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C【派生シリーズ】邪  作者: 邑 紫貴
9おおかみで勝負

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相手は誰??


フワッ……いい香りだ。風に乗って、どこからか甘い……

前にも、嗅いだことがある。花の匂いかな……

暖かい日差し。匂いに誘われ、歩き始めた。

歩いて近づく筈の距離が縮まらない……いや、離れていく??

これって……もしかして、相手??

俺は走り出す。そして、ある木の前で足を止めた。

花が咲いて甘い匂いがする。……違った。

勘違い?……はは……笑える。

俺は、その木に口付けた。

「……好きだ……愛している。必ず、見つける……君を。だから、待っていて……」

甘い香りが俺を包む。幸せな、満たされる心。

この木……何の木なんだろう?

……ん?眠気が急に……俺は、意識が遠退いていく。

長い髪……俺の頬に、冷たい液体……君なの?

「……麒麟。忘れて……時間がない。もう、行かないと……」


目が覚めた俺は、木にもたれていた。

その木に花は無く匂いもしない。逃げられたのか……?

きっと相手には何かの力があるんだ。穂波が言っていた事……

悔しいな、記憶が戻ったら覚えていろ。

海波先輩と同じ、魔女の力なのかな。君には記憶があるんだね。

そして俺の様子を見ている。さっきまで俺の近くにいた。

今まで、匂いは感じなかったのに?

鵠華が相手じゃなかったのだとすれば……君は、俺の様子を見て何を感じたのかな?

それとも、鵠華……去ったとみせかけて、俺を誘ったの?

どちらにしても試されているのは確かだ。

畜生!!悔しい……消えた記憶が、自分が得ていたものが羨ましい。

手に入れたくて、気がおかしくなりそうだ!!

君の名を……呼ぶことさえ、叫ぶことも出来ない。

涙が零れる……

心が、淋しい。空いたままの心に、君がいるはずなのに……君に触れたくて……

もう、あの匂いはしないかも。

匂いを追って来た俺を、君は避け……逃げる。

どうして逃げるの?君は、俺以外の人を選んだの?

赦さない……

木を見つめる俺の背後に、気配。

「君さ、諦めて欲しいんだけど?」

男の声に、振り返る。

「……君は、誰なの?」

「俺は、ミドリ。君の相手はもういない……そう教えに来たんだよ。」

「ミドリ……返せ、俺の相手だ!!」

「……くすくすくす……嫌だね。相手を思い出すことも、見つけることも出来ない。ふん……今までのおおかみの中で、最悪だ。」

確かに情けない。それでも必死なんだ!!

「俺の相手の名を教えて……苦しい。心にあるのに、口に出来ない苦しみに……狂う。プライドも、いらない。俺の相手……名を呼びたい。淋しい。おかしくなる……」

「手に入れればいい。」

ミドリは笑う。

「これは試練なんだよね?何を試すの?……もう嫌だ。逃げたい……こんな狂気に、堪えられない。俺の相手は誰なの?俺が選ぶ?違う……何かが、おかしい。なのに、これ以上は考えられない。ミドリ、返して……君のじゃない。俺の相手だ……分かる。俺は、失ったら……独り。」

「……駄目だよ、出てきたら。君の心を壊しちゃうよ?魔女の血が、呼ぶんだね……でも、駄目。」

近くに居るんだ。けど、匂いが無い……

「別の人を選ぶかもしれない。それでも、幸せはある?」

「……無いよ。そんな、おおかみは今まで居ない。君の父親は、卑怯だね……もう少しで、時を短く出来たのに。俺の手に、沢山の…………君も、俺の手に掛かればいい。楽になる……願いを叶えてあげる。」

「違う。父さんは、卑怯じゃない。母さんに嘘をついたのは、護るためだ!」

意識がはっきりしない。目が覚めたはずだ……

けど、これは現実なのか?暗闇に、自分が沈んでいるように感じる。

「麒麟、君の近くに相手がいるよ。ね、気がついてる……名を呼べばいい。」

「……違うのか?彼女じゃない?……俺を惑わすの?」

「さぁね。親切かも知れないよ?何故、彼女を俺が捕らえているか……知りたい?」

「聞く……言ってみろよ。」

「俺の……いや、俺達が消えるには悲しみが要るんだ。沢山の人を想う心……犠牲だ。時に手を出した報い……秩序を保ち、ときに命を永らえる。繰り返す悲恋の歴史……本当の解放が、近い。もうすぐ、俺の主が俺を呼ぶ。それまでに、君が見つけるまで……俺の存在を維持する餌だ。」

……エサ……?

「命を削るのさ。君が、見つけない限り……命を懸ける。」

風もないのに、多くの葉が俺にまとわり視界を遮る。

……視界がはっきりしたときには、ミドリは居なかった。

命を削って、俺を待っている?

その後、小等部を捜したが……匂いはしなかった。

双葉の言う通り見つけるまで、どこにも行かない。行けない。

君を捜すよ。だから死なないで……

俺を独りにしないで。君を喪ったら、生きて行けない。求めるんだ……


俺は、夢中で走る。

待ち伏せる女の子たちを、退け……捜す。

見て、分かるのかな?心が今までに反応したのは、鵠華だけ。

違う?そうなのかな?

『近くにいる……』

ホントウニ?

……けど、最後は……本当の情報。

命を懸けて……俺が探し当てるのを信じてる。待っているんだ……

息が切れ、汗が流れる。

「下衆……走るな。ほこりが舞う……」

海波先輩?

「……景彩は?」

いつも、セットのイメージだ。

「くくっ。馬鹿だね……頼れって、景彩は言わなかったかい?」

壁にもたれ、ニヤリ顔。

「景彩、怒ってるの?」

「かなりね。私にも、とばっちりだよ……触れさせても、もらえない。欲求不満だよ?」

「女性は、あまり……そんなことは、ないでしょう?」

「ばぁか。求める気持ちは一緒だよ。さて、どうするか……」

穂波は、海波先輩の力がどうしてあるのかと……

力、魔力……俺の相手の命を護れるかもしれない?

どうして、気がつかなかったのか。

「ふん。……人に頼る必要性がわかったか?」

「助けてください!!海波先輩、俺の相手が死んでしまう!」

海波先輩の嬉しそうな笑顔。

「しょうがないなぁ。助けてやる……しかし、捜すのはお前の仕事だ!見つけろ。落とせ!」

「はい!!」

俺は、命の繋ぎを見出した。

もうすぐ、小等部の下校時刻。学園内にいるのか?今日は、無理なのか?

汗で、寒気がする。一旦、着替えようかな。


任務室に入り、シャワーで軽く汗を流す。

準備している着替えを取り出した。

……ん?鏡に映る自分の姿に、違和感。

胸元に、小さなアザ。

……?何かの花だ。ピンク色……何だっけ?

てか、俺の体に何故??まさか、相手が??

…………。

あれ、上半身に……こんなことする仲ですか??

やべ……顔が緩む。想像が膨らんでいく……。

見たことあるんだよね……田舎道。

旅行先で見た……一面のレンコン畑だと言っていた気がする。

ピンク色に、白い花も……蓮……はすだ。蓮の花……

【ポタッ】

……何だ??水……雨漏り?

違う、俺の涙だ。

はは……何だこれ。流れ続ける……嬉しい。湧き上がる……

「はす……。」

蓮……蓮美だ!!

……君からのヒントを見つけた。情けない……負けっぱなしに、ヒントまで。

けど、見つけたのは俺だよ。小さなカケラ……君からのメッセージ。

記憶が戻る……ほんの短い幸せな時間だった。

これから増やすんだ。俺が、勝負に勝つのも絶対だ!!

蓮美、愛している。俺の相手……君の名……君に囁く愛と共に、愛情を込めて呼ぶよ。

一生だ……


「あら、残念……思い出しちゃったの?」

……任務室に、鵠華??

「ここは、役員でも上層部しか知らない……」

「どうでもいいわ。ね、麒麟?物ってね、呪いをかけるときに使えるのよ……知っていた?」

鵠華は、以前に使った俺のハンカチを見せる。

「鵠華……君は、呪いの関係者?」

「ふふっ。原因……それが一番、近いかしら?蓮美は、彼の手にある。あなたは、私の手……」

「……記憶を、また消すの?」

「どうしようかしら。こんな場面って大抵、二人を別れさせるきっかけを提供するのよねぇ~。」

誤解を生むような?

蓮美……。君を、これ以上……悲しませたくない。

「あなたの決定を知りたいわ。麒麟、私と付き合っている噂を流して、彼女を苦しめるか。彼女を選んで、あなたが命を喪うか。どちらにしても、悲しむわね。」

「鵠華……君の目的は、何?時間稼ぎなの?蓮美に、今から会うといけないの?それとも……」

「ふ~ん。冷静なのね……面白くないわよ。可愛くない……私たちの家系のくせに。丁度いい時間かしら……怖いのよ……未来が。私達が見守る、犠牲たちの辛い想い。麒麟……一人で行っても、蓮美は手に入らない。私と、海波の力が要るの。行きましょう……未来のために……」


俺達は、海波先輩の教室に向かった。

「……浮気だ。最低だ……こいつ。」

俺の後ろにいる鵠華を見て、海波先輩はそんな台詞。

酷いよ……

「さぁ、綺麗な君……こんな最低男より、私を選びませんか?」

鵠華の手を握り、壁際に追い詰める。

……え?これ、俺にどうしろと??てか、景彩が見たら……

「海波……綺麗な人だね。おかしいなぁ、君の好みは可愛い系……だ・よ・ねぇ?」


……しばらく、お待ち下さい。


「さぁ、行くぞ!下衆……」

……拗ねた景彩は、俺の腕に抱きついたまま……泣いている。

この状態を作ったのは自分なのに、凄く怖い目で俺を睨む海波先輩。

「君達は、面白いね……。これも、弊害なのかしら??入り口に向かいましょう。あなた達がすべてを知るのは、もう少し未来でしょうけど……。」

入り口……あの公園か。

そこに蓮美がいるんだ!


公園には、双葉と一葉に瑠璃がいた。

鵠華は瑠璃の頬に両手を当て……見つめる。

「……時の……封印がされてるわね。」

「はい。解放されるまで……されても、この力は……目覚めません。」

都さんが、彼女の力を封印したんだ。

「……そう。海波……魔方陣は、見えるわね?」

「あぁ、蓮美ちゃんも見えるよ。」

嬉しそうな海波先輩を、睨んでいる景彩の怒りが怖い……

俺には、蓮美の姿が見えない。匂いもしない……

不安と期待でドキドキする。

ミドリの姿もないし、邪魔は入らないのか?

「では、行きます。」

〈 ☆★※◇ 〉

呪文に、海波先輩の魔方陣が広がる。

「うわっ、強い風が痛い……」

渦巻く風が、公園を行き来する。

『解放を願う!』

明るい光に、一瞬……何も見えない。

閉じた目を開けたはずが、視界が定まらない。

「蓮美?」

呼んでみるけれど返事は無い。目を擦り、霞む視界を凝らす。

「……蓮美?」

目に入ったのは、低い木にツタのようなものが絡んで。

蓮美の捕らわれている姿。

「穂波。出ておいで……いるんだろ。これからは、近くに居ないと護ってやれないぞ!」

海波先輩の叫ぶ声に、穂波が木陰から渋々やってくる。

それを確認した海波先輩が俺を突き飛ばした。

「……??!」

「行け。出来るのは、ここまでだ……」

魔方陣から、追い出され……異空間になっているのか地面に違和感。

歩いている感覚が無い。沈み始め、恐怖に足が止まりそうになる。

「蓮美……蓮美?……起きろよ、蓮美!!」

呼んでも、問いかけても……叫んでも反応が無い。

手遅れ?……いや、それなら意味が無い。

こんな沈む空間……俺を試しているんだ。

魔方陣に手が届いた。沈みきった体が重い。

這い上がる体力が残っているのか?畜生……もう少し、あと少し……

蓮美、蓮美……俺の相手……喪いたくない!!

胸の位置まで沈んでいた体が腰まで上がり、魔法陣の広がる地面の位置に足をかける。

残りの足が抜けた状態の時には、力はほとんど残っていない。

息が乱れ、立ち上がるのも辛い。意識も遠退きそうだ……

魔方陣を這い、蓮美の足元に辿り着く。触れた足は、体温を感じた。

ホッとして、涙腺が緩む。

……生きてる……。

両手をつき、右足に力を入れる。

木……と言うより、草……?

自分の体重を蓮美にかける形になるが、絡んでいるそれはビクともしない。

蓮美も起きない。

『命を削る……』

俺は、蓮美の頬に手を当てる。

柔らかい……温かい……

「蓮美……俺の命に代えても、生きて……目を開けて、俺を一瞬でも見てよ……」

唇を重ね、深いキスをする。

包まれる幸せは、薄れる意識に悲しみを加え……味わったことのない感情だ。

薄っすら目の開いた蓮美の視線を受け、俺の意識は途絶えた。

蓮美……君は、俺の相手。

俺の命は、ここまでなのかな?


〈 ☆☆☆ 〉

……聞こえた海波先輩の声に、俺の体が軽くなるのを感じた。

目を開けた俺を、みんなが囲む。

「……!?生きてる?」




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