未来のカケラが消える
暢side。
改君を医務室に案内する。
何だろう……ドキドキする。うん、カッコイイ……
「何?」
「……へへっ。カッコイイなって、思ったの。」
正直に言った私に彼は優しく微笑む。
「ふっ……。君も、可愛いよ。」
お世辞だと分かっているのに、顔が真っ赤になってしまった。
恥ずかしい……
「私、多河 暢。宜しくね!!あの、何でも訊いて?」
何を話していいのか分からなくて、早口で適当に言ってみた。
「……あのクラスは、男子だけなんだね。」
「あぁ、難しいことは分からないんだけどね?ウワサでは、進……私の目を塞いだ子が、ふぇろもん??が多いから、女子は別なのだとか??聞いた。クラスの人数も極端に少ないかな?気にしなくていいよ。特進の頭いいクラスだから、特別なんだね。」
進にふぇろもんって何かを訊いたが、笑うだけでいつも答えてくれない。
ただ、お前には分からないのが残念だよ……って、馬鹿にする。
酷いよ……進、嫌い。意地悪だ。
「ね、医務室は……ここ?」
私の後ろから声がした。
振り返ると、医務室の前で止まり指差している。
「あぁ!!ごめんね!?……じゃ、あの……私、教室に帰るから!!」
「ありがとう。」
改君と別れ、教室に戻る間……ずっとドキドキしていた。
進とも泉麗くんとも違う。
親類周りは、綺麗な人やカッコイイ人が多いけど……何かが違う。
これって恋?!!
わわわっ……どうしよう??!どうしたらいい??この胸のムズムズ……
へへっ……幸せだ。遅い初恋だ!!
私の隣には、進が常にいた。
進の何が怖いのか、泉麗くん以外が近づいたのを見たことが無い。意地悪な証拠だ。
私を仲間ハズレにして、よく女の子たちと仲良くしてるのも知ってる。
何の話か訊いても、答えてくれない。
お父さんに告げ口すると、爆笑だ。何故?!
優貴くんに訊くと、笑えない……と、落ち込んだ。何が?!!
私は成績がいいのに、世間からズレている。多分、それも進の意地悪だ。
くやしいぃ~~!改君を好きになったなんて、絶対に教えない!!
進side。
苺愛さんと別れ、双葉君と学園まで歩く。
「進……ノンは、幼い。お前が甘やかし過ぎた……残された時間では、想いは……」
「双葉君、泉麗を頼むね。泉麗が『最後の魔女』だと思っている人は、違うんだ。双葉君にしか分からない。心を読めるのは、その為だね。」
「……進。優貴さんは、俺達を見守ってきた。俺はお前に何が出来る?」
本当は怖い。俺の心には恐れと不安……そして心残り。
「ノンは……この手に触れられるかな?多分、心は無理……護ってきたつもり。それで嫌われる。俺さ、草樹くんが憧れなんだ。父さんは、母さんに勝てないし……嫌いじゃないけど?」
涙が出る。何に対してなのかが分からない。
「時の犠牲たちの話の中に、お前みたいな奴が居たよ。ずっとそばにいて、想いに気がついたのはギリギリだったと……。」
『希望は相応しくないと、生き方を惑わす……』
美衣さんの声が聴こえた。
「進。行け……時は短い。想いを伝えろ……」
双葉君の頬を涙が伝う。
泉麗に、もう会えない気がする。相応しくない希望を犠牲に、俺たちは何を得る?
ノン……昔は俺に微笑み、何でも話してくれたのに。
君に触れたくても、泉麗が彼女に触れないから……
泉麗の見ているものが辛くて、俺も我慢したんだ。本当は、この時を知っていたのかもしれない。
喪う事を恐れて、俺も生きてきた。
瑠璃さん、あなたの目は閉ざされた。
双葉君は……近くに気配が無い。別の路に行ったのか……これも魔女?
『最初』『最後』……どちらでも関係ないか。時ではないだけ。
俺は、自分の役目に走る。聖花に捧げる悲しみのために……
ノン……暢……君に、俺の気持ちが伝わりますように……
学園の敷地に入り、お昼の時間だと気づく。
いつもの中庭に向かうが、いない。嫌な予感がした。
学園の役員達に情報をもらう。
「……屋上で、転校生と一緒です。」
奪われたノンの心に、俺はいないかもしれない。
俺は、誰か他の人を選ぶ?呪いも弊害もない……試されるのは想い……それでも『最期まで』。
屋上に走り、ドアを開ける。
区画が3つ。ここではない。二つ目の区画に向かう。
「進くん?あの、話があるの……」
後ろから、知らない女の子の声。
「ごめん、急いでるんだ。今度に……」
「……進?」
ノンが、俺の通った道で飲み物を持って立っている。
紙コップは2つ……
「ノン……」
「どうせ、私には関係ない話だもんね?ふんっ。女の子を泣かしてるなんて、最低!……ぅ~~……ぃ……嫌い……嫌いだもん!!」
紙コップから、中身が零れ……つぶれたコップが地面に落ちる。
「……君、ごめんね。俺、ノン……暢が好きなんだ。外してくれる?」
女の子がうなずいて、走り去る。
その言葉に、暢が驚いた顔をした。
「……好き?私を??うそ……嘘だ。意地悪な進が、私を好きなはずないもん!!改君は、優しい……意地悪をしないよ?これも、意地悪なの?ひどい……」
俺の後ろから声がする。
「ノン、俺の手を取ればいい。彼から護ってあげる。おいで……」
「駄目だ、その手を取るな!!」
「進のバカぁ~~。」
暢は俺の横を通り過ぎ、改の方に走る。
改の差し出した手を取った。
「暢!!」
俺に舌を出し、改に笑顔を向ける。
「あぁ~あ。手を取っちゃった……ふふ……くすくす……今まで、誰もこの手を取ることはなかったのに……」
地面から、水の矢が現れ空中に浮かぶ。
暢は、時間が止まったように動かない。
「暢、来い!!逃げろ、離れるんだ!!」
俺の声が届かないのか、動かないまま。
水の矢は、ゆっくり……暢のほうに動く。真上に集まり、今にも降ってってきそうだ。
「改、待て……最初は俺だ!!」
そう、俺が最初に死ぬ……暢を護って。
とうとう想いは通じなかった。
心が痛む。これから死を目の当たりにするというのに、痛むのは心……
その苦しみが俺から解かれるのが、死なのか?
暢……泣いてくれる?俺のために……
その悲しみが犠牲になる?それとも、改への想い……失恋なのかな?
降り注ぐ矢……
暢を護り覆い被さる俺の背に、痛みが無数に。
俺の下で、固まったままの暢。
……これが最期……
「ごめん……」
赦さなくていい。怨んでもいい……
その心に、俺がいるなら……なんでも……
背に衝撃がなくなり、意識が遠退く。
痛みが酷過ぎてか出血の為か、何も感じていないような錯覚。
暢の口に、そっと唇を重ねる。
これぐらい、お礼にもらってもいいよね?
……俺の好きな女の子……大事な……大切な……暢。
父さん……友達の泉麗も救えないままだ。ごめんね……
ごめん、泉麗……お前は、相手を手に入れる?みんなが笑える未来はあるのかな。
暢…………
暢side。
唇に、柔らかい感触……温かさ……
目を閉じたまま、私の上にいる進。
体を覆う暖かな温もりが、冷たい液体で濡れる。体温を奪う……コレハナニ……
「重い……進?意地悪……退いて、起きて……お願い、いや……うそだ……違う……夢?重い……冷たい……」
【ヌルッ】
手についたそれは……赤い……
「進?し……ん……進!進!!進~~!!」
思い出す……
呼べば、必ず振り返る。
笑顔で私に優しく触れ、頭を撫でて後頭部にキスを落とす。
「つむじ……可愛い……」
いつも、何かが“可愛い”と言ってくれた。
進の口は閉ざされ、目も開かない……微笑むことはない。
私の名も……呼ばない……
私は、ナニをした?何を選んだ?……最期に、進に……何を言った?
サイゴ……もうない?……喪った……失った……進……
「……進!!」
聞き覚えのある声と同時、自分にかかる重みがなくなる。
「イヤァ~~!!返して、奪わないで……進!!違う……ごめんなさい……嘘だと言って、いつものように笑ってよ!!」
泉麗くんの体にもたれる進に抱きついた。
進の体は冷たい……自分の体が、赤く染まっていた。
優しい声が上から注がれる。いつも泣く私を慰める進の声ではない……
「……ノン……ごめん。抱きしめてやれない。進の大切な人に、触れられない……思い出して。俺が、進のように君に触れたことがある?」
「…………。」
ない。撫でてもくれたこともない。
「……泉麗くん、何をしていたの?進……起きるよね?また、意地悪……だよね?意地悪……じゃないの……知ってる。他の女の子には、怖い眼をするの。声も怖いの……」
「……ノン、俺はその悲しみに染まった心が欲しかったんだ。さようなら。」
改君は、私の好きな人じゃなかった……
「ノン!!」
私の体を、痛みが走ったのは一瞬だった。
どうせなら、同じ痛みを頂戴……
「進、あなたが優しいの……知ってるよ……好き……大好き……」
力を出し、進の冷たい唇にキスをする。
……遠退く意識……
懐かしい思い出がよみがえる。
幼い頃から、ずっと一緒……これからもずっと…………




