交錯する想い
一葉side。
瞳ちゃんを家まで送って、自分の家に向かう。道程が遠く感じる。
こんなところに、公園があったんだ。あれ、蓮美??
松木 蓮美。親類の小学5年生の女の子。
木に抱きついて、動かない。
「蓮美!!」
慌てて駆け寄ると、ゆっくり僕の方に顔を向けた。
木から離れて、丁寧に挨拶。
「一葉君、こんにちは。」
「……こんにちは?」
不思議そうな僕に、無表情で首を傾げて……ニッコリ。
【ゾクッ】
?!!
何の感情なのか、理解できない感覚……何故か焦る。
「サクラと、話をしていたのです。最近は、栄養が足りないと言うので食事です。」
僕には理解できない話が進む。
「そう。」
適当な返事の僕をじっと、見つめた。
「……辛いのですか?」
【ポロッ】目から熱い涙が一筋。
そして流れ続ける涙に、解らない感情が波のように急き立てる。
「……逃げたい。」
「一葉君、逃げれば良いのです。案外、それは追いかけてはこないかも。むしろ、去っていくものが重要です。」
去っていく?
「蓮美?何を……知ってるの?」
「何も知りません。ただ、頭に浮かんだ言葉を口から出しただけです。」
【サワサワ……】
風もないのに、木が揺れた。
「時です……」
「おや、お譲ちゃん。今日は、ナイトがいるのかな?」
気配なく、矢城さんが現れた。
「ふふっ、ナイトではありません。ヘタレです。」
……!?
軽いショックを受けその場に座り込む。
「あはは。一葉、最高だな。お譲ちゃん、綺麗だね……キスをさせてよ。」
矢城さんは蓮美の前にひざまずく。
自然すぎて、怖いぐらいだ。思わず傍観していたが、我に返る。
良く考えたら変態だよね!?
「嫌です。もう、唇は彼のものです。」
「ふふっ。その手の甲でいいのです。」
…………。
何、このやり取り??
蓮美は、サッと、右手を出し……矢城さんが手の甲にキスをする。
あれ?やっぱり不自然さを感じない。
おかしいのは、僕ですか??
「さて、キスをもらったし。帰ろっかな。」
腕には蓮美を抱いている。
「待て待て待って!!蓮美は、置いていこうか?」
「……ちっ。」
今、この人……舌打ちしましたよ??
「姫、残念です。もっと、早く出会っていれば……」
「そうね。くすくすくす……諦めて?」
蓮美の色気が駄々漏れ、僕もクラクラしそうだ。
……彼女の相手は、きっと苦労するだろう。
「半分本気は置いといて、一葉……話をしないか?」
本気……半分なんだ。
「……話?何の?」
「そうだね、私の不在だ……」
「……どこに行くの?」
悲しそうな、伏せ気味の眼。
何を見ているのか……僕には、分からない。
「ふふっ。どこにも行かない。どこにも……行けない。私は、母に似た……姉さんとは違う意味で、消えることを望みたい。」
消える??
この会話は、僕が聞いてもいいのかな?
何故か、相手が僕ではないような……
「双葉を、好きなの?」
返事はない。
「またね……」
会話をしようと言ったのは、矢城さんなのに。
会話の途中で、逃げるように歩いていく。
僕は、引き止めることが出来なかった。
「一葉君。双葉君に、言うのです。選択が、未来を変える……ので……す……」
「蓮美!?」
蓮美が、眠るように僕にもたれた。
「はぁ……はぁ。一葉、ごめん。触らないで……俺のだ。男の君に触れて欲しくない。」
息を切らした麒麟。僕から奪うようにして。
蓮美を愛しそうに、抱きかかえ……僕の前でキスを落とした。
「……蓮美……俺は、どうしたらいい?苦しい……気が、おかしくなりそうだ。君は……」
追い詰められたように、麒麟の不安が切なく伝わる。
「麒麟、ごめんね。」
僕は、その場を離れた。
歩くスピードが速くなり、走っていた。
苦しいのを我慢して、走り続ける。
麒麟の相手が見つかった。僕は!!
双葉side。
家に、一葉が帰っていないので不安になる。
瞳と一緒に帰ったのは知ってる。けど、自分が暴走して……一葉の相手に欲情した。
止める人がいなかったら?そのまま、瑠璃の気持ちを無視して……。
自分の感情が、それを否定しないのが恐ろしい。
父さんは、会社を継ぐ日が決まり……忙しい。
一葉……君に言ったほうが良い?でも、どう伝えたら?
「ただいま。」
玄関の一葉の声に、飛び出したけど……言葉が出ない。
一葉も、俺に何も言わない。
『……矢城さんが、消えるかも……何て、どう伝えたら……』
一葉の心。今……何を……?
理解できない感情が、俺を苦しめる。
「一葉、お願い。教えて……心が痛い。穂波は、どこにいるの?」
「さっき、麒麟の家に近い公園に。でも、その後どこに行ったのかは……」
俺は、家を飛び出した。
消える?どこに?俺が、瑠璃に心を傾けたから?
くそっ!!呪いに縛られていたほうが、幸せだったんじゃないかと思う。
俺の相手として認識したのは……穂波なのに!!
「呼んだ?」
!?
息の切れた俺が、公園に入ろうとした瞬間。
後ろから、タイミングのいい声。
「……海波……先輩??に、景彩……。呼んでないですよ。」
俺が呼んだのは、穂波だ!!
そんな事より探さないと、時間が……
「穂波なら家にいるよ、未来の弟。」
「……海波、またそうやって……て、僕のおしりを触るのは止めようか?」
緊張感のなさに、力が抜けた。
地面に座り込んで息を整える。
「水飲む?僕もちょっと飲んだけど……あっ!!」
景彩の気配が遠退いたので、顔を上げる。
ペットボトルを取り上げ、一気に飲み干した海波先輩。
……男同士なんだけど……それでも間接キスが、許せないですかね??
「海波、大人気ないよ?」
「じゃ、景彩は私に付いた女の子の匂いが許せるのか?」
「うっ……最近、海波が女の子に触れてないのは、ちゃんと分かっているからね。双葉は、いとこだよ?」
「ぐ……実はタクが従兄妹だと言ったら?良いのか?」
「駄目だよ!!」
イチャイチャにしか、見えない。
これが相手なんだ。涙が零れる……
「おい、下衆……泣くな、ウザイから。」
……きつい。今、その顔で止めて……
「海波?一葉に意地悪すると、キスは無しだよ?」
「……うっ……本当に、濃厚なのくれる?」
「あげるから。でも、ちゃんと役目を果たしたら!だからね。約束を守らないと、嫌いだよ?」
濃厚なキスを女性にあげる約束……何かが、ずれてる??
この二人だからなのかな……
「穂波は、君の相手を放棄した。」
……そんなこと……出来るの?
「私たちは、呪いから解放された。異質な呪いから……穂波は、他の奴と付き合う。邪魔をするなよ。」「海波、言葉を選んでって……うんむっ……んん~~っ!!」
我慢の限界なのか、海波先輩の濃厚なチュウを景彩は受けている。
俺は、二人を後にした。
多分、話の途中だろう。……けど、イチャイチャでうやむや……
穂波……穂波……君が俺の相手。
昔、父さんと母さんの物語を何度となく聴いた。
ずっと憧れていた相手……
君を見つけたのは入学式だった。
この広い麻生学園。気がつかなかったんじゃない。
地区に分けられた小等部の校舎は二つあった。出会うきっかけがなかった。
規模が大きい幼等部と小等部は運動会とかのイベントがないから。
中等部は、姉妹校に編入する人で激減するから……君と出会えたのは、奇跡。早いほうだ……
あの時の感動が……何故!!
一葉side。
携帯が鳴り、画面表示が目に入る。
【瞳ちゃん】
出ることが出来ず、じっと自分の部屋の暗闇の中で、光る携帯を見つめていた。
父さんの言葉を思い出す。
『その子は友達にはどうなのかな。』
瞳ちゃんの友達?誰かな……親しい人が誰なのかあまり知らない。
朝、僕には挨拶をするけど委員長にはしない。
委員長は何かを感じて、いつも先に行ってしまう。
予定の委員会は本当だけど、どちらかと言えば遠慮するように。
委員長は、クラスのみんなが尊敬してる。綺麗な声……いつも、僕の体調を気にしてくれた。
【トク……ン……】
心が反応する。
「……うぅ……っ……うぁあ~~ん。……ふぅ……うぅ~~……」
君だったの?僕の相手、僕の求める人……。
痛い、心が痛いよ。こんな僕を君は好きにならない。
こんな、情けない僕。それでも嫌わないで……
双葉side。
失いかけて、やっと大事なものに気がつくなんて……
心が読めないのは、みんな同じだ。
不安も恐れも、小さな幸せも。
君の心は、俺の心が君だけを求めていれば簡単に分かる。情けない……
君は、もう他の誰かのもの?赦さない……
わがまま?上等だ!さんざん自分勝手した。今更だろ?
ふんっ。全力で、お前を落とす!!覚悟しろ♪
瑠璃……君には、きちんと謝ろう。今までと同じ、一葉への想いを応援する。
ただ君の瞳……何故か、狂うように惑う。
こんなときの麒麟だ。役員も、俺の相手のために利用する。
穂波……君を護れる男に必ずなってみせる。俺はおおかみだ。
そして君は魔女……求めて、俺のすべてを捧げるから。
もう心は分かたれない。俺の全ての心を、君だけに注ぐ……




