ツイン
大上 一葉。中学一年。4月生まれ。
弟の双葉は、3月生まれの同学年。年子だ。
父は、保志。おじいちゃんの会社……下着屋さんの営業をしてる。
もうすぐ、後を継いで社長さんになるのだとか??
有名なブランドらしいから、とても忙しいはずなのに……結構、遊びまわっている噂を聞く。
「歌毬夜、違うって……昨日は、草樹達と……」
母、歌毬夜。幼い頃から、引きこもり?で……外出が少ない。
僕は母に似た。あまり人が多いと、目を回してしまう。
「母さん、本当だよ♪景彩のイベントに、作戦会議だって。」
「景彩くんってあの可愛い子?双葉、もしかして……」
「……母さん?俺、相手を見つけたよ?」
「俺……??まぁ~~!!ふふっ。可愛いわ!もう一回、言ってみて!!」
「俺!!」
我が家は、平和な感じです。
「一葉、お前は?」
父の質問に、笑顔で答えた。
「うん……へへ。相手だと信じてるよ……。」
だけど双葉は……そんな僕を冷たい眼で見て、ため息。
「双葉、言いたい事があるなら……」
「ない!俺の意見に耳を傾けない一葉なんて、嫌い!!」
最近の僕たちは、こんな感じだ。
「双葉、大人気ないぞ?」
父さんは僕より双葉が好きで、何でも率直。
「ぶぅう~~。……けっ!!」
いじけて、部屋に閉じこもる双葉。
部屋は、別々……考え方など色々違う。
当たり前の事なんだけど……それがとても淋しい。
「一葉……双葉の言葉を信じられないのかい?」
「……本当は、信じたい。けど……僕の好きな人を……否定するんだ。」
「一葉……いらっしゃい、お母さんに詳しく話して?」
あぁ、父さんは双葉のほうに行くんだ。
父さん……
「一葉、明日……父さんと二人で出かけよう?」
「本当!?」
「あぁ、嫌か?」
「うぅん!!嬉しい!」
父さんは、僕の淋しさに敏感だった。
何故かは分からないけど……へへ。嬉しい……
「あ、歌毬夜の相手は毎晩してあげるね♪」
「ばっ!?……子供の前で!!」
二人は、喧嘩するけど仲がいい。
お父さんは、優しい……そんな男になりたいのに……な。
大上 双葉side。
【コンコン……】
「入るぞ。」
「……いいなんて、言ってないもん!!」
俺は、いじけてるんだぞ?
「……ごめんって。明日、一葉と二人で出かけるよ。」
「そう。……じゃ、相手の話を伝えておいたほうがいいね。」
「……双葉、お前……一葉に甘すぎるぞ?」
「ふふ。父さんに似たんだよ?母さんに甘いところ♪」
父さんは、笑顔。
「一葉は、相手が見えていない。可愛く振舞う女の子に、心を奪われて……相手は一葉を想ってる。諦めようとしたこともあって、俺……相談にのってるんだ。」
「……そうか。その子、可愛いんだろ?」
「うん!美味しそうだけど、僕の……あ、俺の相手じゃないんだ。」
「くくっ。その……“俺”と、関係があるのか?」
「へへ……。俺の相手ねぇ、男前なの♪」
…………。
あれ?表現を間違えた。
「この前は、見下す女の子って言ってなかったか……え?」
「うぅ~~ん??景彩の相手の妹だよ♪そう言えば、わかってくれるかな?」
「……あの父親の……はぁ。相手は選べる……双葉、辛くなったら……」
「そうだね……。それが出来たら、間違いなく……一葉の相手を奪うよ?」
本気だ……。
あいつの心が読めなくて、逃げたくなるから。
「双葉、一葉の相手は……。一度、見ておこうか。麒麟に連絡してみよう。」
「うん。ね、父さん……。」
「……危険を承知なら、俺は何も言わないよ?ただ、母さんには内緒にしとけ♪」
父さんの心が読める能力は、僕に受け継がれた……
「うん。俺は役員になるよ。」
「草樹や優貴にも、俺から連絡をいれるよ。……双葉、あまり無理をするなよ?」
「……はい。」
一葉side。
朝、双葉と学園までの道を歩く。
無言……我慢できなくて、僕から口を開いた。
「双葉、瞳ちゃんのこと……嫌いなのか?」
瞳ちゃん……野寄原 瞳ちゃんは、可愛くて……僕に好きだと言ってくれる。
僕も好きだけど……返事はしていない。
双葉に相談したら、否定的。
その会話を瞳ちゃんに聞かれてしまい、泣かれて……双葉に八つ当たりしてる。
本当は僕がいけないのも分かっているんだ……
「……一葉が答えを見つけないと意味がないんだ。あまり鈍いと……奪うよ?」
いつもと雰囲気が違う。
双葉が本気の眼……
「僕の相手を……奪う……?……双葉?」
理解が出来ない僕を置いて、双葉は走って先に行ってしまった。
双葉も……瞳ちゃんを、好きなの??
それとも僕の知らない……相手を知ってるの?
君には分かっているのに僕は…………
「一葉君、おはよう。」
【ビクッ】
「……委員長?おはよう。」
綺麗な声の委員長……川治 瑠璃さん。
同い年なのに、何故か……大人っぽい雰囲気に、さん付けしてしまう。
「双葉君は?」
え?一瞬の疑問。
「いつも、一緒でしょ?喧嘩でもしたのかと……訊いては駄目だった?」
「うぅん。喧嘩……なのかな?」
何だろう、心に……何かが引っかかる。
「……大丈夫?顔色が……」
委員長の手が僕の額に触れた。
【ドキ……】
あれれ??動悸が激しいですよ??
「ん?顔も赤いし、保健室に行く?」
「だ……大丈夫だよ!!」
僕の言葉に安心したのか、少し背の低い彼女は上目で微笑んだ。
【キュン……】
……?!!
あれれれ?何でだろう??胸が、苦しい気がする。
もしかして……
「一葉くぅ~~ん♪」
この声は!
瞳ちゃんの声に反応して、委員長から視線を逸らした。
「瞳ちゃん、おはよう!」
「……元気そうね。じゃ、私は委員会あるから……」
視線を戻すと、早足で歩き始めた委員長の後姿。
「うん、またね。」
僕は気づかなかった。
この心は……知っていたのに……。
君は、また……僕を好きになってくれるかな?
だって……双葉には相手がいる。傷つく君は……
「一葉君、いつ……お返事くれるの?私のこと……嫌い?」
「嫌いじゃないよ。可愛いと思うし……。でも、もう少し……待って欲しいんだ。」
好きだ、けど…………
双葉side。
委員長が、涙を浮かべて走ってくる。
手を引いて影に誘い、抱きしめた。つい……可愛くて。
「ごめん……一葉だろ?」
「ふふっ。優しいのね……。あなたには好きな人がいるのに……私の心が、勘違いしそうよ?」
「そうなったら受け止めるよ?君は、魅力的で……僕……ふっ。俺が狂いそうだ。相手の心が見えないと、不安になるよね?」
「……うん。はぁ……心は簡単にはいかないわ。忘れることが出来たら、どれほど楽か……」
「忘れる辛さは今より悲しいよ?……俺の周りは、それを経験したって聴いたから。」
「ふふ……双葉くんを好きになれたら、本当に……うぅん。ごめん、忘れて。」
「あぁ、忘れる……。未来のお姉さんに、恋心♪ふふ……何だか、魅惑的だね!」
「何それ……」
「おっ、楽しそうじゃん。私も交ぜろよぜろよ!!」
こんな陰に二人でいるなら、訳ありだと普通なら気づくだろ?
それを知ってか知らずか……抱きついてきた女。
「くあぁ~~。何だ、この温もりは。」
しかも楽しそうに笑う。
「ふふ……矢城さんって、可愛いね。はっ!!委員会に遅れるわ。」
「姉さんに宜しく。」
委員長に手を振る姿を横目に、色々な感情でため息を吐く。
まず俺は、こいつの背を絶対に抜くぞ!!
「……??双葉、何?睨んで……可愛い奴だな。よしよし~~」
俺の顔を胸の谷間に導き、頭を撫でる。
「むぐぅ~~。苦しい!!離せ!」
抵抗して離れる。
畜生……もう少し体力をつけないと。
「ん?ふふ……可愛いなぁ!」
懲りずに俺の頭に手を置いた。
【ポンポン……】
畜生!!
「矢城……俺、男だよ?」
「うん、知ってる。」
矢城 穂波。中一で、同じクラス。
背の高さは、俺より6センチでかい。だからではないが、雰囲気が男前なんだよね……
「双葉、最近……視線を感じるんだ。」
「……?視線??」
うん、確かに誰かが俺たちを見ている気がする。
「いつから?」
「……ま、いいか。」
自分から話題を振っておいて、ニヤリと余裕の笑みを見せた。
いいわけないだろ??
そう言いたい俺から視線を逸らし、矢城は答える。
「綺麗系のお姉さまだ。……くく……イタダキマスしても、いいしね。」
だと!?
俺の開いた口が塞がらない。
「ん?お前も、相手してやろうか?ふふ……高いぞ?」
数日後……。
この視線の正体が判る。
「穂波ちゃぁ~~ん!だ・い・て?」
そう言いながら矢城に抱きつくのは、3年の覆生 菫さんだ。
実はこの人、景彩と、矢城の姉の海波先輩を奪い合った人。(当然、景彩に負けた。)
そう言えば……走り去るとき、別の人を見つけたって。
……嘘だよね??俺、景彩みたいに女子力ないよ??
「きぃ!!また、大上家が敵!?」
いや、俺はそう望むけど……
「ふふ。菫さん、綺麗な顔が台無しですよ?笑って……」
てっ!!お前はホストか?!!
ちくしょう……俺は男力を磨く為に、役員になるんだ!!
「……俺は、嬉しいけどね?双葉……」
苦笑いの麒麟。
聖城 麒麟。同じ中1。役員に入ってる。
「一葉は、鈍いからねぇ~。双葉も、自然にホストしてるし?」
俺が自然にホスト??言っている意味が分からない。
「無自覚?……ははっ、似たもの同士?くく……」
楽しそうに笑っているけど、俺たちの中で幸せから一番遠い恋愛をするのは……お前だ。
まぁ、まだ……先の話♪
「教えろよ。……ホント鬼畜なんだから!」
「……鬼畜は禁句だよ?何、喧嘩……売ってるの?」
「ふふ……麒麟、久々に勝負する?」
こいつとの時間が、今は一番楽しい……
一葉side。
放課後、瞳ちゃんに声をかけられた。
「一葉君、勉強を教えて欲しいの。ね、図書室に寄っていかない?」
可愛く首を傾げ、長い髪がいい匂いを運ぶ。
「うん、いいよ。行こう!」
昔聞いた物語……相手は、いい匂いがするって言っていた。
図書室は、中等部と高等部が共同で使用している。
とても広い空間で、人も混まない僕のお気に入りの場所。
僕は成績が良いほうだけど……教えるのは双葉が上手かもしれない。
クラスのみんなは、僕より双葉を選ぶ……けど、瞳ちゃんは僕を選んでくれたのかな?
「……一葉君、ここなんだけど……」
隣に座ったイスが近づく。
【ドキドキ……】
揺れる髪が、手が……僕に触れる。
「瞳ちゃん、あの……」
近い……
「ん?」
上目からの笑顔。
【バクバク……】
心拍数が上がる!!あぁ、目が回りそうだ……
「一葉、今日は父さんと約束の日だろ?」
探していたのか息を切らした双葉が、僕を睨んでいる。
「あぁ、忘れてた!……ごめんね、瞳ちゃん……」
残念そうに、苦笑いの瞳ちゃん。すぐにいつもの笑顔に戻る。
「じゃ、また明日。ね、約束だよ?」
彼女の仕草に、嬉しくなる。
「うん、約束だね。じゃ……」
僕は、双葉と瞳ちゃんを残して図書室を出た。
双葉side。
「瞳、一葉に近づくな。」
俺は本気だった。
「……酷いわ。一葉君が好きなのに……双葉君は、私のこと嫌いなの?」
分かっている、これが嘘泣きだと。
だって俺には聞こえるから……
『くすくす……この涙に、クラッとこない男なんていないのよ?』
これは、瞳の心の声だ。
「嫌い。ね……俺さ、瞳の目的が何かは分かっているんだ。だから、お願いしてるの。一葉に近づくなよ!」
命令だけどネ♪
俺は、瞳を置いて図書室を出る。
「……くん……?くんくん……あいつの匂い?」
放課後に、あいつの匂いを感じたのは珍しい。
俺は嬉しくて、匂いを頼りに走った。
……?
3年生の階……まさか、菫さんのところ??
ある教室に、窓際で服の乱れた穂波が一人。言葉を失う。
「お、役員の見回りか?ご苦労さん。」
匂いを辿って着いた先で見つけた穂波は、肌の露出も気にせず……俺に笑いかけた。
「……穂波、その格好は……何?」
「あぁ、彼女の気が済んだのならいいかなと……」
目を伏せ気味に、ずれた服の袖を持ち上げた。
「……何をしたの?」
目が逸らせない。
彼女の肌にじゃない。彼女が何を考えているかが分からなくて……。
俺には、こいつの心だけが読めない。
一番知りたい君の心が見えず……狂いそうだ。
「……ふっ……訊くなよ……」
無意識に距離を縮め……怒りに任せて、机の上に押し倒した。
「今日は、相手にできない。体力がな……勝てないのは面白くないし?」
こんな状況に、余裕で笑っている。
【チュウ……】
唇を重ね、吸い付いた。
俺の相手だ……。
幸せな、満たされる心……なのに、何かが邪魔をする。
【ペロッ】
俺の離れかけた唇を、彼女が舐めた。
…………。
「ふっ……可愛い……」
【カァア~~!!】
怒りなのか、嬉しさが何故か交ざった複雑な感情に顔が熱くなる。
「双葉、一緒に帰るか?」
服を直し始めた穂波は淡々と語る。
あれ?何か、サラッと……流された??
首を傾げ、頭の整理をしようとする俺の手を引いて……その教室を後にする。
この相手に、俺は……勝てる日が来るのだろうか?
こいつは、俺のことを意識してくれるのかな??




