最期の時
泉麗side。
カケラ二つが入ったガラス球を手に、中を見つめる。
あの公園で、あのサクラ……この『緑』のあった場所に立つ。
ガラス球が輝き、光を放った。魔方陣が広がって、違う魔方陣と重なる。
「……来たのね。劾の言っていた未来のカケラ。私の最後の魔力……流烏、そこで待っていてね。あなたを守れないかもしれないから。」
俺に近づくのは年の近い女の子と、白い大きな……狼。
「はじめまして。私は……『継続の魔女』の一人かな?いや、彼女がそうだから私は何だ??ま、いいか♪えと、何の話だっけ??あぁ、名前!安西 百枝、麻生学園 高等部1年生です!!最近、『入り口』を閉じたのは私。えと、他に何を話せばいいのかな??」
何だか、不思議な人だ。
「あなたの魔力の限り、見えるだけの必要なものを俺に教えて欲しい。」
魔方陣が青色に輝く。
「いいわ。この『入り口』を閉じた時のこと……試される時が来るギリギリ。後悔はない?」
「いっぱいだよ。俺は、彼女の名を呼んだこともない。姿も……見ていないのだから。」
「頭のいい子は、悲しいわ。李央を思い出す。……泣かないで……幸せは、必ず来る。諦めないで……人の想いは尊くて、力が在るから。望むのは答え……」
百枝side。
「泉麗……『スピニロブ』は、秩序を保っている。あなたには、どうでもいいかしら?でも、知って欲しい。『継続の魔女』も、試され……その世界を守ったのだから。」
「もしかして改は、あなたたちにも係わったの?」
「えぇ、『継続の魔女』を試した。手を取るようにと……彼はヴァンパイアの雑種として育ち、過去のおおかみが経験しなかったようなことを……」
私の魔力は、どれくらい残っているのかしら。
それは決まった時間まで?それとも、本当に必要な情報なのかしら?
私にはわからない。ただ……流烏……あなたとの出逢いも、秩序だとは思いたくない。
選んだ……あなたを、相手に選んだの。
『最初の魔女』、あなたの悲しみ……
きっと、すべての魔女達は選んだだろう……あなたと同じ選択を。
だから終わらない……
「泉麗、その右手の『緑』……李央の願い。『最後』の希望……」
ただ……願う。この『緑』がすべてを解放することを。
ほんの少し前……この世界で私がした事を見て欲しい。
あの世界と切り離した……
李央……幸せになって。もう、会うことはない……この世界の秩序が守られても……
ヴァンパイアは、魔女の心を手に入れたのだから。あと少し……
泉麗Side
百枝さんの想いを巡る。
魔方陣が暗闇を生じさせた。いや、この公園の夜の出来事?
地面に魔方陣だろうか……闇色の円に朝顔の花に似た花が咲いた紋章。
そこから百枝さんと白い狼が現れた。
声が聴こえる。
『……お願い、閉じて……ここに木を植えるわ。この世界の秩序を守るように……。そして、未来のそこにはない『緑』が……希望となるように。』
「えぇ。『入り口』は、私が閉じる。李央……あなたの魔力はその木で尽きる。私の魔法は、この出来事を知らせて尽きる。時間が違う……世界も……李央、さようなら……」
『さようなら……』
「……泉麗……すべてが終わったら、会えるかしら?これ以上の接触は出来ないわ……時間の流れを感じて。あなたの『緑』。過去の出来事を未来が変えるパラレルワー……」
声が途切れ、魔方陣が消える。
あの朝顔に似た花、この手の『緑』が咲いたもの?
あんな闇はない……この手にあるのはガラス球……それに、時間の流れって……。
閉じられた『入り口』、その場所にサクラの木はあった。
過去の呪いが解かれていない未来より先に、過去の異世界の秩序が保たれた。
『最初の魔女』の計画のまま……物事は順調?
未来はあるのだろか……
『入り口』のあった場所に歩く。
そこを踏んだからなのか……俺の前に、大きな扉が開かれた。
巡る……時を巡る……
これは、改の想い?
『おとうさん……おかあさん……ぼくは、どれだけ がんばればいい?どうして……』
5歳の男の子。
「改……行きなさい。『時の犠牲』を試すのです。時を巡り……異世界にも行くだろう。その手に、何が入るのか……」
この声は、劾さん?
場面は目まぐるしく変化し、俺の前には高校生の改が現れる。
その隣に居るのは……都さん。
「あなたの本当の名は……改。早助として生きた時間は二度目の5歳……。私の息子……私も、苦しんだ。お願い……願うわ。その心にいるスイが消えること。あの子は、消してくれるかしら……自分の持った役目をどれだけ憎んだだろう?時役使として生まれ、魔女の血も引いた……あの人が呼ぶのは、私の名ではない。」
これは、一体……
「泉麗、ここまで来たのね。もう時が迫っているわ。私の正体は、双葉が知る。……私も時を巡った……未来へ。『最初の魔女』の答えを提出するのは彼女……あなたが逢うのはギリギリ。想いは試される。失った秩序は、同じ状況で……違う選択をしたときのみ解放となる。」
「都さん……いや、『最後の魔女』はアナタだったんだね。俺は、未来を見るならいいよ……。」
双葉side。
屋上。
「双葉、麒麟……あなたたちは過去の任務を覚えているでしょうか?苺愛さんが言った、過去の出来事。」
恵の情報……これも、ギリギリだった。
そして俺の役目が来る。
本当にギリギリだ……俺の意味はあったのかな?
過去、病院で話をした苺愛さんのお腹には二人目の子がいた。
麒麟が青ざめる。
「未来のカケラ……待て、瑠璃が見たのは……5人。もう一人……いる?」
「もう時間でしょうか?さぁ、行きなさい……泉麗が草樹のところから出て、役目に行きました。草樹を支え、未来を望み……彼らを見守るのです。私の役目はここまで。」
「……景彩、海波たちを呼んで。緊急事態に備える……集合場所は公園だ!」
景彩が、麒麟の指示に動く。
麒麟、景彩……俺達は、何も出来なかったね。
弊害を乗り越えるのがやっとだった。
そして最後を見る……
俺は医務室に行き、中に入った。
「劾……泉麗は行ったよ。次に見るのがサイゴ……時が来た。」
「草樹、都がいない。こんな時に、どこへ……」
麒麟と俺が部屋に入った時、二人は会話の途中だった。
「私はここよ?」
窓に座り……俺たちを見ている都さん。
その雰囲気が、いつもと違う……目が……緑色に輝く。
「都、訊いてもいい?君は『最後の魔女』なの?」
俺の質問に、笑顔で答える。
「いいえ。違うわ……」
「……都……俺は、心が読める。君の悲しみが痛い。こんな役目のために、俺を選んだの?言ってよ……自分で。こんな話を、俺が言うべきじゃない……言えない。君の名も、君の役目も……犠牲にした物も……」
「役目よ?双葉……肝心なことは、言わなくていい。言ってくれる人が来た。」
【ガラッ】
「ここにいるのか?!」
「閑、落ち着け!」
勢いよく開いたドアから、閑さんと嵐君が入ってきた。
「……き……すず?器鈴……その姿……娘?いや年が……」
閑さんが言ってしまった。
その名に、劾さんが反応する。
「……器鈴?」
「ふふ……くすくすくす……劾、驚いた?……私の悲しみ。『最後の魔女』として多くを犠牲にした。未来を……改を守りたくて……そう、私が『最後の魔女』。双葉、心が読めるあなたには最後の役目がある。行きなさい……彼女を、連れてきて!間に合わないかもしれない!!」
「麒麟、泉麗を頼む!!」
俺は走る……あの病院へ。
サイゴのカケラなのか、中心なのか……彼女が未来を握る。
間に合って欲しい……そのための役目だ。
16年……ちょうどこの日に生れた。何故、疑問に思わなかった?
器鈴(都)side。
「閑、久しぶりね……。劾、あなたの心に私がいたことはない。それが私の犠牲。ごめんね、閑……子どもを失うのは同じ……ただ、一つの未来と希望を願って見守るの。あなたの娘の命を奪った私の息子……閑、あなたは私の相手の心を奪った。私の相手、劾。私は、あなたの記憶から消えた器鈴。あなたは私を都として夢見、想いを抱き……愛した。この悲しみ……」
「……器鈴、君は異世界から来たのではなく、過去から?」
「そう、それも『最初の魔女』の魔法。秩序の均衡の一つ。時役使の役目よ……。気がつかない?あなたと、都として出逢った時には……時巡様は亡くなっていた。いつ、役目を受け継ぐの?……あなたの心に、私はいたのかしら?劾……悲しい……改の受け継いだ『水』は、あなたの役目以上に残酷。」
「……器鈴……」
「近づかないで!!……この話をするのは今じゃない。時間だ。行きましょう……カケラたちのサイゴ。解放か、秩序の崩壊か……『最初の魔女』の求められた答え。私の魔力は、これで尽きる。残らない……必要ないものは消えるのよ。あの狭間のように……」
魔方陣が部屋全体を包み、場所を移動した。
あの公園……この世界の秩序の試練の場へ。




