④鬼畜な彼女
大上 陸。高校1年生。
友達の琳翔の相手は、高校の(再)新任の先生。
彼らは、魔女の家系。俺は、おおかみ……
呪いから解放された世代……相手が分かったのは、いつまでなんだろう?
俺も、相手が分かる?この感じる想いが、相手を知らせるものなんだろうか?
「陸、お腹がペコペコです。今日のおやつは何でしょう?」
初等部5年生……聖城 澪美。
彼女は、高等部の調理実習室に現れてはお菓子を求める。
小学生にしては、美味しそうな……いえ、何というか……
「ん?胸に何か付いていますか?」
「……あははは……よく食べるなぁと思っただけだよ?」
栄養は、胸にいっているのかな??
「ふふ……H♪」
【ぎくっ】
小さな声だけど、間違いなく……そう言った。
誤魔化すようにお菓子を渡して微笑む俺。
普段 無表情の澪美は、食べる時だけは笑顔……可愛い。
俺の食欲が増えるのは、どうしてかな……作ったお菓子を、口に入れモグモグ。
……何だろう?物足りない……
「澪美、美味しい?」
「美味しいです。」
「……何か、足りない気がするんだけど?」
「ふふ……疑うのですか?もっと……食べて。私の……食べますか?」
【ドクッ】
体が熱い……
「食べても同じだよ?同じ材料で……」
【むぐっ】
澪美の食べかけのパウンドケーキが、口に押し付けられる。
……?甘い?おかしいな……同じ材料なのに……混ぜ方が悪いのかな??
「どうですか?」
「うん、美味しいかな。俺の気のせいだね……」
「ふふ。くすくすくす……おかしな陸です♪」
澪美は、軽い身のこなしで窓を飛び越え外へ出る。
「陸、私は明日も任務です。お腹がすくので、食べに来ても良いですか?」
「俺も別の任務だよ?」
俺の返事に、少し残念そうな表情。
【キュン……】
何だ?この苦しいような……
「澪美、あの……」
「陸、いいのです。明日は、白狐に頼みますから。……」
今度の小さな声は、聞き取れなかった。
「え?何……」
訊いたが、歩き続ける……澪美の後姿……
「あぁ~あ。陸……君は、ダメだねぇ~」
窓際に寄った俺の後ろで、お菓子を口に入れる琳翔。
「何?今日は任務……じゃ、ないよね??」
何がダメなんだろ?それも気になるが……
「ふふ。俺は、戦利品が物語るだろ?」
琳翔の口には、口紅がべったり……先生とイチャイチャか。
「付いていても、似合うのが琳翔だよね?」
「くすす……。ソレは、褒め言葉?陸も似合うと思うけど?」
「それは嫌味だね。俺は、男だぞ?」
「くくっ。機嫌が悪いねぇ~。そんなだから、大切な相手も見えない……」
相手?俺の……??
「琳翔、俺の相手……知っているの?」
俺の問いに、目を丸くした。
「何?嘘なの?どうして、びっくりした顔なんだよ!」
「……冗談じゃないのか。そうか……白狐に殴られるぞ?」
白狐は、澪美の双子の兄。
何故、殴られる??
「え……俺の相手……?相手……」
「自覚がないのか?向こうは、真剣だぞ?」
「白狐……?」
「……はぁ……今ので分かっただろ?年の差は、関係ない。」
年の差……16歳と11歳……相手は小学生。
「俺が星来と出逢った時と、ほとんど変わらない。年の差に苦しんだ恋愛を……呪いの話と一緒に聞いた。子守唄のように……」
そう……俺達は呪いも弊害もなく……自由に生きる。
それでも……残った記憶の奥深く……たった一人の相手を探して。
求める……義務のように……
「澪美と会ってくる。」
モヤモヤも出来ないほどの何か……捉えどころのない感情……
澪美の後を追うように、窓を飛び越え校庭を走る。
広い敷地……もう、家に帰っちゃったかな……
「白狐……」
見つけた澪美は、白狐に寄り掛かる。
抱き寄せて慰める白狐と目があった。鋭い視線に焦る。
傷つけたのは……俺だと。
「……澪美、俺達は選べる。相手は分からない。」
「はい。でも、白狐……あなたは、そんな相手に出逢っていないです。だから、そんなことが言えるのです。」
選べる……俺以外の誰か……
口を開こうとした俺を邪魔するように、白狐が澪美の手を引いて歩き出した。
「何、どうしたのです??白狐……痛いです。歩くから、ゆっくり……」
「澪美、君の相手は俺が見定める。」
【ズキッ】
……年下の言葉に、自信もなく……
ただ、確信の時間も得ることが出来ずに……二人を見送った。
俺の相手……なの?
白狐は、何故……邪魔するのかな……俺じゃ、ダメ……?
調理実習室に戻り、後片付けを済ませる。
任務があるし、専門学校で働く父に甘えることも出来ず……学園の一室を一人で使う。
広い部屋には、甘い匂い。
呪いは、相手を甘い匂いで判別させた……気づかなかったのは、匂いの所為?
反応する心……確かに、ここに存在する。
胸を押さえ、痛む心は熱く……欲する……相手。
澪美……君を手に入れたい。でも……自信がないんだ。この顔が嫌いで……
さっきまでいた琳翔の匂いは特別で、相手以外にも……普通の人たちも理解する。
言わば……フェロモン。
綺麗な顔に、色気のある存在感……彼が自信を揺らがせたのは、相手の事にのみ。
俺は違う……父に似た可愛い系の顔……背は、母に似て高い方だけど、アンバランスにイライラする。
男に告白されるのは、父に比べたら少ないだろう……それでも、俺は……
重い足を、家に向ける。
「陸ぅ~~お・か・え・りぃ♪♪」
玄関で、毎日のように抱きしめ……おしりを撫でる母。
「……殴っても良いかな??」
「駄目だよ!ふふふ……海波、俺がいるのに……若い方が良いんだね?ご飯抜きに、触れるの禁止だよ?」
「待って!!ごめんなさい!!景彩、愛してる!!」
……家庭環境も良くないと思うんだよね。
何というか、絶対……オカシイ!!
「ほら、陸。手伝って!」
「はい。」
俺の家は、父が料理をする。主に、母が外で働く……
俺を教育したのは父が、ほとんど。襲うのは……母……
「ちょ、子どもがいるんだよ?もう……」
「いいじゃん、ね?もう……陸がほとんど料理できるし♪エプロン姿って、萌える……はぁはぁ……」
イチャイチャが、男女逆だと知ったのは少し大きくなってから。
「母さんが邪魔だから、俺一人でするよ。」
「駄目だよ、甘やかしちゃ!!海波、ハウス!待て。」
耳の垂れた犬が、何度も振り返り歩くような……哀愁を漂わせ、壁際で覗く母。
「さ、今日は何を作ろうかな♪」
「お弁当に出来そうなのが良いです。」
俺は、父には出来るだけ敬語。
「そう、相手が見つかったんだね。ふふ……陸、自信を持って。君は男の子だ。自信を与えてくれるのは相手。時間はかかるけど……俺の自信は、海波が君を妊娠した時に得た。ありがとう……」
憧れと尊敬……
母が嫌いなわけではないけど……幼いころから、愛情が変だ。
おしりを撫でるのは……何故なんだろうか??
晩御飯の準備と同時進行で、お弁当が出来上がる。
「明日、相手に渡しちゃえ♪ふふ……ひいおじいちゃんは、相手を料理で落としたって言っていたよ。デザートも沢山作ったみたいだし!頑張れ!!」
「はい。」
澪美……喜んでくれるかな?あの笑顔……俺だけに向けてくれる?
朝、初等部に向かう。手には、澪美のお弁当。
見つけた時には、澪美の手を白狐が握っていた。
「澪美、これ……お弁当なんだ。任務の後、食べてくれる?」
差し伸べたお弁当を、白狐が笑顔で奪う。
「澪美、食べるときは僕を呼んでね?一緒に、食べようよ。忙しいお兄ちゃんが、幼い僕たちに親切だよね♪」
「はい。優しい……お兄ちゃんです。陸くん、ありがとうございます。」
開いた口が塞がらない……
「いや、良いんだ。またね……」
やっと出たのは、そんな言葉。
二人に背を向けて、高等部へ歩く。フラフラ……
敵意と、鬼畜とは違う何か……白狐の基本は、いい子。
俺への態度は、冷たいのに……澪美の前では、優しい兄を演じつつ……俺への、けん制。
『忙しい』『お兄ちゃん』『幼い』『僕たち』……悪意の選んだ言葉……
すべてが、俺を試すような眼で告げられた。
「くくっ……くふっふ……ふ……」
落ち込んだ俺の前に、琳翔が笑いをこらえて現れる。
「何?全然、面白くないよ!!」
相手を見つけ、確信もまだの俺に……強敵な邪魔者がいる。
それを笑うなんて……くやしぃ~~
「あいつの裏……将来が楽しみだよね♪俺、絶っっつ対に!覗いてやろっと♪♪」
そうか……将来、邪魔すればいいか……
「陸。何か、不可能なことを考えてない?」
不可能……かな……??
あれ、そう言えば……
「琳翔、家の方向と違うよね?そっち……」
学園の女子寮……
「むふ?くふふ……知りたい?」
琳翔とは違う匂いがする……
「ふ……不潔だぁ~~~~!!」
琳翔を残して、走る。
自分の中……何かが目覚める……
熱い想い。相手……俺の……
大切にする。心が欲しい。君が望むなら……あげたい。
でも……こんな情けない自分……求めてくれる?
君との時間が欲しい……
任務も上の空……
「陸、行け。悩殺するんだ!!」
小さな声で、力強い言い方……そして、突き飛ばす。
琳翔の姿が隠れる。
あれ……?任務って……何だっけ??悩殺……?
「君、こんな時間まで……勉強熱心だね。おいで、教えてあげるよ。ぐふふふ……」
え!?何……?
気持ち悪い視線で、俺の手首を捕らえ強引に部屋へと連れられる。
お、思い出したぁ~~~~!!
生徒に手を出す変態教師の実態調査!
「先生、こんなこと駄目だよ!!」
「いいではないか……ムフフ♪」
怪しい手つきで、制服に触れる。
そこは、胸ですよ!?
「……ん?小さい……??先生は、気にしないぞ!!」
「いや、気にするところが別にあると思うけど??」
証拠が十分で、もういいかな??
触れる手を払いのけ、首元を捕らえて足払い。……が、ビクともしない。
「可愛い抵抗だにゃ~」
にゃ~??き、キモイ!!!!
距離をとって、回し蹴り。これは、少し効いたみたいだ……
「琳翔、来い!一気に片づける!!」
琳翔が教室に入り、異様なフェロモン攻撃(?)
長い年月の耐性で、俺は大丈夫だが……先生は、幻覚を見るようにゴロゴロ床を転がる。
「……琳翔、何だか……レベルアップしてない??」
「ふふ……成長したら、そんなものかな?くふふ……星来と……♪♪」
「話……聞かないよ?さ、任務終了!!」
携帯で事後処理班を呼び、先生を引き渡す。
「しかし、星来にも手を出してないだろうな?ブッコロス!!」
連行される先生を睨みながら、被害妄想……相手に必死……
「琳翔。あの……星来さんは……」
訊いていいのか、口を閉ざしてしまう。
「……おやぁ~~??むふふ……聞かないとか言いながら……興味があるんだ?」
「違うよ!!訊きたいのは……」
琳翔は、ため息。
「分かっているよ。聞かない方が良い……今は……」
「今は??」
「くふふ……だって、海波さんに似て……何するか分からないからね♪」
母さんに似て……何するか……??
おしりを撫でたり……とか??誰に?……まさか……澪美に……?
【かあぁ~~】
何を想像したのか、おしりではなく……胸に触れる自分。
「違う!!」
否定するように、その場を走って離れた。
違う……多分、琳翔のフェロモンの所為だ。
俺が、小学生の……澪美の胸に触れたいだなんて……
「陸、どうしたのですか?任務は終わったのですか?」
この声……
「澪美……そっちも、終わったの?」
周りに白狐は、いない。
「終わって、お弁当を食べたのです。入れ物を、白狐が持って帰ったのです。」
澪美は、笑顔で俺に近づく。
「待って、近づかないで!!」
俺の大声に、澪美が驚いた顔。
「……くすっ……ふふふ……ね、陸?私……思うことがあるのです。」
……雰囲気が変わり、俺に微笑む。
【ゾクゾクッ】
何だ??この、感覚……
「……はぁ……何、息が……苦しい。澪美……駄目、近づくな。」
「ふふっ♪おかしなことを言います。私は、近づいていません。距離が縮まったのは……陸、あなたが近づいたからです。」
俺が……?
無意識に、足が動く。
「おいで……陸、触れてください。私の想いを……受けて。ね……?」
両手を広げた澪美の囁くような声も聞こえるほどに……自分が近づいていた。
澪美の頬に、そっと手を当てる。その手に、目を閉じ手を重ねて……すり寄せる。
熱くなる身体……もう片手が、澪美の腰に回り抱き寄せた。
良い匂いがする……俺より低い背……男とは違う。
俺とは違う……細く、柔らかい体。
「陸……」
呼ばれた名に、顔を近づけ……目を閉じ気味に……
澪美の視線を捉えたまま。唇に軽く触れ、目を閉じた。
柔らかい……温かい……目を開け、唇をもう一度……
「陸くん?何をしているのかなぁ~」
【ゾクゾクゾクゥ~~】
澪美に触れていた両手を上げる……
「な、何も?」
何だろう??澪美の時とは違ったゾクゾク。
恐る恐る振り返る……
「何も?」
「……白狐……何もデス。」
嫌な汗が出て、流れた。
「白狐、陸は私とキスをしました。無意識かもしれませんが、胸に触れる力が……痛いです。」
「え!?胸、触ってた??待ってよ……無意識だよ。俺、記憶にないよお??うわぁ~~ん、もう一回……あ……」
「ふふ♪陸……俺の妹に、何サカってんだよ!!この、野性的な目覚めを封印してやる!!」
「違うよ、まだ……目覚めてないよ!ちょ……澪美、笑っていないで……助けてよ!!」
「嫌です♪陸……私の事、好きだと言ってください。」
「好きだよ!!俺の相手だ……白狐、君が邪魔しても!くふふ……澪美は、俺のだ。」
「陸、邪魔してあげる。俺の相手が見つかっても♪覚悟しといてね?」
最高の笑顔の裏に、どす黒い何かを含んだ言葉。
「陸……キスは、相手だと認めてくれたのですか?」
「あぁ。解放された呪いの契約……俺の一生の相手……澪美だけを愛すると誓う。」
相手に自信をもらう。
俺が、男だと自覚できるのも……相手がいるから……
小学生の色気に、引き出された俺の“男”の部分……
白狐……邪魔して。自分を制御できない……相手は、小学生……
「ふふ……陸、大好き♪胸に触れたと言ったのは嘘です。触れたいなら、囁いてください……愛を……」
笑顔で、俺に両手を広げる……
魔性の……鬼畜な彼女。
俺は、どこまでも落ちていく。男だと自覚しながら……
END
何でしょう??澪美は、蓮美に似てイジワル(どS)な感じでしょうか。
陸は、海波のような押し倒しが出ませんでした。何だか、澪美に引き出された“おおかみ”。
短編に書いたような嫉妬も、ありませんでしたね。一応、諷汰の孫なので……嫉妬が激しいはず。
一段落したら、澪美の高校生編を……次には、無理かな?
楽しみにしていた白狐♪♪……暴走しますよ!!楽しみだなぁ~~




