『パンドラの箱』
水晶球は、洞窟の広い空洞の場所へと運んだ。
中央に、腰の高さの台。私の力『緑』が王利を包んでいる。
回復には、血の方が良いかもしれない。
台に王利を寝かせる。
「緑よ。右手に還れ……」
この力は、多分……
「うぅ……はぁ~、李央?ここは?一族に、何もされてない?」
「……うん。見て、アザが完全な形になったわ。時に急かされて、洞窟に来たの。……李央、君……」
【チュッ】私からの二度目のキス。
『契り』だ……
「ははっ、やっぱり……君だったんだね。情けない……契った相手も分からないなんて。」
「うぅん。分かったから、私を選んだのよ。ね、時が来るわ……飲んで、私の血……。」
「……どこがいい?俺的には、首が嬉しいな。」
「……えっち……」
服のボタンを外し、肩まで服を脱ぐ。
「白い肌、いい匂いがする……」
唇が近づいて、舌が優しく舐める。
「……んっ……」
軽い痛みの後、牙が入り込んだ感覚だけを感じる。
「……はぁ……」
ゾクゾクする……
力が入らなくて、王利に身を寄せる。
「……色っぽいね。限度を忘れそうだ……」
「王利、あなた……私の初恋の、りど君なのね。」
「初恋?ふふ……俺は、あれから苺飴だけを食べてたよ。」
「お父さんは、一族に殺されたのね?」
「過去を……見たの?」
「……母と、殺されるかもしれないと会話していたわ。」
「……ごめん。護ってあげれなかった。」
「それより、あなたの見た未来は……」
王利は、私を抱きしめる。そして耳元に囁いた。
「……愛している。君を失ったら、生きていけない。もう、これ以上……失うのは嫌だ。一族も捨ててもいい……」
王利は、何を見たんだろうか?
「……王利、私の心はあなたにある。好きよ……愛してるわ。」
優しく重なる唇は、やはり甘く……幸せで……心が満たされる。
手に入れたんだ……この人の心を。
『君が、最後に選ぶのは……俺だ。苦しむといい……選んだ選択。これから過ごす時間。深まる愛に……苦しめばいい。』
早助の声が響いた。
あの時と同じ台詞……
「早助……いえ、改。時は来た?一族の時間を急かすような接触。」
「……ふふっ。君の『緑』に、一族の集合体は分散したよ。滅ぼすのは、やはり魔女なのかな?」
彼の手に、小さな箱がある。それを、そっと開けた。
「さぁ、選択の時だ。選んで、君の心にない俺を。ふふっ。君は、俺の手を取る。」
「取らないわ!私の心は、王利にあると分かってるのに……」
「だから、だよ。君は、その血が知る。時は、待ってはくれないから。」
「王利、どうして黙っているの?」
「見たんだ。未来を……見るんじゃなかった。これから何が起こるのか分からないのに、君の最後の選択が俺を不安にさせる。」
王利の見た未来は、私が彼を選ぶと言うの?
【チクッ……】
「痛い……」
右手の甲に小さな痛み。それがどんどん熱を帯びる。
「時の犠牲の魔女に、なるのかな?王利、選べ……これから、彼女は『最後の魔女』になる。時の犠牲……君は、知っているね?君たち一族を養う餌だ。命を懸け、捧げる……」
「この旅は、伝説の苺飴を手に入れることが目的だろ?何を……嘘だ。李央、もういい。君は、役目を放棄するんだ。その水晶球で百を救いに行こう。元の世界に帰してあげる……」
王利の必死な顔。
ここから出ようと、私の手に触れようとした。
【バチッ】魔方陣が広がり、王利を跳ね除ける。
「王利!!」
「李央、何があっても彼を選ばないで。約束して、お願いだ!」
約束したい。だけど体の血が熱く、何かに駆り立てられる。
私の意志に関係なく、右手の甲のアザが浮かび上がった。
涙が溢れる。
自分の役目が、自然と頭にあるから。
改は、両手に箱の中身を出し……私に見せた。
中央に輝く『聖花』それを包む『光』その周りを三色の輪『イリス』が封印している。
「『闇』よ、『光』を呑み込め。」
私の『闇』と、封印の『光』が消える。
「……改。酷いわ……あなたの手にあった花。あれは、私……私をあなたは……あの時から手中にあることを示した。足りない……解放できない。」
「そう、君は『イリス』を消すことが出来ない。『最後の魔女』になるには、俺の手を取るしかないんだ。」
「卑怯だわ……彼のために、あなたの手を取るしかない。」
「そう、彼の手に入れるものは……君か、一族より大きく比べ物にならない、この世界と向こうの世界の秩序。ね、君は……俺の手を取る。今までの幸せを思い出して……苦しむのは、時の犠牲。」
「……王利……愛してるわ。愛してる……」
「早助、君を赦さない!彼女は、俺のだ。選ぶのは、君かもしれない……けど、心は俺のだ!!」
「……俺は、改。時の犠牲……選べ。一族の解放か、李央の命か……俺は、どちらでもいい……李央の心は、変わらないから。」
きっと、王利の見たのは今の状況なんだ。
「……王利、ごめんね……ごめん。」
悲しい……
「入り口を、百に……閉じて。お願い……未来の為に……信じて……欲しい……」
水晶球を、王利の方に転がした。
「幸せを犠牲にするわ。改、あなたの『水』で『イリス』を呑み込んで欲しい。」
「うん……じゃあ、李央……『緑』を『聖花』に捧げてね。君の命と引き換えだ。さ、手を……俺の、手を取って……」
差し出された手……心は、そこにはないのに……
「李央、この世界も秩序もいらない!君は、犠牲にならなくていい。お願いだ……俺の手を取って欲しい。もう、失うのは嫌だ。俺たち一族が、犠牲になるべきだ。魔女を追い詰めたのは、俺たちなのだから……」
王利は、弾かれる結界に触れ続ける。
魔方陣は、力が増していく。
「いや、止めて。離れて!!嫌だ……傷つけないで。彼を死なせないで!!」
必死で、王利に手を伸ばす。
「……駄目だよ。その手を取ったら、すべてを失うよ?」
「構わないわ!彼を失ったら、すべてを消してやる。」
体がボロボロになりながら、私に手を伸ばしていた王利は意識を失う。
「いやぁ~~!!」
魔方陣が消え、彼の元に走り寄った。
私は彼を抱き寄せ、彼の手に触れる。
「……王利……王利!!」
私は、彼の手を取った……。
「くすくすくす……。時間だ。『イリス』よ、この『水』に還れ。『聖花』……俺の、愛しい人の温もり。君の求めた願いは、ここにある。時が来た……新たな時の犠牲の誕生に、行け……俺の手を取る彼女の元に。彼女が『最後の魔女』……」
『聖花』は、色鮮やかな赤色を放ち消えた。
「……さて、ここでの最後のお仕事だ。李央、君は『最後の魔女』じゃない。」
改は、私にニッコリ……穏やかに笑った。
「君の緑……その花の実。『緑』は、『苺飴』の代わりになる。いや、血を求める病気の治療薬だ。一族で、栽培するといい。成長までは、昔と同様……魔族の下級の血を吸えばいい。何か、質問があるかな?」
「……終わったの?」
「うん。君の手も、欲しかったのは本当だよ?嘘じゃない。時間だ……さようなら……」
エンディング
昔々、この世界『スピニロブ』。異世界から来た少女二人の物語。
一人は、モモ。魔法の鏡に身を捧げ、愛する者との時間を犠牲にした。
そして、伝承の『水晶球』を手に入れたリオ。
彼女の命のカケラで、パンドラの箱の中身を必要としない一族。
『緑』その実で、病を癒したから……。
ヴァンパイア一族の手に入れられなかった魔女との幸せが、解放した。
リオは愛する者と、待ち続けるモモの許へと急ぐ。
再び、ガラス水晶は魔法の鏡を割って解放した。
リオは、一族に留まり子孫を残す。
モモは元の世界に帰り……愛する者と共に、そこに子孫を残す。
それぞれの世界の秩序は、保たれているかのように見える。
『最後の魔女』が『聖花』をどうするのかは、また未来の話。
物語は続く……時を巡るように……。
END




