【闇色】
タイトル『無効化』
Side:進・登場人物:暢・泉麗
手に入れた彼女は、俺に何も感じないのだろうか?
受け継いだ何かで、俺にはフェロモンが備わっているらしい。
「進?出てるぞ……教室が閑散とするから控えとけ♪」
周りを見渡すと、クラスメイトがフラフラと……空気に酔ったように出て行く。
他の教室より調整された少人数……
成績も考慮にされているけど、私立じゃなきゃ無理だよね。
他人事で、その様子を見ていると……入れ替わるように入ってくる愛しい彼女。
「進~~!!次、当たるの……教えて?」
可愛く首を傾げ、笑顔が全開。
おかしいなぁ~~俺には、暢の方がよほど……
「聞いてる?」
「美味しそうだよね。」
手を伸ばして、暢の頬に触れる。
俺の手にすり寄せ、無邪気に微笑む小悪魔……
「何、なに?帰り、美味しい物を食べに行くの?行く行く~~」
俺の想いなんか、通じない……
押し倒したら、泣かれるんだろうか?どこまで強引にしても良いんだろう?
教科書を開いて、分からない問題に真剣な眼……俺の説明に夢中……
チャイムと同時に、名残惜しむことなく去って行く。
後ろを振り返り、手を振ることがあったかな?
「進、寒いけど窓を開けるぞ~。この教室の空気じゃ、授業にならねぇ♪」
能天気なのが、ここにも一匹。
「泉麗、俺のフェロモンは健在かな?」
窓を開け、空気の入れ替えをしている泉麗が振り返り……
「黙れ、俺には迷惑だ!」
健在の様で……暢には無効化されている。
要らない……無駄なものでしかない。
【ペチリ】額に痛み……
「俺のイケメンに、傷がつくだろう?」
泉麗を睨むと、ニヤリ顔。
「ぷくくっ。暢には、何とも思われていない顔……意味ねぇ♪」
ん?不機嫌なのは、俺だけじゃないようだな。
「くすくす……何、采景くんに首でも絞められたのか?」
図星だったのか、口をとがらせ。
「放課後、邪魔してやろうか?お前も♪……ずるいよね、校内に連歌くんと采景くんが交代で見回りとか……油断が出来ないよ、麒麟くんも警戒してるし。」
役員でもないのに、学園の甘さは……
泉麗の知らなくて良い事だ。いや、知っているか……
一番、利用されてきたのは草樹くんだろう。
「先生が来た、暗い顔すんな!ふっ。フェロモンが制御されて丁度いいけど……」
心配そうな表情に、草樹くんが重なる。
好きな女の子と一緒に、想いを確かめ合い……満たされる感情を得たい。
授業に集中しないと、暢にも教えることが出来ない……か。
気分を変えて、電子黒板を見つめる。
「多河……すまないが、見るなぁ~」
男の先生にまで、効力のあるフェロモン……母方が魔女の血族だと言っていた。
隔世遺伝なのだろうか……遠縁の血が受け継がれるたびに悪化する。
授業が終り、先生が泣きながら逃げて行く。
入れ替わるように、暢が嬉しそうに走り寄る。
「聞いて、聞いてぇ~!さっき教えてもらったところね、応用で先生に褒められたよ!」
嬉々として笑顔の溢れる暢に、苛立ちを感じる。
席を立ち、落ち着きのない暢を抱き寄せた。
沈静化した暢……撫でるように身体を手が移動するのに無抵抗。
頬に唇をすり寄せ、視線を合わす。
「ふふ。くすぐったい!ね、帰り……どこに行くの?さっき、聞きそびれたで……みょ」
唇をキスで塞いで、見つめたまま……観察する。
唇を解放されると、頬を染めて周りを確認する暢。
大丈夫だよ……空気で、みんな出て行くから。
「進のバカ……誰かに見られたら恥ずかしい!嫌い……やっぱり、私をからかってる。」
どうして、想いは伝わらないのかな?
「暢……好き、本気だよ。」
恋愛は平等……楽な付き合いなどない。
フェロモンも無効化されて……
タイトル『男の意見』
Side:泉麗・登場人物:改・進・草樹
改からの呼び出しで、放課後の保健室に集合。
「父さんまで、改に甘いのかよ……ちっ。拗ねるよ?俺。」
頬を膨らませ、不満をぶつけると苦笑で俺の頭を撫でる。
「もう子供じゃないよ。」
頭を振って、不機嫌を示す時点でガキだけど。
「それで、進まで付いて来たのか?」
ベッドに座った状態で、ニッコリ……フェロモンが漏れる笑顔を振りまいた。
「父さん、コレは触れてはいけない時の機嫌の悪さだよ。」
父さんは俺の言葉に納得したのか、棚の整理を始める。
「失礼します。」
礼儀正しい改に、父さんは笑顔で迎え声を掛けた。
「劾は、今日は来ないよ?」
「はい、そう聞いたので……ご迷惑でしたか?」
……イラッち!
これなのか、采景くんの態度の違いは。
同じ、娘を奪う男なのに明らかな態度の差。
デートもイチャイチャも、改たちには口出しをしないと聞いた。
そんな改が、今日は何の用だ?
父との会話を終え、鋭い視線を俺に向ける。
咄嗟に身構えた俺に、進が過剰な反応。
「泉麗、お前……今まで、どんなことをしてきたんだ?」
叫んだ言葉や態度は、打って変わって幼さの見える嫉妬の絡んだもの。
「は?」
俺の間抜けな声で、進の警戒心も溶けて一瞬の沈黙が生じた。
「右手を出すんだよ、いつも……いつも、いつもいつも!」
どうやら、原因は俺だと分かるが……彼女の潜在意識に刻まれたのか?
「俺が触れて許されるのは、右手だけだと思っていた。そう……彼女は俺の相手ではないと、分かっていた証拠。」
生まれて16年、相手を意識して想いを寄せた年月……どれほどの願いを抱いたのか。
「分かっている。俺は、理解しなかった故の結末を味わった……だろ?」
父は、そっとイスを運んで、改に座るよう促した。
「で?」
悲しい思い出に浸る俺達を無視し、進が話を催促。
改は、ため息を吐く。
「でって……。どう応えて良いのか分からなくて、機嫌を損ねる。当然だろ、その右手に触れていたのは俺じゃない。」
目を伏せ気味にし、哀愁の漂うイケメンに苛立ちと同時に疑問。
「なぁ。何故、お仕置きしないんだ?」
俺なら許せないけど。
俺の言葉に、目を丸くして開いた口が塞がらないような表情の改。
「おいおい、改に変な事を吹き込むなよ。采景くんに、首を絞められるぞ。改、泉麗の言葉は忘れて、解決策だけ聞いて行け。」
進が口を挟んだ。
「何だ?進……お前……は、無理か。」
進が、やきもちで意地悪したら、暢に意図が伝わらず……泣かせるだけだな。
「うるさい、黙れ。俺が絞めてやろうか?」
進の手は、もう俺の首に両手を当てて締め始めていた。
「ギブ!……俺なら、自分が誰のモノなのか……身体に覚えてもらうよ。ね、父さん?」
父さんは、棚の薬品を並べながら。
「そうだね、自然と俺好みの行動がとれるように……時間をじっくりかけて……くすす。」
「くくくっ……」
「……あの、俺……そんなのを求めていない。ただ、手を出されたら、どうすればいい?」
改の純粋さに、毒気を抜かれそうだ……
ま、自分を変えるつもりもないけど♪
「手を取るのは、慣れているだろ?」
「あれは、俺の意思とは違う……」
面倒臭いな。
「手の甲にキスしたり、指を舐めたり……噛んでも良いんじゃないかな?」
俺の答えに、改は顔を真っ赤にして保健室を飛び出した。
意味が分からない。
人に物を尋ねておきながら、お礼も述べずに逃走かよ。
「泉麗……俺もドン引きなんだけど。それ采景くんが聞いたら、首絞めじゃ済まないだろ。」
寒気を感知し、窓際に視線を向ける。
「あぁ、さっきまで居たよ?」
采景くん優先の父……俺の首が……
『香り』視点:セイカ
囚われの穴。外の世界が感じられるのは、手の届かない窓。
少しの光。日の温度。風の匂い。
「おい、お前……美味そうな匂いがするな。」
逆光の姿、穴に響く声。
……美味そう?
「あぁ、私の育ったのは森の中。お前は、おおかみか?」
「くくっ。あぁ……だから、匂う。」
「……臭う??」
腕を鼻に近づけクンクン。
「いつか、喰ってやる。」
隙間から落ちるのは、白い花。
彼が来るのを待ち望むようになるのは、難しい事ではなかった……




