パラレルワールド
「父さん、先に出るからね!また遅刻したら、俺が恥ずかしいんだから。て、聞いてる?」
朝は、両親のイチャイチャで始まる。
年の差15の二人。ま、仲がいいのは良い事だ。
父、草樹。母、麗彩。
二人の息子の俺、松木 泉麗。私立冬北高等学校一年生。
「泉麗、気をつけてね。」
「うん、行って来ます!」
俺は走って、いつもの家を目指す。
そして目的地に辿り着いたと同時で叫んだ。
「烏鏡~~。お迎えだようぅう~~♪」
【ガッ】
ドアが勢いよく開いた。
「うるさい!毎日毎日、何度言えばわかるんだ。泉麗……お前には、烏鏡はやらん!!」
「そうだ、言ってやれ。采景……こういうタイプは、釘を刺さないと……刺さないと……クスン。」
「あぁ、うざい。連歌、いつまで泣いてんだ!仕事に行け!!」
烏鏡の父である采景君は、俺に警戒心でケンカ腰。
俺の父、草樹と双子の連歌君まで俺の邪魔をする。
娘が鬼畜の嫁に行ったから……『娘を取られるな』の会を発足したらしい??
「おはよう。」
騒がしい二人を押し退け、烏鏡が家から出て来て挨拶をする。
「おはよう。」
「……ね、その甘い匂い……私は好きじゃない。」
ふふ……君は知らない。この匂いは、俺の相手である証拠だ。そして君の相手は……。
君は、君じゃない。時は来る……
「おい、ジュニア!」
「……泉麗だよ。采景くん、何?」
引き留めておきながら複雑な表情で、言葉を探しているようだ。
「お前の相手は、……」
「……知ってる。間違えないよ、俺は。心配しないで……」
みんなが心配するけれど、俺は死なないよ。
「泉麗、行くよ?」
彼女の父、采景君はおおかみ。母、苺愛は魔女。
大上 烏鏡。私立冬北高等学校 三年生。
そして『最後の魔女』……
学校への道程。
歩きながら烏鏡の視線を何度も感じるけど、気づかない振りをする。
最近、烏鏡は何かを感じているみたいだ。
「ね、泉麗。」
「ん?」
「私に、隠している事があるでしょう?」
言いたいことをついに尋ねた……そんな感じだ。
「うん。知りたい?チュウしてくれたら教えてあげる。」
冗談ぽく、自分の唇に人差し指を当て、意地悪に言う俺に真剣な眼。
「する。教えて……」
烏鏡は足を止め、俺の服の裾を掴む。
俺はニッコリ笑い、烏鏡の右手に触れる。
「うっそぉ~ん。……無いよ、隠し事なんか。」
泣きそうな顔で、君が俺を見つめる。
ごめん、卑怯だね……それ以上、訊けない雰囲気を作った。
解っているよ……でも、時じゃないんだ。
「烏鏡……笑って。お願い……俺はそれ以上、求めないから。」
「……嫌よ。あなたは、誰を見ているの?」
「君だよ……烏鏡。君だけを見ている。生れたときから……君だけだ。」
「……嘘つき。」
「それは、嘘じゃない。さ、行こう……遅刻しちゃうよ?」
嘘じゃない。君だけを見ている。
この手に握る君の右手には、5つの花びらのある花の形のアザ。
そう、聖花だ。あの日から君は俺の相手。間違えない……俺は、君だけ。
学年の違う烏鏡を、いつも別れる廊下で見送る。
必ず振り返る君に手を振る日課。
俺が触れるのは、その右手だけ……
セイカ。未来も過去も関係ない。
俺の父は、冬北高等学校の医務室に担当医師として勤務している。
そして、未来を垣間見る劾さんを警護する任務も持っている。
俺は、その役員の一人。
教室より先に医務室へ向かう。
医務室に入り、劾さんの不安そうな表情に何かを読み取った。
「……泉麗。今日、息子が転校するよ。」
「時が来たんだね。」
ただ、出た言葉はそれだけ。
両親が俺の成長を喜び、涙した理由。知ったのは、夢を見た日。
幼いながらに恐怖に震え、両親に言えず泣いた。
俺が落ち着いているように見えるのが、劾さんや両親の安心要素だった。
本当は……怖い。失うことと喪う事。
采景くんと苺愛さんの苦しみは、また違うものだっただろう。
烏鏡……君の本当の相手が現れる。
改……間違えないで、君の相手であってそうじゃない。
「……草樹、お前は平気か?俺は気が狂いそうだ。」
窓際にいる父が俺を見つめた後、劾さんに視線を移す。
「劾……みんな一緒だ。16年……皆が、同じ気持ちで生きてきた。」
16年前、劾さんはこの未来を観た。
そして、関係する父と采景くんに告げた。全貌の見えない未来……
「子供達を見つめ……愛しさに、喪う事を恐れて生きた。これも犠牲の宿命か……」
父さんは、おおかみの雑種として……呪いの解放に犠牲の役割を選んだ。
「父さん、改と出逢う。俺も夢を見た……過去と未来を少し。」
怖い……ただ、その言葉を呑み込む。
【コンコン】
「草樹、泉麗はここにいるかな?」
「麒麟か。いるぞ、入れよ……」
俺の上司の聖城 麒麟。連歌君の恨みの対象だ。
言いたい言葉を閉ざした俺に、麒麟くんは苦笑い。
「また連歌君が、いたのか?気にするな。」
「気にするよ!」
「俺の父さんは、草樹の心配をしていた。それに近いのかな?多分ね……」
麒麟くんは父に微笑む。
「あん?俺は、ヒツジに邪魔された記憶しかねぇ~ぞ?」
父は不機嫌な振りだ。
麒麟くんの父は羊二……身内は、呪いの関係者が多い。
みんなが常に、呪いや弊害と戦ってきた……そして、俺も『最後』を望んで時を迎える。
「先は見えない。分かるのは剣を交える二人の姿だけ。『最初の魔女』は……これから明らかになるのか?」
劾さんは、外を見ながら呟いた。
誰かが死ぬかもしれない未来。俺達が生れる前から、見えている出来事。
呪いの弊害が、複雑に絡む。
最近は、色々な情報で気分を紛らわす。少しでも違う未来を願って……
「呪いの伝承すら曖昧だ。雑種の管理していた資料でさえ、異世界の話なんか残っていない。予言の魔女の後世らしいが、その美衣でさえ知らない。」
美衣さんは、過去の異世界を救った。
「異世界にいた都は、その過去になるが情報はない。」
劾さんの妻の都さんは、異世界から来た人。
「泉麗……あいつは、相手を見つけるだろうか?」
「分からないよ。ただ戦うのは、事実……。烏鏡は一人……だから。」
息子を殺すかもしれない俺。そして、その父の警護を受ける。
劾さんの目に、俺はどう映る?
改は、時を巡る……役目を果たしながらここに来る。
烏鏡と出逢うため……そして、聖花を手に入れるため。
セイカの心は過去のもの。それでも出逢うべき者と巡り会い、時を繰り返す。
壊れた秩序を補うために。
セイカの心と聖花の役目は違うというのに。
俺の体を貫くのは、改の剣ではない。俺の命を奪うのは……
消える命は俺かもしれない。
この手は君を抱くことも……ない?囁く愛は過去と同じ……君に届かない?
特進一年A組。
「神成 改。海外の姉妹校にいました。この度、家族と共に住むため帰国。仲良くしてください。」
自己紹介で、黒板に名を書く改の右手に『水』の王冠が見えた。
当然、目覚めている。
俺が生れたときには、この右手に『緑』があった。何度、夢見たか……
水の矢が俺に振り注ぐ。剣が交差し、貫くのは……あの剣……
「……り、泉麗!!」
先生の声に、現実に戻された。
「はい?」
「後は頼む!」
俺に手を合わせたかと思うと、先生は改に何かを告げ、慌てて教室を出て行った。
改が俺の前に立ち、微笑む。
「……はじめまして。」
差し出される手は、アザのある右手。
俺はその手を取ろうと席を立ち、微笑む。
「宜しく。」
右手が重なると同時に、静電気のような痛みと火花。
「?!!」
視線が合う。
お互いに何かを悟った。張り詰める緊張の中……
「泉麗くぅ~~ん!!」
俺の体に衝撃。
「……暢!?」
多河 暢。
嵐くん・閑さんの娘。俺の幼馴染みだ……
「へへっ……ん??誰……」
初めて見る改にノンの時が止まった。
……え?見つめる眼が今までにない反応。
「見るな!」
ノンの両目を塞ぎ、抱きしめた色気の駄々漏れる男が邪魔をした。
同じクラスの多河 進、優貴くん・綾さんの息子だ。
「進、見えないよ??離して。」
彼の色気が通用しないのは、ノンだけ。
「ノン、俺の後ろで待機!」
「ぶぅ~。進のばぁか。」
ふくれながらも、言うことを聞くのが可愛いのだろう。
改は、自分の周りに人が増えたので戸惑っている。
さっきので、俺が何者かが分かったのも関係するのだろう……
「改、会わせたい人がいるんだ。俺のことも、そこにいる人が教えてくれるよ。……まだ、時じゃないよね?」
どれくらいの時間が許されていたのだろうか?
俺には解らない。
「……あぁ。」
改は俺の不安に、どこか安心したようだ。
「ノン、医務室に案内して。」
俺は進の肩に、手を乗せた。
進は、ゆっくり下がりノンを前に出す。
「うん?草樹クンと会うの?」
「あぁ、案内したら教室に戻れよ?」
俺とノンの様子を、進と改が見守る。
「迷子にはなりません!!……えと、誰君?」
「改……宜しくね。」
改は俺を振り返って見ながら、教室を出て行く。
進は、優貴くんの子だね……俺の気持ちを理解している。
俺の逃げたいときに、力をくれるのは……
「進。ごめんな?」
「大丈夫だよ。未来のカケラは、五つ……中心は誰だ?」
「……進?」
常に、時の犠牲を動かしていたのは聖花だ。
俺達は未来のカケラとして選ばれた5人。まさか……
「来いよ。改が劾さんと会っている間に、役員衆で会議だ。泉麗……俺さ、ノンが改に惹かれるかもしれないと予測していたんだ。」
「……試されるのは、人への想いだから?」
「ふっ……俺の色気は、どこから来るのかな?」
「……家系かも……」
綾さんは、小鹿さんと親類になる。
多分、魔女の血筋……流れているなら……
「泉麗、謎が多すぎる……俺は、何かを隠している奴がいると思うんだ。」
進は、走りながら言う。
「うん。必要な情報は、時が来るまで得られないものだよ。」
時は、間近に迫って来ている。
役員衆は7人。
父の草樹・俺の上司の麒麟くん・双葉くん・景彩くん・海波さん。そして俺と進。
任務に使用する一室。
「泉麗……これ、私と蓮美からだ。」
海波さんが、俺に透明のガラス球を手渡す。
「魔女の力が、お前の『緑』にはある。『継続』の魔女と『最初』の魔女、蓮美の魔力。草樹は、おおかみの雑種……お前は、少なからず魔力のある家系だ。……これで私達の魔力は尽きた。見守ることしか出来ないだろう。」
「……ありがとう。」
空気がいつもより重い……
「泉麗。ボスから情報を得た……改が巡った時や、魔女の想いを辿ることが出来るかもしれないと。彼女達の魔力をもらったのがそれだ。おおかみと魔女の家系からは、それが限界なんだ。泉麗……」
役員衆を、俺のために続けた父さんの想い……
「まだ時じゃない。ここに帰ってくるよ……想いは、こんなに簡単には終わらないから。試されるのは記憶じゃない……」
「分かっている。だから、辛い……俺は常に多くの幸せを、観ることを願って生きてきた。それが俺の役目だ……俺が選んだ未来。お前を追い詰めたのは、俺だ……」
「草樹君、時間がない。泉麗が行く前に、伝える情報があるだろ。俺達では、不安か?」
麒麟くんが父の肩に手を置く。
「悔やまないで。父さんの選択がなくても、俺の役目はあったよ。さ、情報を頂戴。父さん……」




