済ませたら仕事へ向かった。彼が帰って来るまでに私が出来る事は掃除くらいのものしかない。掃除用具の場所は教えてもらったので必要だと思う物を取り出し掃除を始める。
久し振りにそこそこ動いたからか疲労を感じる。仕事も大半が事務作業だったので体力は落ちてた中の少ない食事量だったんだ。お風呂に入る時に見た自分の身体はうっすら肋が浮いて見えていた。こんな貧相な身体では役に立つのも困難だろうと思った。それでも恩を返したいのは本当の事なので何とか頑張るしかない。
休憩しながら掃除をしていたらお昼になっていた。でも何となく食べられる気がしないのでお茶だけ飲もうとした。するとポコンとスマホが鳴り何だろうと確認したら朝比奈さんからだった。
『一口でもいいからお昼も食べてね。
家にあるものなら何でも食べていいから』
お見通しなんだろうか。彼に言われてしまえば食べるしかないと、先程までは無かった食欲がほんの少し湧いてきた。冷蔵庫を見れば梅干しがあったので昨日買ったお茶漬けの素を使い梅茶漬けを作った。程よい旨味と酸味でしっかり食べ切ることが出来た。
少しだけ知っていた程度だった彼とのまだ2日にも満たない時間だけれど、既に彼に強く惹かれている事を感じる。でもきっと弱っている知り合いだから放っておけなかったんだろうと思ってる。だから勘違いはしてはいけない。
晩ご飯の調理が終わる頃、ガチャリと玄関が開く音がした。朝比奈さんが帰ってきたのだ。火を消して玄関へ出向くと丁度靴を片付けた頃だった。
「朝比奈さんおかえりなさい」
「ただいま。なんだか帰ったら誰かがいるなんて不思議な気分だな」
照れながら笑う朝比奈さんを見るとなんだか擽ったい気持ちになる。
「晩ご飯用意出来てるので食べるなら今準備しますよ」
「え、本当に?ありがとう。じゃあ先に食べようかな」
分かりましたと言い冷めたものは温め直しながらご飯を装い温め終わったおかずと共にテーブルに並べる。社会人になってからほとんどを自炊していたのでそれなりに自信はある。それでも初めて食べてもらう人なのでドキドキしながら感想を待った。
「冬月さんの作る料理はホッとするね。美味しい」
「良かったです」
次も晩ご飯だけでも作りたいとお願いをし、好きなものや食べたいもののリクエストを聞いた。やはり男性らしくガッツリとしたものが好きな様でお肉類が多かった。でもその時私が食べたいものでもいいと言ってくれたので、バランス良く作れる様に頑張らないととやる気が起きた。
それからこの穏やかな日常を一ヶ月程過ぎた頃。体型も体力もだいぶ戻ってきたので仕事を探そうと思ってる事を伝えると、
「いいけど無理はしないでね?」
「大丈夫ですよ」
どこか心配そうに見つめてくる。この日々で彼への思いが大きく膨れ上がってしまった。結果仕事を見つけてこの部屋を出ないといけないと思うと寂しい。それでもこれ以上は迷惑かけられないのだから、仕方ないと思う。




