弊害は、ここにも?
学祭の終了直後、委員長が引き止めるのを投げ飛ばし……
麒麟のもとに来た。
「え、相手を見つけたの?」
「うん。へへ……」
「どうでもいいけど、その姿が嫌でここに居るんだよね?俺のクラスのみんな……写真撮ってるぞ。いいのか?」
周りが見えなくなっていた。
「……忘れてた。まだ、相手のいない麒麟に自慢したくて。」
麒麟が、微笑んだ。
「きゃぁあ~~!」
女の子の奇声が響く。
…………。
はぁ……僕も、経験してみたい。
「ね、麒麟くん。景彩先輩を抱いてみて!お姫様抱っこ!!」
…………。
僕の怒りに、麒麟は周りを黙らせる。
「黙って。人を傷つける人は、嫌いだよ?」
……カッコイイ。
鬼畜だけど……
「景彩、行くぞ!」
人波を掻き分け、僕を誘導する。
傍から見たら、護られる女の子。情けなくなる……
役員の更衣室に入る。
「……麒麟……僕……」
落ち込んだ僕の頭に手を乗せ、慰める麒麟。
僕は涙を零しながら、制服のボタンを外していく。
「あれ、麒麟……ボタンにカツラが……」
「ホントだ。面倒臭いね……」
二人で細かい作業に、顔が近い。
【ガチャ……】
…………。
入って来た人に視線を向けた。
「何……してるの?……麒麟……」
大人の優しそうな男の人が青ざめる。
「……恵?」
「泣いている……女の子……に、何を。まだ……君は中学生だよね?」
恵さんは声が震え、視線が定まっていない。
そんなに驚くようなことかな??
「あぁ!!恵、こいつ男だよ?」
…………。
男と聞いて、その人がふらついた。
「恵、麗彩の弟だよ。しっかりしろ!!報告は、お前が一番知ってるだろぉ~~。」
草樹くんの登場。
何故か、大騒ぎに発展。
…………。
「こほっ……すみません。あまりに、素敵な……雰囲気で……」
言葉、無理に選んでる??
更衣室で着替えを済ませ、会議室に通された。
恵さんは、麒麟の上司。
「すみません。部外者が入ったからですね?」
「……いいえ。それだけでは……」
謝った僕に対して、言葉を捜して黙ってしまった。
「酷いよ!!恵、俺を疑った!!鬼畜だって、思ったんだろ!!」
僕の外見……制服が乱れ、泣いた女の子に麒麟の鬼畜が襲っていると見えたようだ。
悲しい……
「景彩、女装で潜入するか?」
草樹くんが場を和ませるため、普段は言わない禁句を告げる。
「「ぶぅ……。草樹、嫌い!!麗彩ちゃんに、浮気してたって言うよ?」
草樹くん、いつものなら明るく返すのに。
「……ふふ。いいよ……嫌うなら、そこまでかな……」
沈んだ表情に、心が痛くなる。
「草樹、誤解が解けたのです。二人は、話があるみたいなので場所を移動しましょう。私も、あなたに話があります。」
恵さんは、優しいな。
二人が部屋を出て行った。
「大人だね……。僕、もう少し大きくなったら……」
自分の未来が不安になって口を閉ざす。
「……采景くんは、綺麗なままだけど……男の色気があるよね?景彩……相手が、男にしてくれるんじゃない?」
「……なんか、Hな言い方。」
「ばっ!!……違うぞ?!」
顔を真っ赤に、僕を揺する。
分かっているよ、君の優しさが切ない程に。
「麒麟……君は、相手をどうする?」
「さぁ?鬼畜に扱うんじゃない?」
拗ねたように、僕に背を向けた。
その背中にもたれ、呟く。
「相手……女の子が好きな女の子だった。」
…………。
返事がない。
どうやら、何かを考え……言葉を捜し……見つからない感じ。
「諦めないだろ?」
「あぁ。」
僕の返事に、笑う麒麟。
僕は立ち上がり、伸びをした。麒麟も伸びをする。
「俺、情報系の任務なんだ♪任せておけ。原因を調べてやるよ!」
数日後。姉の麗彩ちゃんから、草樹くんの記憶が消える。
二人が、呪いの弊害と戦っているのだと知った。
出来ることは、ほんの少し。違和感のない生活を演出することだけ。
高等部の学祭の日。
『景彩、家に戻ってあのワンピースを持ってきて欲しいの。』
届けた私服姿の僕に、女子更衣室の扉が開き中に通される。
男の子だと言っても、誰も信じてくれなかった。
落ち込む僕は、彼女を見つけた。
高等部の手伝いをしているみたいだ。
「はい。これが片付いたら、中等部に戻ります。」
荷物を持って、部屋から出て行った。
「……景彩?」
「麗彩ちゃん、ごめん……行くね?」
この後、姉は試練を乗り越えた。
僕は……山を登り始めばかりだった。
彼女を追いかけ、人気のない中等部に足を向ける。
会ってどうするのか……ただ、走る……
【クン……クンクン……】
匂う。甘い……相手の香りだ。
解放された呪い……でも、おおかみの血はそのまま受け継がれている。
「……お前は……ぅっ!?」
駆け寄った僕を、驚いた顔で見つめ……視線を逸らした。
がぁあ~~ん……
【ガバッ】
……??
ショックの途中、彼女は僕を抱きしめ……首もとに舌を這わす。
「……んあっ……ちょ……」
変な声が……出てしまった。
恥ずかしい!
「はぁ……可愛い!!もう、男でもいい!!……ね、このまま……」
【ドキドキ……】
……あれ?何かがおかしくありませんか??
キスが激しく、服が脱がされていく。
「ちょ……んんっ……待って……ヤダ……あっ、そこ……ダメ……だよ。」
「大丈夫。優しくする……ね、いいだろ?」
……いいのかな?
身を任せ……触られるまま……
「海波!!酷いわ、私がいるのに!!」
服が乱れた僕の上で、眉間にシワを寄せた海波先輩。
「菫……邪魔をするな。お前は、タイプじゃない。」
僕の胸を撫でながら……
視線を声のする方に向けて、睨んだ。
あの~説得力ないですよ??
「邪魔してやる!!」
菫さんは、海波先輩を突き飛ばした。
「あなた、抵抗しなさいよ!!まさか私から奪う気?」
奪う?ことになるのかな??
返事に困る。だって……
「……そう言えば、名前を聞いていなかったね。私の彼女……」
彼女??になるの!?
「……中等部2年。大上 景彩……男です。」
この自己紹介は、どうなのかな……
「ケイヤ?可愛い名前♪」
「……男……男ぉお~~??……酷いわ、海波のばかぁ~~!!」
今度は僕を突き飛ばして走って行った。
「よろしく。矢城 海波だ。」
……あれ?双葉の相手に似ている??男装の女の子……
「で、私の彼女になってくれるのかな?」
「……あの、出来れば……彼氏がいいです。」
…………。
「ごめん。」
目を伏せ気味にして逸らし、俺を残して海波先輩は歩いて行ってしまった。
あれ?僕……振られたの!?
乱れた服のまま、思考が働かない。
「……景彩!?なんて格好!!……大丈夫か?誰に襲われたんだ??珍しいな……」
役員の仕事で、学園待機の麒麟だった。
僕は服を正し、ホットココアを口に運ぶ。
重い沈黙。ただ、麒麟は黙ってそばにいた。
落ち着いた僕は、口を開く。
「……振られた。彼氏は要らないみたい……彼女にならないかって、言ってくれたのに……」
「そっか……。」
麒麟は、真面目に耳を傾けている。
多分、彼女の情報が何かあったのだろう。
「彼女に何があったの?」
「……話が長くなる。それに……麗彩ちゃんが、大変なんだ……それでも聞きたい?」
「うん。麗彩ちゃんは、草樹が護るから。二人は、試練を乗り越えるよ……解るんだ。」
「……ふふっ。うん、そうだね……。今回、試練に関与しているのは……彼女の母親だよ。」
「矢城……『生と死の垣根』……美衣さん??そっか……その話が出たのは、何か他にも?」
「はぁ~~。やっぱり、役員になれよぉ。景彩、勘がいいから!!な、俺のパートナーにならないか?情報は、それと引き換え♪」
「……鬼畜だね。麒麟……彼女を護れるなら、なるよ……いずれ。」
「うん。そのための役員だからね。まだ、大丈夫……過去から話そうか。まずは、女の子を好きになった原因。君の敵が増えるかもね♪」
「……鬼畜……」
海波先輩の情報をもらい、麒麟と別れて廊下を歩く。
【クン……フンフン……】
彼女の匂いに、何かが交じってる??
匂いを辿り、委員会長室に着く。
鍵がかかっていた。
ふふ……草樹くんに教えてもらったんだ♪
【……カチ……ン】
ドアを開けると、海波先輩が女の子を押し倒していた。
「……海波!?……」
下にいたのは、可愛い顔の女の子。
僕の視線に耐えられず、乱れた服で逃げた。
海波の服も乱れたままで、焦りもしない……
「ちっ!!……来いよ。私の欲求不満を、満たしてくれるよね?」
むしろ怒りを露わ。
そんな海波に近づくと、さっきの女の子の匂いがまとわりついていた。
吐き気がする!!
「触らないでよ!……誰の匂いをつけてるの?俺……赦さないから。」
“俺”の中の何かが目覚める。
海波を押し倒し、首もとに唇をつけ吸いついた。
「……んっ……」
はぁ……息が苦しい。上手く呼吸が出来ない。はぁ……
目には、海波の肌に付けた俺のしるし……嬉しくて指でなぞる。
「……っ……ふふ……足りない。もっと……」
彼女の手が俺の服を脱がしていく。
その手に、自分の手を重ね……唇に導くように近づける。
「ひゃっ!」
俺のおしりを、もう片方の手が撫でていた。
しかも、キスをしようと近づけた手は……さっきの女の子の匂いがプンプンする。
「~~っ!……今日は駄目!!」
彼女をその部屋に残し、僕は振り返ることなく走った。
味わったことのない感情が、僕の思考を乱す。
憎い……何が、なのかは解らない。
悔しい……どうしたら、男に見てもらえるんだろう?
もう……諦めて、彼女になってしまおうか?
……嫌だ!!僕はおおかみ!!
僕は、男だ。絶対に、彼氏になってやる!!
君の唯一になりたい。心が欲しい……手に入れたい。
数日後。
家に帰ると、母が嬉しそうに電話していた。
「……意外だわ。美衣さんが、ホントに!?……そう……」
今、美衣って言った?
母さんは僕のほうを見て、何か話が続いている……?
『生と死の垣根』……海波のお母さん。僕に関係した話なのかな??
受話器を置いて、母さんは微笑む。
「今日……麗彩のお祝いに、みんなが集まるの。女ばっかりだけど、あなたも来る?」
多分、美衣さんも来るんだ。
「うん。行く……草樹にも、お祝いを言ってなかったから。」
草樹くんは、役員の集合住宅の敷地にある大きな家を買った。
16歳になった高校生の麗彩ちゃんと、新婚生活をスタートさせる。
結婚式は、草樹くんの仕事が落ち着いてから。
お祝いの集まりで机に、お菓子や飲み物が並び……女性陣が囲む。
草樹くんは蚊帳の外。僕は交じっていた。
女性陣は、相手についての話で盛り上がる。
時間が遅くなったので、解散にしようと……主婦ばかりで片付けも手際いい。
僕は、黙って見ていた。
「景彩くん。家の娘が……その、ごめんね?あの……蛍兎に似て、野生的というか……トラウマは、聞いたかな?」
美衣さんが近づいてきて、言いにくそうに。
「はい。……野生的ですね。僕は彼女に勝てますか?」
「ふふっ。おおかみ……でしょ?大丈夫、あの子は必死よ……。あなたを手に入れたくて、ね?けど、弊害は続く。あの子……力があるの。いい?選んで欲しい。あなたの心は変わらない。トラウマが、私が選んだと同じ選択へと促すわ。その時、あなたの言葉があの子を救う。弊害……は、いつ消えるのか……」
「……美衣さん。僕、頑張るね!!」
必ず勝ってみせる!!
僕は、美衣さんの話を理解していなかった。
この時、言葉を用意していたら……いや、準備していても……
海波……僕は、君が好きなんだ。信じてくれるかな?
想いは、無駄になるだろうか……。
美衣さんを含め、(お母さんと僕を除いて)皆が帰って行く。
「景彩、相手が見つかったのか?」
草樹くんは、心配そうな顔。
多分、美衣さんと話をしたから??
「うん……」
言葉が出ない。
彼女が、女の子が好きで……押し倒された……とか。
その原因の人が、僕を苦しめるかもしれない。
美衣さんの心配する……力があること……。
「お前は、強い。大丈夫だ。何かあったら、俺が助ける。」
優しい男の人……強さ……
「……“俺”……頑張るから……草樹は、麗彩ちゃんを護って。幸せになって……」
「あぁ。まかせとけ!」




