弊害の休息
保健室。ノックして入る。
中には委員長と草樹、麗彩ちゃん。
「一葉君?どうして……」
【きゅん……】
この可愛い声に、胸が苦しくなる。
愛しい……
「話があるんだ、いいかな?」
「……えぇ。委員会には、連絡がいってるみたいだし。」
ニッコリ。大人な雰囲気……
おいしそう。
「……一葉、眼がおおかみだよ?」
草樹の声に、二人ではないのを思い出す。
「うるさい、草樹。彼女の前で、そんなこと言うなんて……最低!麗彩ちゃんと別れちまえ。」
「……こいつ、生意気になりやがって。」
機嫌が悪くなった、大人気ない草樹に抱きつく麗彩ちゃん。
流し目で、俺たちに行って……と合図。
「草樹のばぁ~~か。」
委員長の手を引いて、保健室を出る。
高等部と中等部を繋ぐ通路で立ち止まった。誰もいない空間。
手を繋いだまま見つめる。
「委員長、瑠璃って呼んでもいい?」
「…………。」
顔を真っ赤に、ビックリした顔で固まった。
「可愛い……瑠璃。瑠璃……へへっ」
調子にのって、引き寄せ抱きしめる。
瑠璃は体を硬くし、固まったまま。
「瑠璃……好きだ。いい匂い……ね、食べてもいい?」
返事はない。
首元に、軽いキスを落とす。
「……あっ」
【ビクッ】
反応と同時……瑠璃の重みがかかる。
「瑠璃?」
「……ごめ……なさい。立っていられな……」
涙目に、少し罪悪感。
通路に座り込んで、肩を並べる。
「……ごめんね。瑠璃……俺、瞳に別れるって言ったんだ。あいつは、別れないと言うけど……片付いたら、付き合って欲しい。」
「一葉君、この話の前にフライングしてるわよ?」
「えへ?じゃ……ついでにチュウ♪」
瑠璃の不意をついて、軽くキス。
「……~~っ。」
口を押さえ、顔が真っ赤……リンゴみたいだ。
「ね、瑠璃……双葉と、どこまでしたのかな?」
俺の質問に、固まった。
「……チュウ、だけじゃなさそうだね。そう……先に言うね。ごめん。」
俺は通路に、瑠璃を押し倒す。
「待って、駄目……やぁっ……そこは違う!」
柔らかい胸に触れた手を止める。
「……くすっ。可愛い……おかしくなりそう。瑠璃……」
手に重みを加えると、沈む胸。
「……~~。」
震えを感じる。
我慢しているのかな?それとも、怖いのか……ここまでかな??
「瑠璃、今日はいいよ。ここでは、君がかわいそうだから……俺は、気にしないけど。」
上に覆ったまま、瑠璃の耳元に囁いてみる。
「……ばか。嫌い……私の好きな一葉君じゃない……嫌い……」
【きゅぅう~~ん】
可愛い生き物だ……もって帰りたい。俺だけのものにしたい……。
興奮してしまう。これが、俺の相手なんだ。
落ち着いたのか、涙目で微笑んだ瑠璃。
あぁ、息が止まって死にそうだ。
「瑠璃、俺のこと好きなんだ?」
「意地悪な一葉君は嫌い。」
「好きだろ?ね、瑠璃……好き……大好きだ……ね、言って。俺に好きだって……」
「好きよ……」
双葉side。
教室。一時間目の授業の鐘は、とっくに鳴った。
一葉はいない。委員長もいない……ふっ。上手くいったのかな?
瞳の心が聞こえる。
『一葉君。朝、来ていたのに……。いつもと雰囲気が違って、かっこよかった。これから、もっとかっこよくなるわね……。絶対、別れないんだから!』
面白いな。こんな簡単に、穂波の心も分かったらなぁ。
穂波……赦してくれるかな?俺のこと、好きになってくれるかな?
それにしても。劾さん、どうして可愛いなんて言うのかな?
俺、穂波のこと……あまり知らない。
ふふ……楽しそうだ。ストーキングしてみようかな♪
君を見つけた入学式。お父さんと同じようには、いかなかった。
当時、君の背は俺より10センチも高く、キス出来ない……と、落ち込んだ。懐かしい。
俺には君しか目に映らなかったのに……
毎日、必死で牛乳を飲んだ。
効き目がない?知らない……カルシウムは、取って損はない。
体も鍛えた。優貴さんに柔道を習い、嵐君に剣道を習った。
最近は、恵さんに少林寺を教えてもらっている。
穂波をお姫様抱っこできる男になるぞ!!当然、護れる男にも!
「双葉、一葉はどうした?」
上の空だった俺に、先生が探る様な視線。
「内緒デス♪」
二時間目の前に、双葉は委員長と戻ってきた。
おおかみの目覚めか。ふふ……一葉の本質だ。
委員長、俺より一葉の方が鬼畜だよ?いや、S なのかな。応援するね♪
クラスのみんなは、周りを囲んでいるが祝福に見える。
「何、二人でサボリ?」
「一葉、委員長と付き合うの?」
「……へへっ。うん、そのつもり。だから、瑠璃に触れないでね?殺すから。」
一葉、眼が本気だ。
みんな、赤面で笑っている。誰も、瞳のことを気にしない。
瞳はどう出る?
「一葉君。私のこと、どうするの?」
「今、ここで言うの?俺は構わないけど。」
一葉、容赦ねぇ。護るものが出来たら、一葉に敵う男はいない。
俺は瑠璃を手に入れていたとしても、いつかは奪い返されただろう。
「川治さん、絶対に譲らないから!!」
これは何かあるね。麒麟は、動いてるかな。
役目を果たす代わりに、俺たちは支えあい……護る相手を優先する。
俺たちは仲間だ。同じ呪いの弊害を受け、戦う。
ただ、麒麟は……自分からは言わないだろう。
景彩が、麒麟を気にしていた。俺の相談もあるし、麒麟と話をしようかな。
「一葉、次の時間、ノートを頼む。麒麟に会うよ。」
「頼むよ双葉。麒麟を助けてあげて……」
一葉、君も感じたんだね。麒麟の事。
俺は役員の一室に入る。
「お、双葉。弟よ。」海波先輩……と、景彩。
「あの、ここ……みんなが使うよね??何、してるの??」
「ナニだが?」
景彩は押し倒されて、制服の上着がはだけ……ズボンのベルトが??
「ほら、海波……言ったよね?ここじゃ、イヤだって!!……見られた、恥ずかしい……もう、当分なしだからね!!」
「ごめんて、ね……機嫌直して?景彩……」
景彩を起し、頬にキスを繰り返す海波先輩。
あれ~~?何かがおかしいけど、合ってるのかな??
「あのさ、麒麟知らない?」
「……小等部、彼女のところだ。」
海波先輩は、景彩に抱きつきながら……俺を追い出す素振りで不機嫌に答える。
「……んっ、こら……駄目だって、やっ……」
景彩、また押し倒されたけど……
部屋を出て、鍵を閉める。
景彩、大変だな。
それより、彼女??麒麟、いつの間に相手を見つけたの??
麻生学園の小等部。校舎二つ……どっちだ?広い敷地、中庭に立つ。
「あら、双葉君です。こんにちは。」
後ろからの声に振り返る。
「……蓮美?今、授業中だよね??」
俺の質問に首を傾げ、ニッコリ微笑んだ。
【ゾクッ】
何だ?!!この感覚……
小学生の色気じゃない……まさか、麒麟の相手って??
「ね、麒麟を見てない?」
「そこに寝ています。」
目を向けると、茂みには上着のはだけた麒麟。
あれ?さっきの景彩が頭を過ぎるのは何故??
それを小学5年の蓮美に訊いてもいいのか??
「……蓮美、麒麟は……」
「お疲れです。……私の相手で……」
…………。
それは、どう受け止めたらいい??
「……ん……蓮美?」
良かった……のか(?)起きてくれた。
「麒麟、あの……時間、ずらした方がいいかな?」
俺の声に、真っ赤になった麒麟の顔。初めて見た。
「違……その、蓮美?どこ……」
慌てた姿も貴重だ。
「ここです。麒麟、私を抱いたまま寝ました。」
「わぁあぁ~~、違う!誤解を受ける言い方を、蓮美!?双葉、違うからな!!」
「……ぷっ……くく……くはっ……あはははははは……」
「笑うな!」
蓮美は、自然に麒麟の隣に座る。
「蓮美、体調は?」
「はい、大丈夫です。……麒麟の無理にも応えます。」
「だから、言葉は選んでくれるかな。俺が鬼畜みたいだろ?」
「……違うのですか?」
「違うよ!双葉、立っていないで……ここに座って。蓮美は、黙っててね?」
俺は麒麟の前に座って、二人を見る。
「麒麟、蓮美が相手なの?」
「……あぁ、見つけた。手ごわいよ?どS の連歌君の娘だからね。母さんは泣いたよ……鬼畜の俺には、合わないって。」
「あはは……笑える。」
「ふん。蓮美、覚悟して?俺が勝つんだから。」
「……ふふ、楽しみです。今は、私が勝ちます。これからを左右するのは、今ですよ?愛してるわ……」
蓮美の色気が駄々漏れる。
「麒麟、負けてるよ?」
「……知ってる。言われなくても……。ね、一葉は上手くいった?」
「あぁ、後は瞳だ。何かあるね……準備をしよう。」
「それはもう情報の奴らが動いてる。ふふっ、とても気になるお友達がたくさんいるね、瞳は。」
麒麟、まだ少し顔色が悪いように見える。
俺達に何かを隠し、一人で背負っているのかな。しょうがない奴だ……
「俺達は役員、協力して護るぞ。」
麒麟と蓮美を残し、俺は教室に戻ることにした。
あの二人の恋愛は先が怖いね。あぁ、俺の周りはマトモな奴がいない。俺の幸せは来るのか?
授業が終わるまで、敷地を歩く。
「役員でも、サボりはいけないよ?」
この声……
「嵐君。何、閑さんのところ?」
「仕事と言ってくれ。いや、産休の届けだよ。」
「……え……嵐君のところも、赤ちゃんが出来たの?」
「あぁ、兄貴のところと草樹・劾・采景のところと同い年だね。」
「采景君のところも?!」
『5人……』
委員長の言葉を思い出す。
あれは、この……5人?
「どうした、双葉?……ん、お前は駄目だぞ。中坊が……いや、役員なら養えるか?」
駄目だ、俺の周りにマトモなのはいない。
「嵐君、その発言は警察の仕事としてどうなの?」
「駄目だな。ははは……」
1笑ってるし……
「双葉、俺は呪いが分からない。けど、みんな同じだ。相手を手に入れるのは、大変なんだ。護るのも……な?」
「ふ……嵐君は、追い詰めてるけどね?」
「……俺はいいの。あの顔がいけない……追い詰めてくれと言ってるのさ。」
連歌君と同じ、どS だ。
「逃げられるよ?」
「ふふ……バカだな。逃げていいの!追いかけるのが楽しいし、逃がさないから。」
「ね、相手が可愛いと思うときはどんな時?」
「……何だ、いきなり?人によって違うぞ。連歌も、どSだけど……逃がして楽しんだりしないし。」
あれ、説明がそこ??
「追い詰められた顔が、可愛いの?」
穂波が追い詰められたところが、想像できないな。
「いや、その後……あれ、こんなこと言ってもいいのか?ま、いいか♪それはね、くふふふ……」
駄目な大人だな。
「受け入れてくれるからさ。他の誰でもない。俺だけを見る。心は、俺だけのもの。俺の心も、あいつだけが持っている。愛しい……て、マジに語っちまったぜ。お、やば……交替の時間だ。じゃな、双葉……苦労しろ。手に入れた喜びは、大きいから!」
走っていく嵐君は、好き勝手に叫んだ。
ただの、のろけかな??
愛しいか……
教室に入り、一葉が寄ってくる。
「双葉、麒麟は?」
「あぁ、何かを抱えてるね。蓮美が相手じゃ、大変なのかな?」
「何か力が蓮美にはあるんだよ。」
「……魔女の家系には、遠いだろ?」
「でも、家系だ。」
視線……?
『絶対に、どっちか……手に入れるんだから!』
瞳……お前の心も、多い。
手に入れられるのは一つ。それを純粋に求める者だけが得る。
【ふわっ……】
風に、あいつの匂いが運ばれる。
ヨンデル……後ろの穂波の席を見た。
「……え?」
副委員長の男と話をしている。
「まだ付き合ってはいないよ。けど、彼が告白して……返事は保留だって。」
返事が、保留……
「落ち着け。双葉……何故、保留か。お前を忘れるつもりなら、保留ではなく付き合う。お前に、心がある証拠だ。焦るな……」
焦るな?焦るよ……
見るな、近づくな。俺以外の男と、話もしないでくれ。君の心が欲しい……
副委員長め、どうしてくれようか。
お昼休み。
俺は穂波の手をつかんで引っ張り、教室を出た。
「双葉、何だよ。購買のパンが売り切れる。」
「うるさい!そんなのは、どうでもいい。話があるんだ。」
「……何、教室では出来ない話か?」
「そうだ!みんなが見るから。」
役員の使用する部屋に入り、手を離す。
後ろで鍵を閉めた。
「……ふぅん。その気、なんだ?」
この状況に、余裕の穂波。可愛くないよね。イラッ!!
背の高い穂波に近づき、軽く足払い。
「……ひゃ!?」
予想外だったのか、床に座り込んで不思議そうな顔。
俺は、覆うように押し倒す。
「なっ……待て、双葉!?おかしいぞ、普通は話を……こら……!?」
スカートに手を入れ、太ももに滑らす。
「……ぁっ……」
何、今の可愛い声は??
「穂波?」
「……違う、触るな。くすぐったい……ダメ……」
スカートの上から手で押さえ、顔が真っ赤。
【きゅぅう~~ん】
何?!なに何、なんなの??この可愛い反応。止まらないんですけど??
首元に、唇が軽く触れる。
「……ゃ……」
俺の頭を押し退けようとする。
【ピクッ】体が、小さく反応する。
理性なんて……もう、消えてもいいんじゃないかな♪
押さえられていない手で、胸に触れた。意外にある。
「……ふ…………んんっ……やめ……」
【ゾクゾク……】
はぁ……はぁ……息が荒くなる。
「はぁ……イヤだ……っ……」
穂波の息も漏れ、可愛い声。
「穂波……可愛い。ね、いい?このまま……ねぇ、我慢できないよ。好きだ……」
「ウソだ。……うっ……嫌。許さない、汚い手で触るな。」
「……それは委員長とのこと?それってヤキモチだよね。……もう穂波以外を見ないから。他には触れない。俺の心を穂波にあげる。だから穂波の心も頂戴?」
「……ひどい……双葉は卑怯だ。嫌い、触るな……っ」
言葉を遮るように、彼女の口をキスで塞いだ。
キッと、睨んだ穂波の平手が当たる。
何かに駆られる様に、その手を捕らえ……指を口に含んだ。
彼女の反応を楽しむ自分がいる。くわえた指に舌を這わす。
「……なっ……やめろっ……って……バカ……」
穂波の目に涙が溢れ、零れた。
大きな罪悪感。
「……あらら。今日は、許してあげる。俺の心が痛いから。穂波……愛してる。君の心が手に入るまで、覚悟して?逃がさないから。」
「ふん、追いかけても逃げてやる。勝ったと、思うなよ!」
睨んでいるが可愛い……
服を直しながら、穂波は鍵を開けて部屋を出て行った。
穂波の匂いが、体に残っている。
自分の肩を抱きよせた。
このほんの少しの温もりに……匂いに……感じた柔らかさ……声……
味わうように、思い返す。
あぁ、愛しい……俺の相手。俺の、一生の対。
委員長と比べられない。幸せ……幸福感……満ちる心……
もっと欲しい。君の心が、俺のものだと良いのに……




