恋心は封印です!?
授業が終わり、ざわめきが聞こえる。
「……えっ、あんた……草樹くんに告ったの!?」
廊下の話声が響く。
草樹って……連歌と双子のだよね?
「うん……やっぱり、ダメだったぁ!!」
「当たり前でしょ。初恋は采景君!有名な話よ……。綺麗な顔じゃないと、相手にしてもらえない。しかも、今……3歳の女の子を好きだって言ってるわね。」
……ウワサ……本当なのかな?采景君って朝の?
あの人なら、初恋と言われても……有かな?
……綺麗じゃないと……連歌も、綺麗な人ばかり好きになったと言っていた。
やっぱり……同情だったんだ。それか、胸……?
はぁ……疲れたな……
「はぁ!?草樹君を呼び出して、連歌君だったって……?……試されたの?」
……?
まだ、会話……続いてたのか。
「そう、2人の違いが分からないなら……付き合えないって……うぅ……」
最初から、その気なんてないだろうに……。
しかも、区別がついていないなら……連歌の振りした本物の草樹君?
性格悪いわね……あの双子。
悪魔……あの微笑に、何人が騙され……傷ついてきたのか……。
男なんて!!信用できない!
畜生ぅ~~。しばらく、恋愛は禁止よ!誰にも、心を許さないんだから!!
特に、連歌!あの悪魔が微笑んでも……絶対!!
今日はサボろう。天気も良いと、予報で言っていたし。
お昼の休みになっていたのか、中庭には人が多い。
お腹が減らない……。
裏庭に抜ける。
人気が無いし、時間帯だろうか……太陽が照らし、心地よい空間が出来ている。
木陰に座り、目を閉じた。
「……草樹くん。好きです……」
「ごめん。俺、結婚を考えてる子がいるんだ。」
「三歳でしょ?」
「だから?」
「……酷いぃ~~」
……静かな時間が、台無しだ。
しかも、この……声……?
「小鹿、ここにいたのですか?」
近づく声に目を開ける。
……やっぱり眼鏡のない連歌だ。そうやって試すん……だ。
それに合格しなければ?私に近づかない?幻滅する?私は……傷つかない?
「小鹿、泣いていたのですか?」
……っ!!
「……草樹くん。ごめんなさい……帰るわ……。」
「待てよ!……小鹿、分かっているのでしょう?」
「……私まで試すの?意味が無いわ。あなたは、草樹くん。でしょ?」
「……っ!!」
走って追いかけてくる。逃げ切れない!
手首をつかまれ、引き止められた。
「小鹿、こっちを……俺を見てください。」
「……離して。」
後ずさり、フェンスで行き止まる。
連歌は耳元で、私にそっと囁いた。
「名を呼んで……」
目を逸らしたまま……首を振る。
つかまれた左の手首が痛い。
「痛い……離して、お願い。」
「嫌だ!小鹿……小鹿。」
連歌の声が、私を苦しくする。
いつもよりかすれて、悲しげで……胸が苦しい。
「……連歌……」
「嬉しい……」
名を呼んだ私に小さい声で安堵の表情。
彼の左手が、そっと私の頬に触れる。
【ドクッ……】
動悸が激しい。
彼に反応しているんだ……っ!
駄目。心を封印すると、決めたばかりなのに。
「離して!」
抵抗するが、どこまで本気でしているのか。
……ダメ……苦しい。これ以上は自分が傷つきたくない。
心が……壊れそうだ。連歌……
「いやぁ……ゃ……っ」
優しいキス。
なんともいえない。幸せ……
はっ!!受け入れては、ダメだ!
自由に動く右手で、連歌を叩き……押し退けようとした。
連歌は涙目の私を見つめ、抵抗する右手を取り……
彼の胸に導く。連歌の左手で押さえられて熱が伝わる。
熱い……視線も……逸らすことが出来ない。
「小鹿……。この鼓動は、誰に反応していると思いますか?」
私を引き、胸に抱き寄せた。
鼓動が聞こえる。
「あなたです。小鹿に反応して、気持ちが高揚する。……他の誰でもない……」
連歌の声が、私の心を揺らす。
「……キス……したい」
【ビクッ】
ダメ、これ以上キスして……彼を受け入れたら、戻れない。
まだ、心が……心が!!
つかまれていた左の手首が、いつの間にか自由になっていた。
左手で口を覆い隠し、首を横に振った。
連歌の悲しそうな眼。
【ズキ……】
駄目!受け入れてはダメ……まだ……好きじゃない……
好きじゃない!連歌に失礼だ。
連歌は顔を近づける。
【ドキ!】
私の、口を隠す左手首にキス。
【かぁあ~~】赤くなる顔を背けた。
体は、フェンスに押さえられ逃げられない。
そっと視線を向ける。
目が合った。
【ドク……ン】
駄目、心が騒ぐ!
彼は私の様子を見ながら……私の視線を捉えたまま、手の甲まで舌でなぞる。
「……はぁ……」
息が漏れて体が震える……怖い?
違う、違うぅ……
連歌は手の指を、私の掌をなぞり中に滑らせる。
連歌の人差し指が唇に触れ……見つめる目が閉じ気味になる。
動悸の速さに、息が苦しい。拒絶が出来ない。
力の入らない私の掌を、連歌はゆっくりのける。
「小鹿……気持ちが抑えられない。めちゃくちゃに……したい。必死なのが分かりますか?小鹿が好きです。俺を受け入れて……」
「小鹿!!」
【ビクッ】
危ない……受け入れるところだった!
涙が溢れる。自分の弱さに、情けなくて。
「関……くん?」
連歌の表情が、怖く……雰囲気が冷たい。
その視線が関君に向けられ、連歌は私から離れる。
「っ!!やっ……やめてぇ!!」
連歌が関君の胸座をつかんで、今にも殴るところだった。
「止めて……。もう、私に……係わらないで。」
私はその場から逃げた。
逃げた。連歌から……連歌の気持ちから。私の気持ちからも!
自分が傷つかないために、連歌を傷つけて……。
連歌……好き……本当は、もう……あなたのことしか、考えられない。
いつの間に、あなたのことを好きになった?本当に好き?
ただ、あなたに見つめられ……あなたの想いが強いから……。
分かる……あなたが、私を求めているんだ……と。
「小鹿!見つけた。良かった……捜していたんだ!」
泣いている私に、声をかけたのは巴だった。
捜していた?もう、あなたに……用なんて無い。
出来たらかかわりたくない。話しかけないで欲しい。
「……泣いて……。小鹿、やり直そう……」
あまりの、意外な言葉に驚き……涙が止まる。
……今、何て……?
「は……?」
私の手を握り、巴は見つめる。
……気持ち悪い!
「離して!」
振り払い、睨みつけた。
「……ごめん。どうかしていた……。千鳥とは、別れたんだ。」
別れた?つい最近……だよね?付き合い始めたのは……?
いや、理由なんていい。もう巴に気持ちが冷めている。今更だ。
しかも、傷ついた自分の感情で……大切に想い始めた人を傷つけたばかり……。
「関係ない。もう、あなたに……何の感情も無い。」
「……小鹿、また……話をしよう……」
肩を落とし、巴が去って行く。
……今更……何を……?
今更よ!もう、時間は戻らない。気持ちも、離れて……冷めた。
また過去のように、気持ちを通わせることは無い!
巴……一体、何が……?
「あら、元鞘じゃないの?」
……次から次へ!
私は、傷心する余裕も無い。これが、私の心がもたない理由の一つだ。
「千鳥、どうして別れたの?飽きた?次のターゲットを見つけた?……私に用事なんて無いでしょ。」
疲れた……もう、そっと……して。もう、誰も……
「うん。連歌君、いいよね?」
【ズキ……】
連歌……?今度は、連歌なの?
「ふふっ。怖い?また、奪われるのが。」
怖い。失ったら、もう誰も好きになれない……そんな気がする。
誰も信じられなくなる!
千鳥と、その後……何を話したのか……どう、帰ったのか……記憶がない。
自分の部屋……冷たい床に寝そべって、涙が次々零れる。
【コンコン……】
「……何?」
「連歌君と、何かあったの?」
ドアの向こうで、母の心配そうな小さな声。
「……今、下に行く。……もう少し、待って。」
階段を下りる音が、小さくなる。
……連歌……あなたは、私の胸が好きなんだ。
私の代わりなんて、沢山いる。千鳥の胸……本物なら、十分だろう。
千鳥にあげる……奪われるんじゃない、譲るんだ。
私は、好きじゃない。好きじゃないから、傷つかないはず……よね?
「それは、違うと思うわ。」
……そうかな?違う……
!?
身を起こして周りを見る。
電気がつき、苺愛が立っていた。
「……苺愛?何で?何……??」
「ご飯よ!今日は、豪華よ。」
……何で、食卓に4人。父・母・私に苺愛。
「苺愛ちゃん、可愛いねぇ~~。もっと、食べなさい。」
母に、おかずをお皿に盛られている。
山盛りが、どんどん消化されていく。
「……今日は、泊まっていくんでしょ?」
「はい。小鹿の許可をもらいました。」
出してないけど?
「ね?」
無表情に近い顔で、私を見る。
「……うん。」
口元の引きつる私に、最高の笑顔!
家族全員が、やられた。滅多に見られないだろうその笑顔に、ハートが盗まれた!!
抱きしめる。
「……苦しい。この、胸……やっぱり……凶器。」
小さい声で、酷いことを。
「ごめんね……」
「はぁ……食べ終わったら、話がしたいの。いいかな?」
確認を取りながら、苺愛は首を傾げる。
まるで、捨てられた子犬のような……
【キュウ~~ン】
やばい、可愛すぎる!!飼いたいわ!
私は、部屋で苺愛にすべてを打ち明けた。
何もかも……順番は覚えていない。言いたいことを、すべて……吐き出すように……。
涙も、止まることなく……頬を伝う。
泣いている感覚はない。ただ、流れ続ける。
言い終えるまで、黙って聴いてくれる苺愛が……愛おしい。
「……ありがとう。」
私に、笑顔が戻る。
苺愛……あなたが私を癒してくれた。穏やかだ。
「……小鹿、昔話をしましょう。遠い昔、私の家系のある女性。その女性が好きになったのは、愛する人がいる男。どうしても……心が欲しかった。彼女は、汚い方法で手に入れた。でも……得たのは一時的。しかも子孫に……長い歴史の悲恋の繰り返しが付きまとった。呪いによる多くの犠牲……。幸せになったものは少なかった。……連歌も、その一人……」
昔聞いた、噂?
「……連歌は、あなたに辿り着いた。運命の人……あなた一人。間違えることは、もう決してない。あなたを失えば、連歌は……一生独り。」
私が……?
「あなたは、遠い呪いの関係者の家系。血は薄い……だけど解放される前に生れた定め……。小鹿、あなたの相手は連歌。信じて……決して、疑わないで……彼は、あなたを捜していた……」
連歌side。
めちゃくちゃにしたい気持ちを落ち着ける。
そっと……目を細め、顔を近づけた。
小鹿の目も細くなり、首の角度が……受け入れたのを示す。
嬉しい。幸せだ……。このまま俺を受け入れて欲しい。小鹿、好きだ。
君の唇……触れそうなギリギリで、邪魔が入った。
小鹿の表情が変わる。その眼が、拒絶を表す。
もう少し……もう少しだったのに!
俺は邪魔した男にイラつき、胸座をつかみ殴りかかる。
「やっ……やめてぇ!!」
必死な声。小鹿は走って行ってしまった。
……情けない……。
彼女の悲しみが伝わる。俺では、どうすることも出来ないのか?
『止めて。もう、私に……係わらないで。』
小鹿の、いつもより落ち着いた低いトーンの声が耳に残って……苦しい。
俺は、男から手を離す。
「行け、消えろ!」
走り去る彼女を見ることができなかった。
男の気配が消え、フェンスに寄りかかる。
網目に、しがみつき……力が入る。
……悔しい……小鹿……。
涙が零れる。
……どうして?教えて……小鹿、俺は、どうして……泣いている?俺は、どうしたらいい?
小鹿。呪いと同じ……君しか愛せないんだ……君を失ったら独りだと……君に誓う。
君は信じてくれる?




