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C【派生シリーズ】邪  作者: 邑 紫貴
7僕はおおかみ!

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呪いの弊害


海波が壁に背をあずけて座り、僕を足の間に座らせた。

僕の後頭部を胸の谷間に導き、額にキスを落とす。

あぁ……やっと分かった、男女立場が逆なんだ……。

「景彩……タクは私の初恋だった。これ、タクの幼い時の写真。」

常に持っていたのか写真はボロボロ……

?!

「この可愛いスカート姿は、海波だよね?……隣の、可愛いズボンの子は……」

写真の二人は、可愛い女の子にしか見えないけれど……多分そうだよね?

「そう、可愛い頃のタク♪ふふ……私、昔から可愛い顔が好きなんだ!!」

……それで、女の子に手を出していたの??

言葉が出ない。

「いつだったかな……。あぁ、小学5年。あいつが海外に行くから見送りに行った時。タクが可愛さのカケラもなくなっててさ……はぁ、私のショックがどれほど大きいか。あいつも、私と父のサバイバルのこと知らなかったみたいで……あ、これが見送りの時の写真。」

カッコイイ小麦色の……今の雰囲気に近い海波の幼い姿。

その横には、すっかり可愛さの抜けた少年の泣き顔。

…………。

確かに、二人ともトラウマかな??

「景彩のクラスに入るって知って……あいつの好みが分かっていたから、転校の初日に釘を刺しに行ったんだ。今日も、朝から手を出すなと忠告していたのに……くそっ!!景彩、こっち向いて……キスするから。もう、外なんて理由で……」

【チュウ~~】

海波の言葉を遮って、僕から唇にキスをした。

嫉妬してくれる海波が純粋に嬉しくて。

「海波、好きだよ……」

やっぱり相手の唇がいい。何度も重ねた。

幸せがいっぱい……甘くて、もっと欲しい。

「……っ……景……ぁ……」

僕の舌を海波の口に入れた。

受け入れてくれる……今日は僕を、君が受け入れてくれたんだね。

足りない……手を移動させ、海波の胸に触れてみる。

拒絶も無く安堵し……首もとに舌を這わせて、体に生じる熱で自分を見失いそうになった。

「景彩……もっと……」

「うん……“俺”も、もっと……欲しい。」

【ビクッ】

……?

急に海波の体が硬くなり、甘い匂いが薄れる。

「海波、どうしたの?」

求めていた感情が、不安で掻き消されていく。

「はは……景彩、ごめん。力が……コントロールできない。……違う、疑っていない……景彩、信じて!」

海波は体を震わせ……地面には魔方陣が広がっていく。

力の暴走?

「海波!!」

一瞬の眩しい光に、目を閉る。

目を開けた僕の前には、2人の海波がいた。

…………。

「景彩、こいつを頼むね。この世界に……私は二人も要らない。この学園の記憶を操作しに行くよ。あぁ、私のことは忘れろ!」

海波の雰囲気だけど眼は冷たくて、まるで別人。

立ち上がって、校舎のほうへ歩いて行った。

そして、ここには……過去の写真に写っていた可愛い海波の大きくなった姿の女の子。

「……ふふ。景彩、大好き♪」

無邪気な……可愛い女の子。

違和感は当然だ。違うよ、僕が好きになったのは……こんな海波じゃない!!

『疑っていない……信じて』海波はそう言った。

けど、疑ったのは海波の方だ。

甘えてくる海波は、背が僕より低かった。

胸には痛みと、言い表せない感情。

「景彩、今日……一緒に帰ろう?」

僕の腕に甘えるように絡んで、笑顔を向ける。

「ごめん。任務があるんだ……」

嘘を吐いた。

ごめんね、心が複雑で今は……

「……そう。」

聞き分けのいい、作られたような女の子らしさ。

「……ね、君……ナミって呼んでいい?」

「どうして?」

涙ぐんで、僕を見つめる。

「“俺”が好きなのは、君じゃない。君は、今二人いる。“俺”の中では、二人だ。」

「……うん、景彩は優しいね。」

【ズキッ】

あぁ……君も、海波の一部なのか。

匂いがする……もう一人より、強い香りだ。どうして?

……俺の気持ちは…………


長い歴史の中で、呪いは幸せを赦さないかのように大上家や魔女……雑種を苦しめてきた。

その始まりは、幸せを願う祈りに近かったのに……。

力は、どこから来てどこに還るのか。

まだ俺たちの知らないことだ。

『弊害は、いつまで……』

美衣さんも抱く疑問。

海波……君の力は、俺を試す。

いや、君の中の本当の事……真実を教えるのかな?


可愛いナミに、啄路くんはメロメロだ。

その様子に嫉妬しない俺を、みんなは冷たい視線で見つめる。

はぁ……匂いが、俺をおかしくさせる。

「景彩、海波先輩に別の匂いがついてるけど、いいのか?」

麒麟の記憶まで操作されているのかな。

「うん、そうだね。……これは呪いの弊害だよ。」

昨日、家に帰ってから……海波の携帯にかけたらナミが出た。

会話をした内容は、いつもと違って僕の好きな話題……

それが複雑な感情を引き起こす。

もう一人は、どこに行ったのかな……

ナミは、教えてくれなかった。訊いたら泣かれた。

慰める俺は、まるで……彼氏。

普通の男なら求める位置だろう。

僕は、おかしいのかな??

立ち上がって、ナミに抱きついている啄路くんを、投げ飛ばす。

「……懲りないね。相手になろうか?」

睨んだ僕に、微笑み……目を輝かせる啄路くん。

「3人でも、俺は気にしないぞ!!」

「……このっ!!」

僕の容赦ない攻撃に、啄路くんはダウン。

「……はぁ……もっと……」

意識も失いかけで、何を呟くのか。

変態だ。……疲れるなぁ……。

「誰か保健室に、運んでやってよ。」

始業のチャイムに、ナミは動かない。

「……どうしたの?階が違うから、急いだほうが……」

涙を零し俺に抱きつく。

「怖かった。」

震えて、小さな声で囁くナミの匂いが心地いい。

俺に心を許した香り……

3年の教室にナミを送り、俺は高等部の保健室に寄った。

ドアには『外出中』の札。

【コンコン】ノックしてみる。

中には、気配があるから……。

「草樹、いるんでしょ?」

声をかけると、焦ったような返事。

「……え、景彩??ちょ、待て……まだ入るなよ??」

5分後、予想通り……姉の麗彩ちゃんが出てきた。

「へへっ?ちょっと、気分が悪くて……」

「そう、邪魔してごめんね。」

中の草樹くんは、慌しく何かを片付けていた。

ここは学校だよ??イチャイチャは、家ですればいいのに……ちっ!!

「どうした?」

相談したくて来たのに、イライラが募った。

「草樹のH!!」

「……はい。ずみません。」

情けなく、小さくなった草樹くんが苦笑い。

「……もういいよ。ね、弊害は……どうしたら消える?」

草樹くんは、弊害と戦った。

呪いの犠牲でもある……

「どうかな。この相談も役に立つのか……景彩、相手を選ぶのはお前だ。今まで、呪いが知らせた相手を……みんなが選んできた。そして幸せを得る。選択が正しいのか……結果を見ないと分からないかもしれない。」

「……草樹……記憶の操作がないの?」

選択の話は、海波が二人いるのを知っていないとできないよね?

「俺は、一つの『始まりと終わり』だ。見守る義務があるんだろう。……美衣もね?」

あぁ……海波のもう一人は、美衣さんが護っているんだ。

俺は、ミナ……君を求めたい。多分、君が答えを持っている。

君を選択しないとしても……。

どうして逃げているの?

逃がさない。俺が見つける。君の隠している真実を……

俺は、君たちを失えば……独り……


保健室を出て、ミナを見つけた。多分、任務なんだろう……制服が結南学園のだ。

最近、中等部は少子化で女子中学に変更になった。

役員でも、男は入れない。よし、この顔でよかったと思おう!!

女装してからの移動中も、学園に潜入しても……誰も気がつかなかった。

いいよ、もう!!気にしていたら、ミナに会うことは出来ない。

最近の結南学園に動きが何かあるの?……捜査系なのかな……。

距離を取って、気配を消す。

彼女は、“おおかみ”の血筋には遠いはずだ。匂いは分からないだろう。

危険な任務。近くで見守るには……遅すぎたのかな?

もっと早く出逢っていれば……。

ヒイは、在学中の役員という決まりだ。

よほどの能力と、判断力……

海波……俺は、君を護りたい。けど、弱い存在として見ているわけじゃない。

大切なんだ……


あれ??距離を取り過ぎて、見失った?

……でも、距離的には丁度よかったはず……まさか、気づかれた?

周りを見渡す。気配はない。……様子を見ている風でもない。

この方向は、生徒会室。校長室……特別教科室。捜査の対象は……。

そう言えば、過去に記録があった気がする。確か……髪切り事件。

可能性として。過去の犯罪者が……この学園に潜入してる?

疑わしいのを捜査するのが、彼女の役割だ。

違えば、別の可能性を捜そう。

すべての学園の見取り図は頭にあるけど……ここは、あまり気にしなかった。

女性しか、任務でも入れないと聞いたから。

捜査対象の人も、それを知って潜入した可能性がある?と、すれば……

相手は男?危険じゃないのか??

足は、自然と速くなる。

校長室に辿り着くけど、気配がない。

【ガタッ】

……?

確かに、小さな音が……

どこだ?……くんくん……微かに、匂う。ミナの匂いだ!!

ナミに比べて、どれだけ少ないのか……。何がそうさせてるんだ?

……畜生!!今は、それどころではない。

一番端の会議室。鍵がかかっている。が、関係ない。

開ける方法を草樹くんから教えてもらっている。

【カッ……チ……】

ドアを勢いよく開けた。

網を被り、顔を隠したミナ。取り囲む男が3人。首謀者の男性一人。

何とかなる?人質がいるけど……。

「待て、手を出すな!!……君、可愛いね。そうか、助けに来たんだ?いいよ、君が言うことを聞いたら……彼女を助けてあげるよ?」

…………。

気持ち悪い眼だ。けど、こんなことでミナを助けられるなら……我慢しよう。

そう、俺は男だ!!我慢!!

「……本当?私のお願い……聴いてくれる?」

「あぁ、もちろん!!」

「……うわぁ、また病気が始まった。先代……それで、以前……お縄になったでしょ?」

「うるさい!!私の好みに文句があるのか?」

……ちっ、邪魔が入るか?

「ね、お願い……お友達なの。放してあげて?……うぅ……カワイソウだよ……ね、お願い……」

泣き落としだ!

それにつられて、デレデレした顔で俺の体に触ってくる。

「あぁ、いいよぉ~~。……何をしている、放してやれ!」

解放されたと同時、ミナが攻撃態勢に入った。

俺も、気持ち悪いおじさんに容赦ない攻撃。あっという間だった。

「ミナ、大丈夫?」

【パシッ】俺の頬に、痛みが走る。

「……え?」

「何故、来た?どうして……こんな無茶をする?」

「ミナ……いや、海波……君が嘘を吐いたからだよ?」

「……何のこと……か、分からない。……ちっ……後始末をして、帰るぞ。」

…………。

やっぱり、嘘をついているんだ。

啄路くんのこと……トラウマ……

君は、それで僕から去るの?

美衣さんが言った……トラウマが、自分と同じ選択に動かすって。

君は、美衣さんとは違う。その選択は……

「卑怯だ。」

悔しい……俺には、君に相応しくない?

君は、俺を信じてくれないの?

「……景彩……駄目だ。私は、いてはいけない……。そうだな、卑怯でいい。優しい君に、残酷な言葉を送る。……二つの命……一つが二つになることは出来ない。必ず、一つは消える。選択が遅いと両方が消える。優しい君は、命を消すことが出来ない。ね、私が……」

「俺は残酷になるよ。俺は、ミナ……いや、海波を選ぶ。だから……」

「……ごめん。その言葉で、十分だ……。ごめんな、忘れて……景彩……この力は、いずれ……」

「海波!!待って、逃げるな!!」

魔方陣が海波の体を包む。

自分から去ろうとするのに、優しい温かな日の光に近い色……。

「……ナミ……か、ふふ……消したのは、私だ。本当の……私。君に好きになって……欲しいと…………」




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