①自由な彼女
僕の名前は、大上 一瑠。中学一年生。表の風紀!
裏の役員には興味がない。僕は、母さんのように真面目に生きるんだ!!
「……ん……ダメ、いちよ……う。会社に、遅れ……」
階段を下りる僕の目に、ふしだらな親父……いちゃいちゃと……
「父さん!!さっさと、会社に行きなさい。社長がそれでは、示しがつきません!」
睨む僕に、何故か呆れた顔の父……
「なあ、こいつ……誰に似たんだ?」
「え?ふふ……一葉ね、きっと♪私に似てないし……」と、母は僕をちらっと見て……
【ぶっ!!】噴出した……。何故に??
朝から、気分が悪い……僕が父さんに似ている?
あんな風紀の乱れることはしません!!
「お、いちるん♪ご機嫌だね。」
……どこを、どう見たら……そう思えるのかな?
「麦穂、ネクタイが男物だよ。ほら!」
常備している麦穂用の学校指定リボンを手渡した。
「……ふっ……いちるん、私のこと好きなの?」
僕は無視して、歩き始める。
こいつは、いとこの大上 麦穂。
僕の父の弟の子……
自由な彼女は、僕の敵に近い……それなのに、冷たくできない……
「麦穂さん、私を抱いて!!」
……。
朝から、風紀問題です!!
「ふふ……可愛い彼女、私は女だよ?」とか言いながら、ホストのような対応で慣れている。
「二人とも、風紀問題です!!いいですか、僕たち学生の本分は……」
「……いちるん、彼女……行っちゃったよ?」
語り出したばかりだというのに……取り逃がしてしまった。
こいつだけでも、お説教……
「一瑠……最近、私の胸が苦しいんだ……」
苛立ちの中、珍しい穂波の陰のある表情に……心が騒ぐ。
「大丈夫なのか?」
心配で近づき、顔を覗き込む。
「……一瑠……手をかして。」
手を??そんなに、辛いのか?
肩に手を乗せようと、伸ばした……
【ふにに……ん】
……。
僕の手を胸に押し当てる麦穂……
これは、風紀問題?いや、痛みがあるなら……いや、しかし……
「ぷはっ!!くくく……苦しいぃいい~~。」
胸に押し当てたまま笑うから、柔らかい感触が伝わり続ける。
「な……ななあ??」
パニックで、手を胸から離そうとするが……
【むにっ】
ひぃいいい~~??ナゼ、こんなにやわらかいのぉぉおお~~??
「ごめん、いじめすぎた。ふふ……いちるんは子どもだね♪私が、男にしてあげましょうか?」
にやりと笑った麦穂の余裕に、苛立ちと何かが募る。
僕の中で、“俺”は知っていた……父さんと同じ……
愛しさに惹かれて、止まない感情に動かされることを……
「……麦穂!!」
誤魔化すように叫んだ僕に、笑顔を返す。
……心許した笑顔は、少数限定……可愛い……なんて思ってしまうから、たちが悪い……
騒ぎを聞きつければ、必ずいる……
「やだ、いちるんのお怒りよ……」
綺麗な顔の冷たい視線……いつものごとく、私は無関係だと主張する眼の采麗……
親類の大上 采麗。
分かっているよ……原因は……
「麦穂!!いつも、言ってるだろ?」
僕の我慢も限界だ。
いつもよりトーンの低い声に、麦穂は一瞬動きが止まった。
ほっ……分かってくれたんだ。それも、つかの間……
「一瑠……首元、何の汚れ?風紀委員が、だらしないね♪おいでよ……見てあげるから。」
穏やかに笑って、ハンドタオルにペットボトルの水を垂らす。
首元?頑張って見るが、目の届かない場所??
……風紀を乱してはいけない。
麦穂が、きれいにしてくれると言うのだから……甘えてもいいかな?
「ほら、首……顔を上に向けて……やりづらいから、目を閉じてなよ。」
言われるまま、目を閉じ上に向いた。
【ふみゅ……みゅ……】
……?ほえ??
目を閉じたまま、やわらかい感触が何かを考える。
唇に、重なるやわらかい……温かい……そっと、目を開ける。
目を細め、色っぽい麦穂の顔がドアップ……
【ペロッ】
!!?!!?!
「あぁ~あ、間抜けねぇ。」
采麗の冷静な声に、何が起こったのか確信した。
「ふ……風紀問題だ!!」
僕の顔が真っ赤だと自分でも分かる……
「麦穂、放課後に風紀委員室に来い!逃げるなよ!!」と、僕は言い逃げ……
背中に小さな声……
「逃げない……追いかけるわ、期限まで。」
走り出した僕の足は止まらなかった……。
後悔する……その時、聞き返せていたら……
僕に、それが出来ただろうか?不器用に、腹立ちは募る……
放課後。
麦穂はやってきた……
「一瑠。先に話がある……」
【ドキッ……】
期限のこと?
気になって、緊張で声が出ない……
「私、彼女が出来ちゃった♪」
……へ?
「ふ……ふしだらな!!風紀問題だぁあああ~~」
いつもの調子に戻れると思っていたんだ……
「一瑠……私に、望みはないのかな?」
真剣な、悲しい……眼……
おばさんと同じ癖……伏せ気味に、視線を落とし……
「行くね。」
引き留めることも出来ないなんて……
頭をフル回転で歩きながら……フラフラ……答えは出ない。
「一瑠?どうした……って、また……」
「や……倭ぉおぉおお~~!!」
声をかけてくれた倭に抱きついた。
「……一瑠、皆が見てる。風紀問題だよ?」
「何で?僕たち、男だろ??ぐすっ……うぅ……くすん……」
ため息で、頭を撫でてくれる倭。
「きゃあぁ~~!撮らなきゃ!!」
周りが騒がしいけど、それどころじゃない……くすん……
「倭、それ……麦穂の所為ね。くすっ……情報は高いわよ?」
采麗は、何か……
「あら?いちるんが反応した♪くすくすくす……ね、倭。お願い、聞いてくれたら情報をあげる……一瑠は、喜ぶわよ?ふふ……待ってるね。」
……??
涙を拭いながら、倭にお願いする。
「……采麗から聞いて……僕も、何か協力するから!!」
苦笑いの倭……??
「分かった。一瑠……麦穂は……いや、俺から言うべきじゃないね。情報は、もらってくる。……大丈夫、お願いは……俺じゃないと出来ないことだから……」
最近、倭の元気がない……もともと、おとなしいけど……
「倭……他に、何か出来るときは何でも言ってね!僕……友達のためなら、何でもするよ!!」
「……うん。俺もだ……一瑠、ありがとう。」
僕が、お礼を言う立場なのに……
僕の頭に乗せた手のひら……優しく【ポンポン……】
「さ、風紀の仕事に戻れ……夕方、家に寄るよ。」
「あぁ!待ってる。」
表の風紀委員会で、仕事は終了。
……裏を知るのは、ごく一部……
「お、一瑠……麦穂を見なかったか?」
……双葉君。麦穂の父で、裏の組織を管理している。
倭が情報をくれるのは、夕方。双葉君は、何かを知っているのかな?
「……ん?ぷっ……お前、くふふ……そうか、そう……なるほどね♪頑張れよ!!」
考え事をしている僕に、勝手に納得をして……笑いながら、機嫌よく歩いていく。
……謎な人だ。父と、性格が違う……やはり、僕は父に近いのかなって思う。
ため息で、窓に近づき……視線を落とすと、麦穂が女生徒と抱き合っている。
?!!?!
あ、朝の??彼女って……朝の、あの『抱いて』??
まさか、麦穂……本気なのか?
ざわざわ……胸騒ぎ……いや、苛立つ。
風紀問題……いや、違う……何だ、何に苛立っているんだ?畜生!!
僕の足は、スピードが上がる。廊下も走っていた……
ただ、何を考えたのか……分からない。無心だった……
麦穂……
さっき見た場所に着いたが、二人の姿はなかった……
『期限』……ふと、頭をよぎったのは……その言葉。
何の期限?胸が苦しいって言ったのは、本当で……何かの病気?
でも、双葉くんは笑っていた……。
役員で、どこかに配属?身近では聞いたことがない……
麦穂の親類に、特務の人がいたけど……そんな話……
いつものように、ふざけているのか?
理解できない感情に、苛立つ……
「一瑠、どうしてここに?」
「倭……お前も、どうして?」
情報をもらったら、僕の家に来るはずだった……
情報で、ここに??
「いや、その……双葉君が、父さんに教えて……それが俺のところに……」
言いにくそうに、視線を逸らす。
まだ、何か……僕に隠している?
「倭……何、教えてよ!!」
「くすっ……何を知りたいのかな?一瑠……私を、信用できない?」
後ろからの声は、低い……麦穂の声。
「……あ……」
風紀だ、規律だと……言い続けたのに、守る基準を無視した僕……
言葉を失う。
「……ふっ……卑怯だね。一葉君と同じ……その環境に甘えて、何も見ない……」
「父さんを悪く言うな!!父さんは……」
「……同じだよ……一瑠の心は知っているのに……見ようとしない。逃げているんだ……自分を守るために……一葉君より酷いね。」
「麦穂……気持ちは、分かるけど……言い過ぎだぞ。」
倭も、麦穂の味方なの?麦穂の気持ちがわかる?
……オレハ……
「一瑠、チャンスを……一度だけあげるね?それ以上は、待たないから……」
また、伏せ気味の眼……
後姿を見送る。心に、風が吹くような……何かが足りない。
「……心は、知っている?本当に?ないよ……理解できない何か……自分を守っている?何から?」
「一瑠……俺が出来るのは、情報を与えることだけだよ……感情は、踏み込んでは手が出せない……」
「……頂戴……何でもいい。この状態は、嫌だ……倭、僕……」
「うん。分かった……期限は、“彼女”が転校するまでの期間だ。麻生学園に、多額の援助をしている企業の娘……望みは、麦穂……」
「そんな!!お金のために、麦穂が!?」
「……決定は、本人の意思に委ねられている。返事は、空港で……それまで保留らしい。学園は、どちらの返事にも対応する準備が整っている。」
そんな……麦穂が、遠くへ?
……返事……チャンスって?“僕”が、何を……
混乱に、心が追い付かない!!
「転校は、明日だよ……空港へ一緒に行くらしい。返事をするまでに、チャンスは……」
「倭、ありがとう!!“俺”、麦穂に会ってくる!」
行かせない!!ただ、その想い……
麦穂の家に向かう。
家に着くと、穂波さん……麦穂のお母さんが出迎えてくれた。
「あ……麦穂、予定が早くなったって……大きな荷物を持って、空港に向かったわよ。」
……空港……?大きな荷物……
行く気なんだ。遠くへ……
俺は、お礼も言わずに走りだした。大きな道でタクシーを拾う。
頭がぐちゃぐちゃだ……何を優先で考えればいい?
間に合うだろうか……
「お客さん、あと5分ほどの距離なんだけどね……」
車が止まり、渋滞に巻き込まれたのだと知る。
「走るから!!」
お金を渡して、おつりも受け取らずに走る。
息が苦しい……胸は、その痛みなのかな?
走る前から……いつからだっただろう?痛い……苦しい……麦穂……!!
空港に着いて、闇雲に走る。
何に導かれるのか、麦穂を見つけたんだ。俺は、麦穂の手を掴んだ。
「……わぁ??一瑠……どうして……思った以上に、早かったね♪」
俺が来ることを、分かっていたみたいなセリフ……
「行くな!!」
汗が、目に……霞む視界を必死で睨む。
「……どうして?」
「お金のために、行くなんて馬鹿だ!!」
……。
俺のセリフに、麦穂は伏せ気味の眼……
【ズキッ……】何故か、心が痛んだ。
「……残念、聞きたい答えじゃない……お別れだね。」
「麦穂、お前が求めているのは何だ?言ってくれ、何でもするから!!」
「……しなくていい……求めているものを、一瑠は持っていないことが分かったんだ。忘れて……私たちは、いとこ……また、会えるよ……」
「駄目だ!!行くな……行かないで……違う。いて欲しい……さみしい。……き……好きなんだ!!誰にも、渡したくない……お願い、麦穂……」
必死の俺に、麦穂は抱きついた。
「ふふ……勝った♪ぷくく……私のもぉ~のぉ~~!!」
……。
へ??勝った……って、言った??私のもの??
「一瑠、大好き♪」
理解できない俺に、微笑んで優しくキスをした。
抱きしめたまま、後ろに振り返り嬉しそうに言う。
「ふふ……ごめんね、彼女……私の勝ちだ。その荷物はあげるよ……元気でね♪」
必死だった俺は、女の子の存在に気付かなかった。
【ペロッ】
麦穂は、俺が掴んでいる手を口に近づけ舐めた。
「な……何を??」
やっと、働き出した頭は周りの声に反応した。
「……周りなんて、気にしないで……私だけを見てよ♪」
ようやっと、“また騙された”のだと気付く。
いつもと同じだと思うなよ?もう、前までの僕ではない……君が、俺を目覚めさせたんだから。
覚悟は、当然……あるよね♪キスを、君からするぐらいだもの……ね?
くすくすくす……ふふふ……
「……あれ……?一瑠……怒ったの??……にしては……いつもと、違……うっ?!?」
掴んだままの手を引いて、空港に隣接するホテルに入る。
エレベータは、都合よく止まっていて……麦穂と一緒に入った。
俺は慣れた手で、ある階にボタンを押す。
「……あの、一瑠……どこに行くのかな??」
「部屋だよ♪せっかく、麦穂が誘ってくれたから……俺も、真剣に応えるね?」
「あの、いつから俺に??てか、あの……ホテル??あはは……ちょっと、用事を思い出したかも?」
「そう、部屋でゆっくり聞いてあげるね?俺の目的が済んでから♪」
「……目的?」
「ふふ……くすくすくす……」
エレベータが止まり、真正面の部屋のドアは、指紋認識で簡単に開く。
そのままベッドまで進み、麦穂の腕をベッドの方へ引いた。
【ボスっ】
顔から倒れたのに、運動神経がいいね♪
すぐに、体勢を変え逃げようとする。当然、逃がしませんよ。
「どこに行くの?」
「……いやぁ~~、あははははは……」
「ふふふ……」
「い、一瑠……私たちは中学生!風紀問題が……んっ?んんん~~~~」
逃げる口実は聞きません。時間の無駄です。
「はぁ……麦穂、いいかな?」
「駄目です!!あの、その……心の準備が……その……」
「ふふ♪大丈夫、優しくするよ……多分……」
初めてだし、本能に任せると良いのかな?
「Noooooooo~~~~!!」
END
①終わり♪一葉の子です。
真面目なところから……目覚めると、“化ける”おおかみ。奴の暴走は、②にも登場します。
一瑠……あまり、暴走しないでくれるかな??意外と激しい……
麦穂は、双葉と同様……腹黒。しかし一瑠に勝てません♪そんなものです(笑)
ホテル設定……一瑠は、真面目な頭のいい何か?を執筆していまして。
その缶詰用……売れているようです。でも将来は、遠矢の会社を一葉から継ぎます。
こんな感じで、短編を次々に書いていきますので……楽しんでください♪
次は、倭と采麗です!!




