瞳に惑わされて……
一葉side。
今日は、父さんと二人でお出かけ。
時々、父さんとはこうして出かける。
「今日は、遠出して星の見えるところに行くか?」
「うん!……あ、今日ね……忘れててごめんね。瞳ちゃんから誘われて……あ、僕の好きな人だよ。」
僕が嬉しそうに報告するのを、運転しながらうなずいて聞いている。
覗き込むと、父さんの口元が笑ってた。
「どこが好き?」
「……うんとね、可愛いところ。僕に頼ってくれるのが嬉しいよ。」
「そうか、その子は他の子に対してはどうなんだ?」
他の子……??あまり、気にしたことがない……
「分からないや……。あぁ、そういうのを知らないから双葉が怒るの?じゃぁ、父さんは母さんと……どうだった?」
僕の質問に、あはは……と笑って真剣な表情に戻り、目は真っ直ぐで運転を続ける父さん。
「父さんか……。呪いで、母さん以外は女の子の違いが分からなかった。母さんだけが特別だったんだよ。匂いも、キスも……触れる手も……母さんが特別だった。」
照れることもなく、父さんは懐かしそうに語る。
特別……か。キスも……。
【ドキドキ……】
僕は、いつか瞳ちゃんと……
「一葉、君たちは呪いから解放された。相手を間違えることもある。」
相手を間違える……?
「……父さ……」
「そのまま、相手じゃない人を選ぶことも出来るだろう。幸せも得るかもしれない……。それが、君たちの幸せなのか……俺には解らないけどね。弊害だよ……一葉、相手ともう少し仲良くなりなさい。一生は長い……君が相手に選びたいなら……慎重にね。」
「……はい。」
双葉が言いたいのは、これのことなのかな……?
次の日。
「一葉君。危ないわよ?」
鞄が引っ張られ、視線を前に戻すと……壁が目の前。
「ぎゃ!!……危なかったぁ~~。委員長、ありがとう。」
笑顔を向けると、綺麗な微笑みが返ってくる。
【ドキッ】
委員長って、綺麗だな……この目……かな?
「……一葉君!?」
委員長の驚いた声で我に返ると……僕の両手が、委員長の両頬に触れていた。
?!!
「ごめん!! ……ごめんね。あの、嫌だったよね……?その、なんて言うか……綺麗な目だなと思って。無意識に……いや、あわわわわわ……」
つい、口が正直に次々と。
「……ふふっ。くすくすくす……じゃ、許してあげる。一葉君って、可愛いね。」
最高の笑顔に、紅葉した頬。
【キュン……】
心に、感じたことのないムズムズ……
「ありがとう、委員長!」
それから黙ってしまった委員長は、嬉しそうな雰囲気?
静かに二人で歩く道が、心地よく……このまま、続けばいいのにと、願ってしまう。
委員長のこの雰囲気が、好きだ。安心できる……
多分、図書室と同じ雰囲気だからだね。うんうん、静かな……
「一葉君。おはよう!」
「あ、瞳ちゃん!おはよう。」
「一葉くん、あのね……」
瞳ちゃんは視線を下にして、口ごもる。
……??
「ごめんなさい、二人とも。私、委員会に遅れそうだから先に行くわね。」
委員長は携帯の時間を確認して、慌てて走って行く。
「気をつけて。」
後姿に、心の奥……痛みが少し。
ん?冷たい風が、通り過ぎたかな??
「一葉君?」
覗き込み、瞳ちゃんが僕の頬にキスをした。
「……へへっ。しちゃった……」
【かぁあぁああ~~】顔が真っ赤で熱い!
「……ごめんね?」
「うぅん!!ううぅん!!いいよ、大丈夫だよ!!」
わぁあ~~、頭がパニックだよ??
その後の会話も、授業中も上の空だった……。
お昼休み。
「一葉、4組の女の子が呼んでるぞ?」
4組??覚えがなくて、入り口に歩いて行く。
そこにいたのは、知らない女の子。
「えぇ~っと。君は誰かな?」
「……この間、一葉君に困っていた所を助けてもらったの。お礼が言いたくて……」
困っていた??どの子かな……分からないや。
思い出そうとしている僕の後ろから、少しトーンの低い声が聞こえた。
「一葉君は、私の彼氏なんだから!近づかないで。」
……彼氏?この声……瞳ちゃん??
「え?」
「……え、キス……した後に、OKしてくれたよね?嘘なの?」
…………。
その後の教室中のざわめきが聞こえないぐらいに、僕の思考が止まった。
双葉side。
一葉が瞳を連れて、廊下に出た。
教室中の奴らはみんな、野次馬で廊下の様子を見ていた。
俺は席に座ったまま……外を眺める。
【カタン……】
穂波が机の上に、右側から後ろ向きで座る。
両手は後ろで体を斜めにして、流し目で俺に観察の視線。
「邪魔なんだけど?本出せないし……」
「くくっ。見に行かないのか?」
俺は廊下よりも……
【ドキッ】
委員長は自分の席で、教科書に目を落としていた。
俺の視線に気付いた穂波は、机の上に体勢を変えて横になる。
「……ね、誰を見てるの?」
俺を誘うように、制服の胸元の隙間が大きく開く。
【ドク……ン】
しかも、こんなおいしそうな匂い……
けど、彼女が気になるなんて……
穂波は俺を見透かすように、意地悪な顔。
「ふっ、時間切れだ。残念、またのチャンスを。」
視線を逸らして起き上がり、軽やかに机を下りた。
「穂波……」
「……矢城……だろ?」
【ズキッ】
拒絶された。当たり前か……
「行け。お前の兄貴の責任は、弟が取るべきだ。ふふ……それとも、私が慰めようか?」
ニヤリと笑ったすぐ後、穂波は俺に背を向けた。
なんとも言えない感情に突き落とされたものだ。
そんな感情にもがきながら、委員長のために立ち上がった俺。
【バンッ】
「席に着きなさい!授業よ!!」
キリっとした委員長の声と態度に、全員が席に着いた。
俺もイスに落ちるように座る。
「一葉くん、迷惑よ。授業が出来ないわ。先生を呼びなさい。陰で見ているはずだから!」
一葉は、すぐに先生と瞳を連れて入ってきた。
全員の視線が、委員長を尊敬の眼で見ていた。俺もだ……。
胸がザワザワする。
俺の心に2人の存在。
一葉が悪いんだ!!一葉が、瑠璃を選ばないから……
一葉side。
廊下で、瞳ちゃんと話をした。
「……あの、ごめんね。キスで、その……話をあまり聞いてなかった……。瞳ちゃん、あのね……」
「私のこと、嫌い?」
「……好きだよ。けど」
父さんが……
「何がいけないの?私じゃ駄目なの?……他に、好きな子がいるの?」
「……他に……?」
この時、思い当たる子なんていなかったのに……反応したんだ。
「酷い……」
「違うよ!いないよ……」
「じゃ、いいよね?」
いい……よね。何がいけないのか、答えられない僕は……
この時間から解放されることはないだろう。
「……うん。よろしくね……」
後悔する。この、自分の幼さに……
見えなかった心。理解しなかった……自分の相手。
もう手に入らないかもしれない。君の心は、呪いで縛られていないから……
授業がとっくに始まっている時間に、先生は壁に隠れて僕たちの様子を楽しんでいた。
委員長を怒らせてしまったみたいだし……心が痛い。
痛みで、おかしくなりそうだ。
瞳ちゃんを、僕は好きなはずなのに……今更、相手ではないかも……なんて。
父さん……双葉……どうしたらいい?
双葉、君は……僕に答えをくれるかな?
……くれたね。残酷な応えを……
双葉side。
一葉、君の事を悪く言うことなんて出来ないね……。
やはり兄弟だからなのかな……二心で迷うなんて。
交錯を始める恋が、僕たちを切り裂くなんて……。
まだ、知らないままでいればよかったのかな?どこで間違えたの?
この後の、俺の行動かな?
俺の相手は、呪いの弊害に縛られている。俺たち以上に……
始まりの原因は魔女だから。
それもまだ未来……
授業が終わって、俺は瑠璃の席に行く。
「……双葉君。図書室の資料の整頓に、付き合ってくれるかな?」
「あぁ、いいよ。今日は、閉館日か……話しも出来るね。」
本当は、役目があったけど……麒麟に許可をもらおう。
優しいあいつは、笑って許してくれるだろう。
麒麟、この時に……君に相談していれば未来が少しは違ったかな?
それはただの言い訳、逃げ道を探しているだけ。
委員長の目は、一葉を見ている。
この目が俺をおかしくさせる。勘違いしそうだ……
俺の相手なら?いや、今すぐ……相手でなくてもいい。俺のものにしたい……。
狂いそうだ。匂いじゃない……この眼だ。
惹かれて、囚われたように逃げられない!!
「……ば君?双葉君!……大丈夫?すごい汗……顔色も悪い……んっ」
意識が混濁しているのか?俺は、いつ図書室に来た?
俺は今、一体何を…………
一葉は、瞳とキスをした。
俺は穂波にキスをした。そして今、瑠璃の唇に重ねたキス。
【パシッ!!】
頬に一瞬の熱。痛みを感じない……
涙ぐむ瑠璃の瞳が、俺を惑わしている。
「双葉君には、好きな人がいるよね。私は、一葉君が好き……心は、まだ……ここにある。想いが熱く、冷めることなく……重くて、辛いのに微かな幸せで生きてるの。」
「……うん。その心が欲しい。瑠璃……俺を選んで……。すべてを捨てて、君を選ぶから。」
「何を、言って……双葉く……っ……いやっ!」
机に押し倒し、瑠璃の首元に唇を押し当てる。
相手ではないのに、心が急かす……求めろと。手に入れろと、俺を動かす。
欲しい。もっと……この一葉を愛するこの心が欲しい。俺を愛して欲しい。
「瑠璃……」
「はい、すとぉ~~っぷ!」
俺の制服のえりくびが引かれ、我に返る。
机には、震えて……制服が乱れた瑠璃。
彼女に布を被せ、抱きしめる女性。
「……あの、俺……」
【バキッ】グーパンチが俺の頬にヒット!
「……いてててて……」
「目が覚めた?……ボスがストレス発散に呼んでくれたのよね。けど、気分が悪いわ。お願いする相手を間違えたかしら?」
色気のある、綺麗な女性だ。
女優?モデル?みたいな、その辺にいないような(親類以外の話だけど)。
「優貴、いるんでしょ?あなたのチームの責任よ。さぁ、あなたも殴られる?」
「……綾。浮気じゃないって……話を聞いて。許してくれよ。それにその子、気を失ってるよ?」
…………。
この人が役員衆の華?
自分のしたことに、思考がついていかない。悪いことなのに、心が痛まない。
闇に落ちるようだ……




