終わり
泉麗side。
手には、カケラ二つの入ったガラス球。
それを上着のポケットへ入れる。
時が来た……
「泉麗……ここで、何をしているの?」
「……改を待っている。君の意識が消えるから……」
俺の言葉の途中で、烏鏡は気を失った。俺はその体を支える。
「触れたのは、烏鏡。君じゃない……君に触れることはない?もう目覚めた?コクカ……鵠華……」
俺は、公園のイスに烏鏡を寝かせる。
右手の聖花……君の物だけど、もう……普通ではない。
烏鏡……改を選んでいい。改は、君を見つけなかったから……
俺の最期。烏鏡、君の妹が来る……俺の相手だ。
16年の眠りから覚める……かぐや姫の犠牲にした短い命。秩序が、この時に保たれる。
苺愛さん景彩くん……七匹目の犠牲は、二人の娘を喪う事。
「それ以上、烏鏡に触れるな!!」
時は来た。試してやるよ……
改、お前の想いを。夢と同じ方法で……
「改、烏鏡は俺の相手だ!」
「違う、俺のだ!泉麗……お前を殺しても、手に入れる!」
改……時間が短すぎた。君は何を見たの?
烏鏡の手にあったのは聖花……セイカじゃない。
君の中のスイ……長い時間、求めた心は……どこにもないんだ。それがこの試練。
「……来いよ。その水で、俺の緑を防げるのか?」
「聖花を解放できるのは、俺だ。その力では護れない。セイカ……俺のセイカ……」
「改……俺が護るのは、聖花じゃない……烏鏡だ!」
「……泉麗……どちらの命が消えても、未来は一つ。」
「違う!違うんだ……未来は!!」
そう、未来は選ぶもの。
水の矢が俺に降り注ぐけれど、俺の緑がそのすべてを吸い取っていく。
改は水を剣に変えた。俺の緑の剣が交差して水を吸い、力を奪っていく。
俺の能力が有利。『最初の魔女』の計算だよ。
「改……君は気がつく、本当の相手に。今まで、ここにいたのは……ぐっ……うあぁ……」
背中から、赤い剣が俺を貫いた。
烏鏡……君の願いは叶ったのかな?
望んではいないか……ただ、相手を守る。魔女の血に促され……
改……君の相手。烏鏡だ……
「……烏鏡?……じゃあ、あの聖花……持ち主は……待って、嫌だ。喪いたくない!!泉麗……俺は、相手を間違えたのか?!」
俺を貫いた剣が消え、足元に聖花が元の花の形になって転がった。
「……改。私の相手……私は、あなたの心が欲しい。」
最期の意識……烏鏡……君の犠牲にしたのは16年の自由。
君の中、意識は鵠華だった。そう、俺の相手……
聖花の持ち主は鵠華……本当の持ち主でないと聖花は、願いと引き換えに命を奪う。
「待って、君の願いはここにある。それなのに願ってしまったの?烏鏡……過去の犠牲たちと同じだ。願わなくても、簡単に手に入ったのに……烏鏡!!」
意識の遠退く烏鏡を、改が抱きしめる。
烏鏡の体を暖かな光が包み、そして……改の手から消えた。
【カラ……ン】
静かに響くのはカケラが一つ増えた音。
改、君の悲しみも犠牲となる。
俺の傷は『緑』が治していく……それも完全ではない。ほんの少しの時間稼ぎ。
必要な時間だけを与える……残酷な回復。
改の周りから水が湧き上がって身を包み、渦巻いて姿が見えなくなった。
力の暴走。
彼の命の限界、尽きるまで……
【カランッ】
カケラは4つ……残りは俺のカケラだけ。
はぁ……苦しいままだ、痛みが消えない。
「……泉麗……泉麗!!……あなたの見ていたのは、私だった。よかった……間に合った。すぐに回復するわ!」
遠くから走って近づくのは、待ち望んだ俺の本当の相手。
最期に会えた、だけど…………
「無理だよ、鵠華……これから試されるのは君なんだ。鵠華……俺を選ばないで。過去と同じ選択をしては、この未来のカケラが消える。俺も……」
「関係ない!嫌よ……私は、あなただけいればいい。この世界の秩序を壊しても……」
ごめん、さようならの時間だ……
鵠華side。
目が覚めたのは病院で、右手にはアザがなかった。
「行こう、鵠華!泉麗が待っている。時の犠牲になる前に……俺は、間に合うだろうか?君を泉麗の元に連れて行く。采景くんも……行こう!俺達は、見守ることしか出来ないのだから。」
双葉君に連れられ、公園に向かう。
車の中……父は、ずっと黙っている。母は病院にいなかった。
公園の周辺は、何故かこの車だけが通る。
この世界の秩序。担うのは私。私の答え……過去の魔女が選んだように、相手の幸せだけを願う。
必死に……手に入らないなら、この世界と共に死ぬ?
大切な人たちが他にもいる……本当に、そんなことが出来るだろうか?
迷いがある……この心に、悲しみを貯めた聖花。私の役目。
私の想い……私が死ねば未来は……
烏鏡の意識として生き、その間に見てきた人たちが公園の中にいる。
私が見たのは水の柱が消えるところ。
泉麗が血に染まりながらも、立っていた。
生きているあなたに逢えたんだ。
「泉麗、泉麗!!……あなたの見ていたのは、私だった。よかった……間に合った。回復するわ!」
安心して欲しい。
それなのに、呪文を唱えようとした私を泉麗が止める。
「無理だよ。」
無理??
「鵠華……これから試されるのは君なんだ。鵠華、俺を選ばないで。過去と同じ選択をしては、この未来のカケラが消える。俺も……」
残酷なことを選択するように、あなたが言うの?
「関係ない!嫌よ……私は、あなただけいればいい。この世界の秩序を壊しても……」
足元の聖花が赤い光を放ち、空中に浮かぶ。
『最後の魔女よ。問え……』
私の前に、都さん……
違う。現れたのは器鈴さんだ。分かる。自分の血が全てを知らせた。
「……この空間には結界がある。あなたは皆が見守る中、ここに来た。そして、その聖花の持ち主……悲しい想いを知っている。未来を救える魔力があるのは、あなただけ。泉麗……あなたには、聖花を封じる力のみ。改がいないから……。彼の水は、聖花を解放できたのに……」
「器鈴さん。『最初の魔女』は、最初からそれを望まなかった。泉麗の命か、私の命……選んだ選択が未来を左右する。カケラは5つ。『光』に欠片4つがそろっている。封印できるわ……中心の私と泉麗、二人が犠牲になれば。赤い聖花の持ち主も消え、光から生れるのはそろった黒い聖花……願いを叶えてくれる。最期の犠牲は、私たち……共に死ねばよかった。何故、『最初の魔女』は、そうしなかったのかしら?」
「……彼女のお腹に双子の子供がいた。共には死ねなかった……時に手を出してしまったのは、相応しくない希望だった。」
どんな理由があろうと。
それも過去……
「泉麗……あなたの『緑』で、この聖花を封じて。約束、したよね?私だけだと……」
「あぁ、でも……ごめん。君に手が出せない。緑は……聖花は、俺の体を貫き……緑に触れた。」
「封印……出来ない?……嘘だ。泉麗……どうして……」
泉麗は倒れる。
血の気が引いて、体が冷たくなっていく……
「……鵠華……好きだ。烏鏡の中の君を見つめた。……体は、烏鏡……右手の聖花だけが、君のもの。触れられない想い……過去のおおかみが経験した。いや、子供がいたのか……うらやましい。ちっ……未来があれば……鵠華……俺は願うよ。」
泉麗は目を閉じ、息をしていない。
彼の体は光に包まれ、私の腕から消えた。
「……り……?泉……麗……」
私の横にガラス球が転がる。
左手で拾い、中に浮かぶ5つの花びらを見つめた。
……中心のない黒い聖花……
『願いは何か……?』
問うのは右手に赤く輝く聖花。
それは正当な持ち主である私の願いを叶える……
「聖花よ。過去に、お前がしてきたことをすればいい。願いを、私の命と引き換え……」
未来を望む…………
物語……
あなたの中に流れる血。その中の記憶は、辛い想いを知っている。
失う悲しみを体に蓄えて、時を刻み解放を与える。
その秩序を永遠にして、すべてを解放するのか……一時的な解放に、また犠牲の時を繰り返すのか。
繰り返される犠牲の恩恵。
始まりの魔女が、願いを叶える宝石を作った。
同じ方向に流れる時間に、触れて良い者はいない……。
魔法は、人の想いに反応する。その想いが、自然や時の摂理を狂わした。
そこにいたすべてのものが、呪いを背負う。
秩序を取り戻すため、犠牲になった。
狂った秩序を回復するために、命を懸け捧げる。
魔女を追い、異世界に向かった一族数名。
力を奪われ、時の犠牲となり……二つの世界で解放を望んだ秩序の家系。
時役使は想いを犠牲に、一族を養う餌。
誰かを犠牲にしても……犠牲になったからかもしれない。
誰かを愛し必死になる魔女。呪いは幸せを赦さない。解放を望み試練を経験する。
君の求めた願いはここにある。
「魔女セイカ。助けて欲しい。願いを叶えるから……自由も、約束しよう。」
その言葉に希望を見たのが間違いだった。
始まりがここにあり、未来が過去を導く試練のパラレルワールド。
セイカside。
魔力をすべて、ヴァンパイア一族に使うことを約束した。
王 スイは、安心し……私を見張りつきだけど普通の部屋に移した。
その夜……あなたは命を顧みず、私の元に来た。
「……ミドリ……?」
「セイカ、逃げよう!今日を逃したら、次はないぞ!!」
「ミドリ、聞いて。問題を解決すれば自由がある。あなたの一族も救われるの!」
この時、あなたと逃げていれば……
時は残酷だ。
「セイカ。約束を、俺にも頂戴。君が欲しい……心もすべて。君の温もり、優しい香りを……」
「……ミドリ……」
幸せな時間。一時……
明け方に、また……あなたは光の向こう側に消えていく。
それが、最期のはずだった。
時に手を出すなんて……もう一度、あなたに会いたいと願ってしまったの。
日がすっかり昇り、王に呼ばれた。
扉を開けると、大量の血が服に付着した彼が私に笑みを向ける。
声が出ない。一つの思考だけが、グルグル回る。
まさか……うそだ。さっきまで、この手に……あの腕の中にいた。
温もりを、今も……この体が覚えている。
「……どうした?早い自由は、楽しんだのだろう?君は、俺の餌……ふふ……さぁ、俺のお願いを聴いて……」
「いやぁああぁああぁあああ~~!!」
自分が何をしたのか?覚えていない……
願った。もう一度、彼に会うこと。
時に手を出した?どうやって?
知らない。分からない……ただ気がついたら、スイの時間が戻っていったの。
動きが時間に逆らい……城の中やその世界は、すべて時間が未来へ向かうのに。
スイの後を追う。洞窟にミドリがいた。
多分、他の土地に逃げた一族と別れ……彼だけがこの地に留まったのだろう。
そこで数日を過ごしたのかな?こんな洞窟……
時間は戻る。スイがミドリを後ろから貫く前まで……。
生きている彼の時間まで戻ったのだ。
そこには、城のヴァンパイア一族と、彼らの餌になった魔女が数名。
時間が止まり、また……動き出す。
「止めて!!」
剣が貫いたのは…………
人の想いの尊いことよ。
時の狭間を作ったのは私だ。そこは、これらの裁きの間……
「セイカよ。目を開けよ……その命の代償を見た。だが、時に手を出した償いは足りない。犠牲は大きい……『最初の魔女』として、呪文を唱えよ。見るがいい……時を止め、ここには犠牲となる者たちがそろっている。試練に耐え、悲しみを犠牲としながら、秩序の回復をするように。」
「……私の命は16年。魔女の家系……16で死ぬ者あり、未来を犠牲にする。おおかみは、16で狼になり旅に出て相手を捜す。ここにいるヴァンパイアは、同族の血の病を悲しみで治す。養うのは繰り返される犠牲……」
「……セイカ。お前の中に、命が二つ……本来、生きなければならない命。お前も……秩序が狂い、異世界への『入り口』が開いたのだ。セイカよ、ミドリと共に二人の子を異世界で育てるように。お前の呪文で、時の犠牲となった時役使も……異世界の秩序となり、この世界のヴァンパイアの病を回復するだろう。方法は、お前に任せる。未来で、すべての秩序が回復する呪文を唱えるのだ。」
「対の聖花。悲しみを貯めるのも、制御するのも時役使。封印はミドリ……緑。解放はスイ……水。」
「すべて、悲しみを乗り越えたとき……秩序が回復するなら、解放を約束しよう。セイカ……その、聖花として見守るのだ。その魔力を与えたのは私。冒険の物語を考えた。呪いも、解放も……幸せを願い備えた道……私の願いとは違うが、必ず試練を乗り越えた。私に悲しみを与え、物語を後悔した。よく頑張ったね……さぁ、未来をあげよう。幸せに……」
幸せな未来
暢&進。
「ノン、何を怒ってるんだよ?」
「怒ってないもん!!男の子から告白されて、気持ち悪い。近づかないで!」
「なんだ、ヤキモチか。ふふ。可愛いね、暢……ね、そのふくれた頬……美味しそう。」
【カプッ】
「にゃぁあ??!」
「……ぷっ……ぶはっ……あはははは!!」
「もう、皆が見て……あれれ??何で、誰もいないの?!!」
「何故かなぁ?」
「分かった!ふぇろもんだ。進のイジワルな雰囲気に、皆が耐えられないんだね。」
「ふふ……俺、イジワル?」
「……い……じわる……だもん。うぅ~~、うそ!!嘘……違う。違わない……嫌い……嫌いじゃない……好き。大好き……もう、どこにも行かないで。置いて行かないで……」
「うん。一緒……これから、ずっと一緒。イジワルなこともするけど。」
烏鏡&改。
「あの、烏鏡?」
「私は改の心が欲しいのに、そんなに妹がいいなら消えて。」
「……何度も謝るから、赦してよ。こんなの、毎日の父さんと母さんだよ……母さんは本気じゃないのが分かるのに……君は、本気なの?」
「……君?他人な言い方ね。いい?一応、時を繰り返してるのかも知れないけど、私が年上なんだから!知ってるのよ?浮気者!!」
「だから、それは俺の中のスイなんだって!!」
「そう言って、これからも浮気とかするの?!」
「しないって!俺は、烏鏡だけなんだよ?」
「……ホント?」
「本当!」
「……私のこと、どこが好き?」
「……え?まだ、どこって……」
「…………。」
「烏鏡?あの、これから!!これから、俺と付き合ってください!!」
「……ふっ……くくく……改、これから宜しくね!」
泉麗&鵠華。
「……あの、泉麗……これは、どういう状況なのかな?」
「ん?お弁当を食べ終わったから、デザート?」
「……私の上に、乗って……デザート?」
「約束、覚えてる?」
「あぁ~~?へへ?あの、泉……んんん?!」
【ちゅぅう~~】
「……ぷはっ……はぁ……はぁ……」
「くふふ……その息継ぎに、舌を入れたらどうなるのかな?」
「待って!!」
「……待てない。16年……父さんより我慢が長いよ。」
「いやいやいや、おかしいよ?その基準。」
「おかしくない。俺は、生れたときから君を求めてた。」
「……泉麗?授業が……私、途中の入学だから……」
「烏鏡の姿で、3年の授業まで先に受けてる。大丈夫。」
「……て、手?どこを触ってるの?!」
「柔らかい胸……へへっ……ふよふよ……」
「やっ!だめ……これ以上は……!」
【ゴンッ】
「……つっぅうぅ~~……?!」
「……え、何、何があったの??」
「このガキ、いい加減にしろよ!!……しかし連歌の変な予知が当たるとは……あいつ、麒麟を呪ってなきゃいいけど。」
「采景くん?!」
「お父さん?!」
「……おぅ、連歌が嫌な予感を告げるから来てみたんだ。泉麗……どけ。俺の可愛い娘に、手を出してんじゃない!!……さ、鵠華……来なさい。」
「うん!!」
鵠華は采景くんに抱き着いた。
「えぇ?!鵠華ぁ?!」
「……鵠華?あの、父さんは嬉しいんだけど……」
「……ん?駄目だった?」
「鵠華、駄目だよ!!減るよ!俺の抱き心地が!!采景くん、ずるいよ。鵠華を抱きしめる年じゃないでしょう?!」
「……苺愛……可愛い。苺愛……」
「て、手をどこに?!ちょ、苺愛さんじゃないし!!鵠華も、おしり触られてるけど?!その抱きしめ方、胸にも触れてない?!離れてぇ~~?!!」
END




