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第1話 泣いちゃいそうだよ。ばか。

 君の優しさに包まれて。


 泣いちゃいそうだよ。ばか。


 みどりが泣いているところを見たのは初めてだった。

 いつも明るくて元気で笑っているみどりしか知らなかったから、すごく驚いてしまった。

 みどりがなんで泣いていたのか。それはわからない。(聞かなかった。聞かないほうがいいかなって思ったから)

 みどりは誰いない校舎の見つかりにくいところに隠れて泣いていたから、泣いているところを見られてすごく恥ずかしそうな顔をしていた。(ごめんと思った。でも、ぼくもその日は一人になりたかったんだ)

 みどりは涙を拭くと、真っ赤な目をしたままでぼくをみて「泣いてないから。ばか」とみどりは言って、そのままどこかに走り去ってしまった。

 それが小学生のときに一番よくおぼえているみどりの思い出だった。

 中学生になった今も、よく覚えていること。でもみどりはその日のことを絶対に言葉にはしなかった。だからどきどきあれはぼくがみた夢だったのかもしれないって、そんなことを思う日もあったくらいだった。(みどりはそうなることを願っているのかもしれないけど)


「ねえ。一目惚れの恋って本当にあると思う?」

 校舎の屋上にあるベンチに一緒に座っているときに、とっても高い青色の空を見ながらみどりは言った。

「そりゃ。あるんじゃない? 可愛い子とか、かっこいい子とかなら、またか、って思うくらいによくあることなんじゃないかな?」

 うーんと考えながらぼくはいった。

「でもさ。それってつまり顔とか体を見ただけで好きなってるってことでしょ? その人の心とか性格とか声とかそういうことはなんにも知らないままで、顔と体で好きになってる」

 となんだかちょっとだけ怒ったような顔をしてぼくを見ながらみどりは言った。(まるでぼくのことを男子生徒の代表みたいにきっと思いながら。ぼくに怒ってもしかたないと思うけど)

「それはそうだけど、実際にはあると思うよ。顔や体をみただけでその人のことを一瞬で好きになること」

 とぼくはみどりの顔をじーと見ながら言った。(みどりもじーとぼくの顔を見ていた。やっぱり怒った顔のままで)

「じゃあさ。その反対にね。最初は好きでもなかったけど、長い時間をかけてその人を本当に好きになることってあると思う?」

 とみどりは今度はにっこりと笑って、とっても興味があると言ったような顔をして言った。

 ぼくはそんな(ころころと顔の変わる)みどりの顔を見て、相変わらず心がわかりやすいなって思った。(なんだか猫みたいだと思った。そう思ってみるとみどりのポニーテールの髪が猫のしっぽみたいに思えておかしかった)

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