子おおかみ!
一葉side。
朝起きて、気分が良いので安心する。
よしっ、気合を入れるぞ!!僕は、おおかみだ!!
相手は一人。彼女を失えば、一生独り。欲しいのは彼女の心だけ。
ただ、瞳ちゃんの涙に弱い。女性は大切にしろと……ひいおじいちゃんに教え込まれた。
小さい頃の恐怖が……【ぶるっ……】思い出すだけでも身震いがする。
弱気は駄目だ、行くぞ!!
部屋を出て、双葉と目があった。
「おはよう。」
「おはよう。」
…………。
言葉が続かない。
先に口を開いたのは、双葉。
「一葉、俺を殴れ。」
……え?何故、いきなり??
「出来ないよ……」
「……瑠璃を襲った。」
頭が真っ白になり、突然の怒りに双葉を殴った。
「はぁ、はぁ……なっ……もう一度、言ってみろ!俺の相手に、何をしたって?」
胸座を掴む。
「……あの彼女の眼に狂った。心が欲しくて、手を出した。キスをして……」
【バシッ……】
距離が近く、聞きたくない言葉に双葉の頬を平手で叩いた。
「赦さない。お前の相手は、矢城だろ?だから、あんな思いつめた……」
思いつめた、悲しそうな笑顔に覚えがある。
「一葉、俺を許さなくていい……その方が俺の心は軽くなるから……」
違う……
「ごめん、双葉……君は優しい……どうして僕に甘いの?彼女の悲しみに、君の心を惑わすきっかけを与えてしまったのは“俺”だ。俺が……」
「一葉……瑠璃は、小さな幸せで生きてきた。君の、別け隔てない笑顔に……幸せを感じていたんだ。」
「……愛しい……どうして、気がつかなかったのかな?何故……」
「多分……呪いから解放されて、時が経ったから……」
俺たちは、誤った道を戻ることは出来ない。
ここからスタートだ。出口の見えない闇の渓谷。
手探りで、正しい道に行けるかな?目指す到着地点は、見えるかな……
「双葉……俺たちは、相手を手に入れることが出来るかな?」
「きっと。ただ、自分たちの誤った道を……どう扱うか……一葉。瞳は、俺の心も求めた。よく見ろ……答えを、お前は持っている。」
『逃げれば良いのです。案外、それは追いかけてはこないかも。』
そうだね。双葉……ただ、君の答えを俺が与えてあげられない。
「……ごめんね。」
「ふっ。一葉は優しいな……だから、瞳に隙を与えたんだ。」
「くくっ。人のこと言えないよ?」
僕たちの仲って、案外簡単なのにな。女の子は難しいよ……
瞳、さよならだ。
双葉side。
俺たちは、目的のために別々で登校する。
一葉は瞳と話をするため。俺は、瑠璃と話をするためだ。
すべてを片付けて、相手を全力で追いかける。逃がさない。
穂波……君の心だけが分からないのは、どうしてかな。
いつもの時間。同じ場所で、瑠璃を見つける。綺麗な姿勢。
「……委員長、おはよう。」
ドキドキしながら、挨拶をした。
いつもと変わらない笑顔で、挨拶を返してくれる。
「おはよう。」
「……昨日は、ごめんなさい!!」
必死で頭を下げた。
「……許さない。」
【ズキッ……】
今更の胸の痛みに、情けなくなる。
一方で、痛みのあったことが嬉しかった。
「……正直に言うと、心を奪われるかと思ったわ。」
【キュン……】
あ、やべ……やっぱり可愛い。一葉は、いいな……羨ましい。
「君に狂ったのは、本気だ……。一葉が鈍くて、君の悲しみを癒したかった。けど、君のその瞳が俺を惑わす。」
「……この目……視える……まだ、時じゃないのに。」
委員長の目が、薄い色に変化していく。
透明の美しい薄い茶色。
【ドクンッ】心臓が跳ねる。
「……駄目だ、逸らせない。止めて……これ以上は、駄目だよ!!」
「双葉、見るな!」
後ろから視界が塞がれた。
目を閉じ、倒れそうになる俺を支えているこの人……さっきの声。
「……お父さん?」
「目を瞑ってろ。いいか、開けるなよ!」
うなずいた俺の顔から手が離れたのを感じる。
「君、少し……ごめんね。」
物音や気配では、何が起きているのか理解できなかった。
「双葉、目を開けなさい。行くよ、付いておいで。」
そっと開けた目に、気絶した瑠璃の姿!?
しかもお父さんは、違和感なく委員長をお姫様抱っこ。
…………。
何か、カッコイイよね。悔しいな……
「何だ?この子は、お前の相手じゃないだろ?」
走りながら、意地悪な笑顔の父さん。
委員長を肩に乗せ直し、学校の壁を軽々……越えた。
「置いていくぞ?」
壁の向こう側からの声……
畜生!!まず目指すのは、父さんなのか!?
壁を越え、高等部の保健室へ向かう道。
草樹のところかな??
「父さん、会社は?」
「うん?ふっ……子供の一大事に、会社は後回しだ。双葉、一葉は……いや、お前も……相手を手に入れるのは、難しいかもしれない。応援しているよ。……頑張れるか?」
「うん。……委員長の目は、何?人を惑わすの??大上家の呪いの緑色の目と同じなのかな?」
「さぁな。惑わす側だった俺には、分からない。ただ弊害が続くんだ。」
高等部の保健室。
ドアを開けると草樹に優貴さん、綾さんと……知らない男の人?がいた。
「君は、初めましてかな?」
「はい。神成 劾です。彼女の能力は、コントロール出来ます。適任を呼んでいますので、もうすぐ来るかと……」
「劾さんも、役員なの?」
「……護られる側の人間だよ。双葉……彼女は、可愛い人だね……ふっ。」
カワイイ彼女??それって委員長の事じゃない……よね?
まさか穂波のこと??穂波が、可愛い??
「ね、優貴。劾じゃないでしょう?この間一緒にい・た・の・は!」
優貴さんの浮気疑惑は、まだ続いていたのか。
「だから、もうすぐ来るって。ね、それより触れたい……キスしたい。禁断症状だよ?」
「駄目。触るな、汚い。」
優貴さんの顔を手の平で押し退け、怖い顔。
「ね、綾……君も分かるよ。彼女に会えば……ね、許してよ。そのお腹に触れてもいい?」
「何のこと?触るなって、言ってるでしょう?」
二人のやり取りを、生暖かい眼で見守る。
優貴さんは強引に、俺たちがいるのにチュウをした。
「……いっつ!!……酷いよ、舌を噛むなんて。熱いもの食べれないよ?口を開けて、俺を誘っておいてこんな……どこまで俺を壊していくの?」
「知らないわよ!!」
俺も、こんな大人になるんだろうか……
「双葉、彼らは異色だ。そんな冷めた目で見るんじゃありません。」
「……お父さんは、お母さんとするチュウ……どんななの?」
「おっと、思わず答えるところだった。雰囲気?に流されて。駄目だな……こら優貴、いい加減にしろよ!子供の教育に良くないだろ?」
「保志、無駄ムダ。お前らの周りにマトモな奴なんかいないだろ?今更だぞ!」
確かに……
「うわぁ~~。双葉の眼が、大人になってる。こら、年齢に相応の眼をしなさい。」
「……例えば?」
…………。
沈黙。答えは返ってこない。視線を逸らしたお父さん。
「お父さん、俺が悪かったよ。優貴さんの言う通り、今更だよね♪気分を変えるよ!!」
無邪気に笑った俺を見て、お父さんの目には……薄っすら涙が。
「「無事に、到ぉ着ぁ~~く!!」」
冷え切った空気に、明るい声が二重で……ドアの開く音と共に、保健室に響いた。
「……麗彩ちゃん??と……」
知らない、女子高生。
「「デキてました!!」」
二重に、声が重なって……え?出来た??
…………。
「麗彩、嬉しいよ……おいで。触らせて?」
「うん!」
麗彩ちゃんは、草樹に甘えるように自然と膝の上に座った。
「……ほら、都。」
劾さんは、あまり表情が変わらず……手を差し伸べる。
ゆっくりした動きに反して、都さんは劾さんに飛びついた。
「こら……ったく、お前には驚かされてばかりだ。」
口とは違い、優しく抱き寄せる。
……大人の世界。うん、環境が良くない。
俺は、今すぐに穂波が欲しくなる。うずうずする……。
「こら、目的を……」
『……未来のカケラ達が、観える。悲しい……』
委員長の声。目を閉じ、ベッドに寝たまま。
寝言……??
「あら、異世界の。お仲間よ、劾。」
「うん、知ってる。一葉の相手だ。」
「……ふぅん。ふふ……ね、お願いしてみて。劾……ゾクゾクするわ。」
「その前に、優貴との関係を教えてよ!」
綾さんの顔は、とても怖いのに綺麗なままだ。
「ん?……お楽しみは後ね、劾。……あなたが知りたいのは、私の事じゃないでしょう?ふふ……綺麗な顔が台無しね。」
都さんの雰囲気が大人びた感じになる。
「俺、これに騙されたんだよね。」
劾さんは、ため息まじりに言葉を吐き出した。
『可愛い……』
【ゾクゾク……】
都さんの変化した声を聞いた途端……立っていられなくて、その場に座り込む。
思考が働かない……何だ、この声。
瑠璃を襲ったとき以上の興奮。……やばい……抑えが利かない??
「……都、中坊がいるんだ。すぐに解除しろよ。」
『終わり。』
綾さんも、顔が真っ赤で……息が荒い。
優貴さんが支えている。
「……な、こいつの声を聞いてしまった不可抗力だよ。綾……許してくれる?」
「…………。」
気を失ったみたいだ。
「……これ、体に害ないよね?」
「さぁ?」
優貴さんも、綾さんをお姫様抱っこ。……体力いるよね。
あいつ……持ち上がるかな?
『……都さん……男の子。水が見えます。麗彩さん、男の子……綾さん、男の子……。男の子と女の子……5人。時の犠牲……解放されます。』
目を覚まして起き上がった委員長が、俺達をじっと見つめて淡々と告げた。
「……あら、言っちゃった。駄目ねぇ~~」
なんて、笑っているのは都さんだけだ。
彼女の目は、何を見たの??
「さぁ、お遊びは終わり。『閉じなさい。解放まで……あなたの力は、巻き込まない。目覚めるな。』」
これから生れる彼らの先、呪いの『始まり』が襲う……未来。
一葉side。
朝、いつもの道。いつもより少し遅い時間。
今日は、俺が後ろから。
「もう、うるさいな。まだだって、進展したら言うわよ。毎朝、携帯で訊くのウザい。」
携帯で、相手は“お友達”なのかな?
口調も初めて聞く。可愛くも、ドキドキもない。
「……瞳、おはよう。」
「……ひゃ……びっ……くりした。一葉君、おはよう。」
トーンの上がった声。
「さっきのは、お友達?」
「……聞いて……?!」
動揺が見えるが、すぐに持ち直す。
俺が笑顔だからかな?
「僕のこと?」
「……うぅん。それより、昨日……電話したんだよ?」
俺の腕に、腕を絡めて胸を押し付ける。
上目で首を傾げ……ニッコリ。
冷めた俺には、うんざりだ。
腕を解き、目を見て言った。
「瞳、別れて欲しいんだ。」
「……え?」
今までにない瞳の戸惑い。いつもと違う俺に何かを感じたのか、涙を浮かべた。
「一葉君、私のこと……嫌いになったの?私……一葉君のこと好きなのに。酷いよ……」
「うん、ごめんね。確かに可愛いと思ったよ……。けど、俺の心に特別な女の子がいるんだ。その子が好き。君は、好きじゃない。」
「……二股なの?」
「結論はそうだったかも。心にいるのに気がつかず……揺れた。」
「……誰?」
瞳の雰囲気は、さっきの電話の時と同じだ。
「訊いてどうするの?……その子に、酷いことしたら赦さないよ。女の子だとか、関係ないからね。先に言っておくよ。」
「……一葉君?」
「何?」
「諦めない……別れないわ!」
瞳は、俺を置いて走っていった。
……簡単にはいかないか。
「へ~……一葉、男前だな。」
いきなりの声に、周りを見る。
麒麟の声だ……
「ここ、塀の上。覗きじゃないぞ?役目が終わって、移動中……偶然だ。」
「麒麟、双葉を助けてあげて。……あいつ、相手を失うかもしれない。」
「ふっ。……お前らが羨ましい。心配しなくて大丈夫だよ、俺達は学園の保護の元。」
「それなら麒麟、蓮美は何なの?」
塀から下りた麒麟は俺の横に並び、歩き出す。
「遅刻するよ。……一葉……俺たちは、弊害の狭間だ。まだ、マシ……そう思おう。」
「無理してるよな麒麟、君の負担を吐き出して……」
「敵わないな……一葉、蓮美は…………俺は失ったら……どうすればいい?呪いから解放された。違う人を選ぶ?そんなことが出来るのか?」
「麒麟。出来てしまうんだ……心さえ、騙してしまえば。ただ、それでは未来は見えない。」
「……一葉、君の相手……草樹のところだ。君の相手は能力者。保志さんが、俺のところに相談に来たのが始まり。双葉は、その力でおかしくなった。間に合ってよかったよ。行って、保健室に。まず君は、相手をきちんと手に入れるべきだ。瞳のことは後にしていい。護る者を身近に置くんだ……時間は、戻ってこない。」
「うん。情報をありがとう……行くね!麒麟、いつでも言って。俺たちはおおかみだろ?仲間だ!!」
麒麟の笑顔。安心する……
優しい君は、きっと……俺たちに自分から言わないだろう。
何かあれば、必ず力になるからね……




