男運……ないですか!?
はぁ、はぁ……息が切れるのを、必死で押さえる。
物陰に隠れ、息を潜めた。
5分……10分……来ない?
はぁ~~。安心して、息を吐きながら壁に身を預け座り込む。
放課後のことだ……。
目は笑っているのに、口元の引きつる奴が来た。
そう、悪魔!!あいつ、私が流した噂を知って……追いかけてきたんだ。
何故だ、胸の大きい子に囲まれ幸せだろ??
何故追いかける?分からない……。
何かが、私の中で消去された考えがある。そう、消去した……。
嫌な、予感……。まさかまさか……そんな、馬鹿な……。
くすくす……ふふっ。ない……ナイナイ!!
奴が、私に言った言葉……忘れた!綺麗さっぱり、覚えてなんかいないぞ!!
……何かに、憑かれてるんだろうか?
静かだ。そろそろ、いいかな……?
校舎の隙間から、顔を出し……キョロキョロ……
いない?
「甘いですね……。下も確認したほうがいいですよ?」
声と同時で、足首をつかまれた!!
「ぎゃぁあぁ~~?!!」
叫び声が響く……
「むぐ……んん~~んん~~??」
口を押さえるのが手で、何故か安心する私……それも、どうなの??
しかし、さっきまで座っていたのに……機敏な奴だな。とか、脱線。
ムカムカ……腹が立った!!
【ガブッ!!】
思いっきり、噛んでやったわ♪
「痛いですね。ふふっ……いいですよ、噛み続けて。くすくす……捕まえました。」
さっきまで安心できた闇に、連れ込まれて焦る。
「んんん~~!!」
噛んだままの手が、口に押し付けられた。
速い速度で後ろ向きに下がるから、バランスを崩し……アイツの服をつかむ。
【ビリッ】
血の気が引く。
制服に入った切れ目が、妙に色っぽくて……別の冷や汗も出る。
やばい……身も、弁償の金銭的にも……何を要求されるのか?
「ふっ大胆ですね。」
甘い囁き。
いつの間にか、壁まで下がって……身動きが封じられている。
怖い!
「やめ……何故、私に係わる?同情ならもういい!こんなの、優しさに受け取れない!!」
言いたいことを吐き捨てた。
「小鹿は、バカですね。くすくす……くくっ。マジで、そう思うの?くくく……可愛い……逃がさない。俺の、エモノ……。小鹿、数年前に……大上家の呪いの噂があったのですが……知っていますか?」
私を押さえている力が弱まる。
「……知ってる。当時は、私も……普通の女友達に囲まれていたから。」
私の答えに、満足したのか……笑顔。
「俺は、その雑種です。」
雑種……?狼の?
…………。
狼の雑種は、エモノだと言いました。
そう……獲物……小鹿……の私。
…………。
「帰る!今日は、昔のアニメの再放送が!!」
目が泳ぐ……。
視線は定まらないが、決して……奴の目を見なかった。
多分、噂の緑の目の所為だ。
確か、消えたと言っていたが……今、緑でないにしても!
見てはいけない気がした。……絶対に!!
「勘がいい。さすが、エモノ……。俺が選んだ相手。ね、小鹿……君は、誰も……好きではないね?」
【ギクッ】
図星だが、ここでハイなんて言った日には……
「イエ、好きな人がおります。」
ウソを吐いた。
もちろん、視線は逸らしたまま……。
「くすっ。残念だ……何て、言うと思った?」
「言って欲しい。」
やばい、空気が違う。気配が……冷たい?
「ふふっ。面白いことを言いますね。笑えます……」
いや、全く笑ってないよね?
「ははは……面白いでしょ。ね、もう……帰ってもいい……でしょうか?」
奴の言う言葉遣いに注意しながら……
空気だけを感じ取ろうと、神経を尖らす。
【ふぅ~~】
「ぎゃひぃ?」
首元に、息が吹きかけられ……
自分の変な声に、つい……視線を向けてしまった!
悪魔……降臨……
「そうですね。名前……呼んでください。そうすれば、この制服の弁償は要りません。」
奴の微笑みに、寒気がする。
【ゾクゾク……】
逃げられないのは、確実。ここで、抵抗したら?
し、死んだほうが……マシだぁ!!
「さ、呼んでください。連歌と……。5・4・3……」
数字のカウントに、真剣な眼。
何かがやばい?!うわぁあぁ~~ん……
「れ、連……歌……」
ニッコリ、最上の微笑み……悪魔降臨……
「ふふ……小鹿、ご褒美です。」
鋭い視線で、顔が近づいてくる。
もちろん必死で抵抗。
「いらない。いりません!勘弁してぇ~~。」
抵抗むなしく、あごを持ち上げられ……キスを受け入れる体勢が整ってしまう。
目が細く、潤んだ瞳が……色気を振りまく。
「やめ……ん~……」
見開いた目に入るのは、私を求める……真剣な眼差し。
目は緑ではない。呪いから、解放されたのだから……。
でも、この……瞳が……私をとらえて放さない。
そう……心を……獲られた。奪われる……
もう、逃げられない……?もう戻れない……?
「小鹿……」
優しい声。
このまま……流されてしまいそう……だ。
連歌……
【ムニュ……】
??!!!!
我に返る。
そう、まだ……踏みとどまった!!
「誰が……」
触っていいと……
「許可した覚えは、ない!!」
連歌の足を、おもいっきり踏んだ。
「っつ!!」
痛みで、出来た隙間を抜ける。
全速力で走り、遠くから叫ぶ。
「連歌、いい?よぉ~~く聴きなさいよ!絶対、あなたを好きにならない!今のうちに、可愛い巨乳ちゃんを捜すのね!!」
ふんっ。と、偉そうに踏ん反り返ってみる。
それなのに連歌は、それを見て微笑みを浮かべた。
何か、ムカツク!
だけど追いかけられたら怖いので、笑っているうちに逃げよう。
連歌……私に何を望む?
エモノ……喰う気か……?一度、喰われたら……解放されるだろうか……。
連歌は私の心なんて知らなかった。
当然だ、心を知られたら……。目の前から消えてやる。
……連歌……私は、今……心が壊れているんだ。
本当は、気づいて欲しい……。
校門に向かって、夢中で走っていた。
【ドンッ……】誰かに背中を押された。
「ひゃっ……」
後ろに倒れる!?
【グイッ……】手を引かれて体勢がもち直した。
ほっとして、相手に驚く。
「れ……?」
連歌……じゃない??
雰囲気、空気が違う。それに、あいつはまだ後ろのはず?
あぁ、こいつが……
「草樹……?」
つい、口にしていた。
「あぁ、大丈夫そうだな。ん?……もしかして……」
草樹は、私の胸元をじっとみる。
そして一言……
「エモノちゃん?」
どこを見て、何に訊いてるのかな?この、双子は!!
怒りで睨む私の頭に、手を置いた。
「……連歌を宜しくね?」
連歌とは違う笑顔……。
つい、見とれ……はっとする。
黙っていることは、肯定になる?
ニコニコ笑っている草樹。
「よ、宜しくなんか……しない!!」
叫んで、その場から逃げた。
あっ!助けてくれたお礼……うぅ~~嫌だけど……人として、マズイ。
「さっきは、ありがとう!」
走りながら後ろを振り返り叫んだ。
やっぱり双子……笑い方が同じだ。
まだ駄目……まだ、好きにならない。……なれない。なってはダメ……。
連歌……あなたの心が見えない。何故、アナタは私から去ったの?
巴……何がいけなかった……?
朝。
いつもの時間に、目覚ましが鳴る。
「……ん……」
10分前に一度鳴るアラームを止め、寝返り。
後、10分。
【フニ……】
胸に、ベッドの中にあるはずの無い障害物が当たる。
……?頭……?
柔らかい髪をクシャクシャ撫で回す。
…………。
「ぎゃぁ~~??!!」
目が覚め、それが連歌だと確信するには……鈍すぎた。
「朝から、騒がない!」
連歌は虚ろで、眠そうな声。
距離を取る私に、眼鏡を外した連歌が……見つめる。
【ドキ……】
色っぽい……?男のくせに、無駄な色気が……??
「あぁ、ふふ……昨日は、楽しかった……ね?」
意味深な言葉。
「は……?」
首を傾げる私に意地悪な、何か企んだ眼。
「覚えてないんですか?クスクス……いいことを知りました。くくく……」
「……何をした??」
怖いが、訊かないと?
「ふふっ。体は、知ってますよ?」
連歌は私から視線を逸らし、ベッドを下りて伸びをした。
……こいつ、いつから……いた?朝、入り込んだのか?
怖い……訊くのが……怖くなってきた!!
「小鹿、可愛い寝言は……くすっ……」
振り返らず、ドアを開けて出て行った。
可愛い……寝言は??は、何だ?続きは、何だ?!
何故、クスッ……??鍵……市販の鍵を買わないと!!
着替える途中、体が……何かを知らせる。
胸元に……虫に刺されたかのような……赤い……転々が……点々と。いや、点々が転々と。
…………。
ふふ……くすくすくす……
「連歌ぁ~~?!!」
すばやく着替え、階段を勢いよく下りる。
台所では、母と楽しそうな会話。
「……っ!!連歌、あんた……」
怒鳴る私に、最上級の微笑み。
【ドキッ!!】
心臓が!?
口がパクパク……言いたい言葉が、出てこない。
何故、こんな笑顔??
「小鹿、俺の名……呼んでくれた。」
可愛い……いや、違う!騙されるな!!
こいつは、人が寝ている布団に入るし!キスマークさえ!!~~~~っっつつ!!
「行ってきます!」
連歌の視線をおもいっきり逸らし、言い捨てる。
信じられない……流されている。いつの間にか、名前を……!!
心を許している?まさか……ダメ……まだ、駄目!!
「小鹿!」
後ろから叫ぶ声。
……私の……名。連歌が私を呼んでいる……。
「そのまま、自然に受け止めればいい……」
横に、気配無く……現れた女の子が囁いた。
可愛い……いや、綺麗な顔。
「はじめまして、矢城 苺愛です。」
49「……はじめまして。林野小鹿です。」
何故か、自己紹介。
「苺愛、この子?」
これまた、美人な……男の制服!?しかも低くて、甘い声。
「連歌の相手……か。あ、俺は大上 采景。」
何だか、二人に圧倒され……言葉を失う。
「采景?」
連歌の知り合い?
「苺愛、先行け。俺は、連歌と話すから。」
何の段取りなのか、二人は……真剣?
私は、矢城さんに手を引かれ歩く。
「あの、矢城さん?」
「苺愛でいいよ。」
さっきまで無愛想だった顔が、ほころんで……可愛い笑顔。
【きゅぅ~~ん!!】
変な気分……。何、この可愛い生き物!持って帰りたい。
いや、持って帰る!!あまりに可愛くて、つい抱きしめた。
「……苦しい。この胸……凶器……」
小さい声に、少し傷つきながら……胸をのける。
「……心の闇が……相手を遠ざけている……。」
私を見つめ、何かを見通すような苺愛の言葉。
心の闇……何故、苺愛が知っているの?
「……小鹿……今日、あなたの闇が……襲う。小鹿、忘れなさい。あなたの心は知っている……その方法を。」
……今日?予言のような言葉……。
でも、嫌な気分にもならないし……不快感もない。
苺愛の眼が真剣で、私を心配しているように感じる。
「苺愛……これから何が……」
「小鹿……?」
この声!
聞き覚えのある声に、視線を向ける。
「巴……」
元彼……柳谷 巴。
仲良く腕を組まれた彼女は、可愛いと評判の……華澤 千鳥。
私に、微笑む彼女。
昔聞いた噂が、頭に浮かんだ。
『華澤千鳥!……あの子、人の彼氏……奪うのが好きだって……』
『いるよね~人のもの欲しくなる人……』
そんな人、いるんだって……当時は思っていたのに。まさか自分が……。
私は、その場を走り去った。
何も見ず、耳を傾けないで……
これが、私の闇……そう、黒い感情が包む。
襲う……私を切り刻むような、痛み。
巴を奪われた。そう、千鳥に……盗られたんだ。
私に魅力がないから……巴は、彼女を選んだ?
私は、一人……また、独り……。価値のない……人間……なのかな。
学校の最上階の階段。
無意味な行き止まりになった……隠れた場所。
泣きつかれ、携帯を見る。時間は、2時限目がもうすぐ終わるところ。
……はぁ……ため息が出る。
千鳥……あなたは、巴を手に入れた。好きなら良い……でも、本当は?
私から盗りたかっただけ?もしそうなら、巴は……。
巴、いつかは……あなたとの終りは来ていただろう。そういう人だ……
あなたの優しさは、本物じゃない。私は、本当にあなたを好きだったのだろうか?
……好きだった……。それでいい……優しいあなたに、ドキドキした。恋をしていた。
うん……幸せな時間があった。
苺愛……大丈夫……闇には呑まれない。
……大丈夫だ……きっと……。ただ……今は……静かにいたい。
私は、千鳥とは違う。人のものになったらいらない。必要ない。
もう……しばらく恋はしたくない。
連歌、だから……私に話しかけないで欲しい。
苦しい……胸が痛い、心が悲しい。
吹っ切れてるはずなのに?
精神と思考がついていかない。誰かに助けて欲しい。
連歌以外の……誰か。
駄目……ダメよ……まだ、気がついては駄目。この気持ちは……恋じゃない!
同情されて、巴の時と同じなの!
期待すれば傷つく……




