手が出せない?
他の役員に呼ばれた恵は、俺に何度も手を出すなと念押しして部屋を出た。
…………。
俺、そんなに……鬼畜ですか??
離れた所から、寝ている蓮美を起す。
「お~い。蓮美、帰るぞ?起きろ!……襲うぞ?」
最後の一言は、小さな声で言ってみた。
「くすっ……いいですよ?」
蓮美は起きていたのか、長いすに寝返りをうち、可愛い笑顔を向ける。
やばい!!このままでは、まずい……
「嘘だよ。さ、起きたのなら帰るよ?」
俺は席から離れ、入り口に向かい背を向けた。
「……起して?」
お誘いの甘えた声。
背中に、遠くの色気を感じるのは……どうしてなんだ!?
「駄目です。ここまで来たら、手をつないで帰ってあげる。」
手をつなぐので、止めるのだ!
「意地悪です、麒麟。私は歩けません、抱っこしてください!」
可愛いお願いに、背を向けたまま顔が緩む。
「蓮美、とりあえず……この部屋は駄目なの。さ、行くよ?」
「……ぐすっ……うっ…………」
泣いてる??
思わず、振り返ってしまった。
「……ね、抱っこ……大人しく帰るから。ねぇ?お願いです。」
涙目に、首をかしげ……
動いたからなのか、わざとなのか……イスに足を乗せ、スカートが……
あぁ!!もう!!
俺は蓮美を抱きかかえて、その部屋を出た。
そう、俺の負け!
蓮美は嬉しそうに抱きついて、頬を俺の肩にすり寄せる。
その度に髪が揺れて……俺の頬をくすぐり、いい匂いに我を忘れそうになる。
「蓮美……卑怯だよ。勝負にならない……俺が不利だよ。」
「はい、だから甘えます。麒麟……ごめんね……」
ごめん……??
蓮美の表情は見えない。
「蓮美……」
「この、子鬼畜が!!」
……?
低い声に、足が止まる。
「お父さん、お帰りなさい。」
振り返ると、仕事帰りの連歌くん。
「あ、こんにちは。ほら、蓮美……下りて?」
「嫌です。お父さん、麒麟は温かいですよ?熱いときは、ドキドキします。」
?!!
「違……蓮美、またそんな誤解のある言い方して!?連歌く……違うよ!!」
「黙れ!この鬼畜め!!」
連歌くんは、俺の腕から蓮美を奪う。
確かに、温もりが……消えて淋しくなる。
「蓮美、いいですか?鬼畜は、容赦がありません。体力のない蓮美は……」
「お父さん、お母さんはいつも泣いています。」
「……こほん。じゃ、麒麟。またな!」
…………。
そそくさと、連歌くんは逃げた。
少し動揺しているのかな??
蓮美は、連歌くんの肩にのり……笑顔で手を振っている。
片手を挙げ、笑顔を返すが……勝てない現実に、風が冷たく感じる。
「あぁ~あ、連歌くん。墓穴掘ったね♪」
「……双葉、いつからいたの?」
「さっき。恵が、とぉ~~っても心配してから?来てみたんだ。ふぅ~~ん。くすっ。」
……何、そのくすっは??
「読むなよ?」
「面白くないな♪警戒しすぎ……ん?あぁ!勝てないのは、今だけだよ。」
「ちょっと、何を読んだのかな??てか、今だけって……本当に??」
希望を見たようで、双葉に詰め寄った。
「近い、近いよ!麒麟……必死なの??」
「うっ。必死にもなるよ!手が出せない……あぁ、大きくなったら出し放題か!」
「……麒麟、そこが……鬼畜なんだよ。」
テンションを上げて、突き落とすのが双葉だ。
「双葉は、S だね。」
「あぁ、父さんの本来の部分だね。ひいおじいちゃんのトラウマがなければ……」
「何、それ……」
「うん?いや、一葉も不器用だからね。ひいおじいちゃんに怖い目に遭わされたのさ。俺は、この性格で交わしたけどね♪」
「……優しさは、もともとじゃないのか?」
「うん!女性には、優しく……って、ね♪」
学園への道を戻りながら、そんな会話をした。
おおかみ達は相手を手に入れるのに必死だ。相手の気持ちさえ、無視しても……
その道中、役員の一人が伝言を伝えた。
俺たち役員は任務に携帯電話を使わない。
特殊な装置もあるが、基本は優秀な信頼できる人で、やり取りをする。
記憶には残すが、紙や残る形は避ける。盗聴や盗難の可能性を防ぐのだ。
「月から。麻生学園の附属病院へ向かって欲しいとのこと。」
「ありがとう。」
嫌な予感がする。
双葉と二人で、病院に走った。
蓮美side。
お父さんと、家に着きました。
「あら、蓮美……怪我でもしたの?」
抱きかかえられた私を見て、お母さんが訊きました。
「麒麟の鬼畜に、抱っこなんて危険です!」
「……ね、連歌。知ってる?遊んできた男には、娘が生れるんですって。」
「俺は、遊んでなんかいないでしょう?」
「……私で、十分……遊んでいるわよ?」
「楽しそうです。私も仲間に入れてください。」
「小鹿、娘の前で!!また、恥をかきます。やめてください。」
「珍しい……ふふっ。その鬼畜な麒麟君に、何か気まずいことでも?」
「……別に、何もありません。」
「くすくす……。娘のことで、悩めば良いわ。護るのに、必死になってね?可愛い姿は、いつ以来かしら?」
「ん?小鹿……慰めてくれるのですか?」
「いいわよ。頭を撫でなでしてあげようか?」
父は、私を抱えたままお母さんに近づきました。
後ろ向きなので分かりませんが、多分……チュウです。
…………。
長いですね。
「お父さん、下ろしてください。」
「……はぁ……あぁ、忘れてた。……蓮美、麒麟には気をつけるのですよ?」
「嫌です♪」
【チクッ……】
ん?頭が痛い……??
【ズキズキ……】
痛みます……ヨンデ……いるのでしょう。
「お父さん、お母さん。私は少し外に出ます。」
「蓮美?……すぐに帰りなさいよ。」
「はい……」
呼んでいます。サクラ……公園です。
時です……時が、来ました。
采景くん……苺愛さん……16年……悲しい。辛い……
犠牲の人たち……私には見えない。ただ、サクラを解放するだけ……
サクラ……あなたは、本当に自由をくれる?
あなたの手を取ったら、麒麟と……さようなら……なの?
もう少し、時間を……あなたの欲しいのは、私の手ではないのですから。
麒麟……勝負に、ならないのです。
今、あなたの心を手に入れたように思いたい。必死で、あなたを求める。
もう少し早く出逢っていれば……いいえ、弊害がこの時期を選んだなら……
麒麟、大好きです。私を忘れてください。
一緒にいた短い時間に、幸せを感じても良いでしょうか?
本当は、もっと甘えたかったです……
公園。
桜が、満開になり目の前で一気に散った。
「……サクラ?」
「蓮美……『緑』……と、唱えてください。」
解放の時ですね……。
夢に観たのは、ほんの少しです。
ここから、私の役目が……“始まる”のです。
「 『緑』 」
魔方陣が広がり、サクラを包む。
木は、新芽が出て一気に緑色の葉が青々と茂る。
「巻き込んだ犠牲たち。彼らと、私たちの償いは出来ただろうか?」
生れる草樹くんの息子に、答えが問われる。
……草樹くん。どうして、あなたにすべてが臨むのか。
「時まで、魔女のあなたを試す。犠牲の半身の家系。さぁ、蓮美。手を取って……」
呪いの犠牲です。
「はい。サクラ、私の手に希望を見出せるなら。ただ、心は……あげません。」
「残念だ。でも彼が、君を信じられないときは心をもらうね?」
「……麒麟……」
麒麟side。
麻生学園の附属病院。
病院に入ると、采景君がいた。
「……采景君、どこか悪いの?」
穏やかに笑う采景君は、綺麗な男の人。
「いや、苺愛の定期健診だ。」
それにしては、元気が無い。
「お、麒麟に双葉。お前たち、任務はどうした?」
草樹くんが、子供を抱いて登場した。
「……隠し子……?双葉、俺はどうすればいいんだ。」
「隠し子……そうだね、麒麟。これは麗彩ちゃんに、報告だ!!」
「お前ら、質問に答えろ!」
大人気ない草樹くんからゲンコツを受けた俺たちは、恵からの指示だと答える。
「采景……抱いて行くか?」
「あぁ、烏鏡おいで。お母さんのところに、行こうな。」
「あい!」
とても綺麗な顔だ。どちらに似ても綺麗系だね。
烏鏡は、采景君に手を伸ばした。
「パパ、あかちゃ……元気?」
「……確かめような……」
草樹は、俺たちに小さな声で言う。
「ついて来い。」
ある個室のドアの前。采景君がノックする。
部屋から出てきた苺愛さんも、元気が無い。お腹に居るのは、未来のカケラ……
「烏鏡……おいで、お腹に触って。赤ちゃんと、お話ししましょうね。皆、入って。この部屋、学園が準備してくれたの……」
部屋は、皆が入っても十分広かった。
苺愛さんは、イスに座り……烏鏡の手をお腹に当てる。
「時が来た……」
床に魔方陣が広がる。
「……七匹目の犠牲。呪いの犠牲。時の犠牲。すべての解放を、願う……『最後の魔女』16年の眠りに……時を犠牲にして、『緑』を待つ。その名――……」
苺愛さんのお腹の中から、赤い花の形をした宝石が現れた。
「聖花よ。願いは叶うだろうか……」
『目的を逸しなければ』
その声は宝石から聞こえるのか……不思議な光景に戸惑う。
空中に浮かんでいた宝石が、烏鏡の右手に触れる。
「……あつい!いたいぃ~~うぅ~~あぁあああ~~ん」
痛みに、暴れる体を苺愛さんが、押さえる。
力尽きた烏鏡が、意識を失ったと同時……魔方陣が消えた。
……これは、一体……これから、何が起こるのだろうか。
俺たちは、この未来を護れるのだろうか……いや、見守ることが出来るのか?
使命……




