2話
目が覚めて少し。ぼんやりと昨日何があったのか思い出す。
カーテンの隙間から入る光は少し弱い。多分太陽が登って少ししたくらいかもしれない。スマホ……は充電がないんだった。寝室のベッドなら時計があるかと思ったけど無さそう。スマホで確認するタイプなのかもしれない。
朝比奈さんはまだ寝ているんだろうか。家主に許可を取らないと家の中を歩くのは気が引ける。どうしようかな……。もう少し寝てるか……。再び布団に潜ったけどなかなか寝付けない。とりあえず今後どうするかを考えよう。
まずは仕事を見つけないと話にならない。最悪コンビニとかのアルバイトでもいい。時間に囚われてないから深夜の時給が高い時間なら貯めやすい。多分近くにあると思うし朝比奈さんに聞いてみよう。そしたらマンションを探そう。築年数が長くても安くて最低限整っていれば問題はないはず。うん、今のところこんな感じで良いかな。朝比奈さんが起きたら相談しよう……。
どうしてかな。今は悲しい訳でもないのに涙が出てくる。何でまだ生きてるんだろう。朝比奈さんは何で私を助けてくれたんだろう。彼にこの恩は返せるのかな。ポロポロと溢れる涙を拭っていると次第に瞼が重くなってくる。
「……さん」
心を温めてくれる様な声。
「冬月さん」
私を呼んでる……?
「あさ……ひなさん……?」
「あ、ようやく起きた」
ホッとした表情の彼が顔を覗き込んでいる。寝過ぎたのか頭が重たい。
「またお粥で申し訳ないんだけど食べられる?」
昨日と同じホカホカのお粥。食欲を唆る香りでぐぅ……と言葉より先にお腹が返事をする。
「大丈夫そうだね」
クスッと笑いながらまたレンゲを持たせてくれる。やっぱり美味しい。今日は鮭も少しだけ入れてくれてる。ボロボロの身体と心が少しだけ癒やされてくる。
「一人で動けそうならお風呂入る?
昨日入ってないなら気になるよね?」
「ありがとう。シャワーだけでも大丈夫なのでお借りしてもいいですか?」
分かったと言い浮かべる笑顔が優しくてドキドキする。男性らしい顔付きではあるけどどこか綺麗で爽やかな顔付きだからモテるよなこの人と思う。そしてシャワーを浴びる気満々だったんだけど……。
「あ……」
替えの下着無いじゃん。今の荷物が貴重品しかない。生きる選択を捨ててたから諸々全部家に置いてきた。流石に脱いだものを履くのも嫌だ……。だからと言って下着を着ないのも人として……。そもそもが衣類全般自体無いのはどうしたら……。
「どうしたの?」
「いや、あの……替えの衣類全般が無くて……。
やっぱりシャワー大丈夫です」
「あー……なるほど。ちょっと待ってて」
部屋を出て行く朝比奈さん。しばらく待っていると衣装ケースを持って来た。
「これ姉が時々来るから置いてるやつ。一応確認取ったから好きなやつ使っていい。もし動けるなら今日俺休みだから買い物付き合うし」
中を覗かせて頂くと、おしゃれなワンピースやスタイルの良さを感じるワイドパンツ等下着も含めて入ってる。サイズを見た感じ大きく違いは無さそう。胸以外は……。ベルトも何本も入ってるからウエストも違うかもしれない。
「すいません。ありがとうございます」
「風呂場部屋出て左の廊下の右手にある」
ありがたく拝借してお風呂場へ向かう。そこそこ広いから結構いいマンションなのかもしれない。大きな鏡もあり今の私の現状を見る。痩せているより痩せこけている。隈も酷いしとても人に見せられる状態じゃない。改めて確認して凄く恥ずかしくなった。こんなみすぼらしい人間に優しくしてくれる彼は神なのかもしれない。急いでお風呂を済ませよう。これ以上自分の惨めな姿を見たくない。
「お借りしました。ありがとうございます」
「スッキリ出来た?少しだけ話したいからその後買い物でいい?」
隣を叩いてるのでそこに座れと言う事だろう。出来るだけ邪魔にならない様に小さく座る。すると少し身体を私の方に向けた朝比奈さんの胸にグッと寄せられる。突然の事でドキッとしたけど子供をあやすみたいにポンポンと優しく触れられる。
「冬月さんはよく頑張った……」
優しい声。朝比奈さんの体温とトクトクと規則正しい鼓動を感じてダムが決壊するかの様に様々な感情が溢れる。
「急いで出て行かなくてもいい。ゆっくり休む事が今の冬月さんの仕事だから」
顔を少し上げると額に柔らかな感触のものが触れる。弱りきった思考では何が起きたのかすぐには分からなかった。けれど不快なものでは全く無くて……。今……。
「っ!?」
おでこにキッ、キスされ……!?今の私にはそれだけでも刺激が強過ぎる。さっき朝比奈さんが何を言ってたのかももう覚えてない。
「っはは、顔真っ赤。
安心しなよ、それ以上の事は求められない限りしないからさ」
「それ以上にって……あの……」
頭を撫でる手付きが優しい。触れるのも向けられるのも全部優しい。一番困る事はそれが嫌じゃなくて、嬉しく感じてしまう事だ。多分彼の言ってるそれ以上も嫌だと思わないのかもしれない。
何も言えなくて金魚の様に口をパクパクさせていると、
「さて、これからの事だけど今日は冬月さんの必要な物を買いに行く。
仕事や住まいは保留、気になるかもしれないけど今はゆっくり休んで欲しい。
奥の部屋は空いてるから必要な家具が揃ったら好きに使って。
お金の事は気にしない。と言っても難しいかもしれないから俺が居ない時とかに家事をやってくれればありがたい。
なにか質問はある?」
「ない……ですけど……。そんな至れり尽くせりで……」
何も私は返す事が出来ない。
「何も返さなくていい。これは俺がやりたくてやってるから。
あと、もし準備が整ってこの部屋を出たい時は止めない。
不満があれば言うから、冬月さんも嫌な事とかあったら言って?」
ね?と大の大人が首を傾げてる姿なのにキュンとした。昨日までの私がドン底だったから、その落差が激しくて混乱してしまう。
「じゃあそこの温めてるポットに紅茶入ってるから飲んでて。
俺も出かける準備するから」
そう言い立ち上がる彼の背中を見ると少し寂しくなる。




