別れ道
夕暮れに、魔物対策で一晩その家に泊まることになった。
会話が極端に少ない。
「李央、百……その隣の部屋は、二人で使って。俺たち3人は、この広いところで見張りを交代でするから。」
王利の不自然な視線。
「……分かった。王利、旅に響くから言うね。……信じるわ……」
「……うん。」
複雑な笑顔……よね。何を……か、言っていない。
言葉に出来ない……
「お腹がすいた♪」
食料は予備があるけど、旅の私たちに……2人の満腹は無理だろう。
〈 love.happyエスト 〉百の、訳の分からない呪文で……机の上に大量の料理。
「さぁ、腹が減っては戦が出来ません!!食べよ!!」
百……あなたの魔法……どんだけ??
緊張も、ほぐれた気がする。
食べ終わった王利と流烏は、別の机を囲んで会議を始めた。
「明日、鏡を見つけに行こう。流烏、人の姿で先に出て。王に許可を取って欲しい。」
「はい。王利、割れたとは言え魔法で作られた鏡。水晶球の在りかを教えるのでは?」
横目で見る私の手を、早助が引いた。
「……話がしたい。」
「けど、ここでは。外も、魔物が……」
「李央、大丈夫。この家と周囲は結界があるから。家の周囲なら、危険はないよ。」
……百?
あくびをしながら、百は眠そうな顔。
「……話が終わったら、呼んで。絶対に起こしてネ♪私も、流烏と一緒の時間が欲しいから。」と、部屋に入っていった。
彼女は、知っていた。私たちの別れ道。
あなたの睡眠の理由。ただ、私の未来を決めるのは……私?それとも……“アナタ”……なの?
家の外は、暗闇に結界が薄っすらと……護られているのが見える。
「早助、あなたは……何者なの?王利の心が見えないように、あなたが分からない。」
「……答える前に、李央の答えが知りたい。質問に答えて……王利を選ぶ?」
「……選ぶわ。魔女の血が、他の選択を赦さない……」
私の答えに、早助の雰囲気が変わった。
「ふふっ。選んでくれたら、名の通り君を助けられたかもしれないのに。本当の名は改。」
「あ……らた?……記憶にある……物語の『時の犠牲』?」
「時は、巡る……ふふっ、待っているよ。聖花と共に……。君が、最後に選ぶのは……俺だ。苦しむといい……選んだ選択。これから過ごす時間。深まる愛に……苦しめばいい。」
どこから降るのか、雨が視界を妨げる。
落ち着いた後……早助……いえ、改の姿はなかった。
後悔しないわ……
濡れた格好に、王利の心配そうな顔。
愛しい……あなたの目に映る私が“何か”は、もう考えない。
今、この人の瞳に映り……心が私を心配している。それでいい……。
百を起しに、部屋に移動する。
百は、起きていた。着替えも、準備されていた。
「この家に、お風呂があるから入ったほうがいいわ。“改”は『選択の時』に、また会うことになる。行くね……」
お風呂を出て、部屋が暖かく……暖炉に目を向けた。
「早助は、どこに行ったの?一族のところ?」
王利が、背を向けたまま……暖炉の火を調節していた。
「……流烏たちは?」
「……外で、火を焚いてる。見張りはいらないみたいだけど、二人で星を見るんだって。」
嬉しそうに、笑う。流烏の幸せを喜ぶように。
うん、優しい人だ。この人の目、綺麗だね……
暖炉の前に座って、言葉を捜している王利をじっと、見つめる。
「……あの、さ……今……言うのもどうか、その……」
言いにくそうに、最初の強引な彼はどこに行ったのか。
ふふっ……可愛いわ。
「何?言ってくれないと、分からないわ。」
「……栄養を、戴けると……嬉しいのですが?」
上目でお願いされた。
【きゅうぅう~~ん!!】あぁ、もう!幾らでも!
ちょっと、意地悪してもいいかな?
「……まだ、日が来ていないでしょ?」
「……君の飴は、俺たちに気づかれないように魔法の施されたモノ。ちょっと、足りない……ので、その……この飴でお願いします。」
今更、知るなんて……。あの小さな飴……
「あ~~。」
口を開けて、誘ってみる。
何が嬉しいのか、頬を染め……緩んだ顔でやってくる。可愛い……
頬に手が添えられ、口に小さな飴が入る。
口を閉じた私の首を持ち上げ、色っぽく閉じ気味の瞳が私を見つめる。
「戴きます。」
ムードの壊れる台詞に、微笑みながら……。
近づく顔が真剣で、ドキドキする。
触れた瞬間に、目を閉じる。
彼を受け入れるように、自分の唇が沈み……体が反応する。
優しい唇へのキス……飴が、融けきってしまいそうな熱。
何かに急かされるように、自分から口を開く。
その唇をついばみ、焦らすように舌が入る。
「……ん……」
声が漏れる。
そっと開いた目に、彼の必死な表情。
小さな飴が、口の中で消えた。
「……ご馳走様でした。」
口元の唾液を拭きながら、私の唇を指で拭う王利は、嬉しそうに微笑む。
【かぁあぁ~~】
同じように、唾液が?!恥ずかしい……
視線を逸らした。
朝。
火のほとんど消えかかった暖炉の前、王利の腕の中で寝ていた。
フカフカのじゅうたんに、横になって……
恥ずかしい。いつの間にか、寝てしまったんだ。
王利は、まだ寝ている。
起きない??そっと、髪を撫でる。
「……ん……」
撫でる手を捕まえ、ニヘラ……と笑っている。
可愛いなぁ~~。額に、キスを落とし……
「李央殿。」
「ぎゃぃいやぁあ!!」
「……ぅうう~~ん?何、何事??」
慌てて、王利の手を振り払う。
「……何でも無い!流烏……ビックリ……??」
人の姿(正装)で、百をお姫様抱っこ。
「城へ先に向かいます。……百から、何か聴いていますか?」
何か?首を傾げた私に、ため息と苦笑い。
「……嫌われたのでしょうか?」
「朝まで、二人でいたのに?」
「……思い過ごしならいいのです。」
時が近づいていた。
寝起きの悪い王利は、眉間にシワでじゅうたんの上にゴロゴロ。
流烏に運ばれ、ベッドに横になる百の目から涙が零れた。
「……昨日は、何を話しかけても……ずっと、黙っていました。言葉を遮っては、甘えるように私を求めて……」
「……あの、詳しく聞くのは……」
「あぁ、ふふ。こんな外ではしませんよ?まさか王利と……?」
「……流烏。この子は、あなたを……」
「すみません……行きます。また、後で……」
逃げるように、流烏はこの家を出た。
百は、起きない。
起きているわけではない。零れた涙の意味を知るのは、ほんの少し後。
私は、残酷な選択を迫られる。
あなたは、最初から覚悟があった。流烏と出逢った当初から……
『後悔……するかもしれない。』
させない。絶対に!!
家を出る。
私は、自分の持っている飴を口に入れた。
魔法の施された飴は……少なからず、魔力の源だろう。
そうね、誰かを護れるなら……力は多いほうがいい。
「李央、飴に足りないのは何かな?」
「……継続性?満足感?」
この疑問が、一族を救う。
王利は、剣を片手に森を進む。
この森にいるのは、小さな魔物……
契りは、どれほどの効力があるのかな?
喪えば一生独りの流烏。
王利は、失ったあと私を選んだ。契りのない私から栄養をもらう。
私が、彼と契れば……分かるのかな……。契る??
森の出口、逆光に彼の顔が見えない。
……?懐かしい……??
初めて会った、屋上への階段。確か、あの時も……??
「眩しそうな目……何かを思い出しそうだ。最初の時かな?その目、好きだよ。」と、王利。
「ひゅぅひゅぅうぅ~~~」
口で野次っぽく、百がニヤニヤ。
「嬉しくない!!」
微かに記憶が、何かの匂いを運んできた。
苺飴……?
城は、私たちを迎える。
その城内の緊張が不自然で、王利も感じていた。
「……一族か?早助との連絡が途絶えて、焦っているのか……。」
早助は、一族の人間……雑種であり、時の役目を持った一族でもある。
優先は……
王の許可で、面談無しの地下への案内。
ある一室……割れた鏡が、壁にかかっていた。
流烏が、その前に立っている。
姿を見つけた百は、流烏に飛びついて抱きしめる。
「……百、どうし……んんっ……ちょ…………」
百の激しいキスに、流烏の言葉が呑み込まれる。
百は、涙を流し……流烏を抱きしめたまま話し始めた。
別れを……
「……流烏、少し……眠って。ごめんね……待っててくれる?愛してるわ……」
流烏は壁にもたれ、ゆっくり目を閉じた。
その流烏に優しくキスを何度も繰り返す。
「……足りない。足りないよう……流烏……ごめんね。ごめん……」
百の様子が明らかに違うのを、ただ……見ているしかなかった。
「……李央、移動の魔法一つと……あなたの飴にも魔法を……」
百は、ゆっくり立ちながら幾つか呪文を唱えた。
私の方に歩いてきた百の目からは、涙が流れ続けている。
「李央、あなたの飴を10個頂戴。」
差し出す手に、小さなポーチを渡した。10個あるだろう。
「……王利、水晶球を手に入れたら……李央をお願い。」
王利に悲しそうな笑顔。
そして、割れた鏡の前に私の手を引いて近づいた。
「割れたのは、中からなの……」
「百……何を言ってるの?嫌だ……離して。何をするの?待って、嫌……嫌よ!!駄目……」
「……信じるわ。あなたを……お願い……流烏の温もりを、もう一度……頂戴ね?」
「……ならっ!!」
「時間なの。一族が迫ってる……護れるのは、彼だけなのよ……。行って、未来を護るために。あなたの大切な、彼を護るため……分かるよね?」
涙で視界が霞む。
割れた鏡の中に、百が入る。
私たちは両手を合わせ、見つめる。
百の呪文に、失われた破片が……現れては繋ぎ合わされ……鏡を修復していく。
完全に、百との空間が遮られ……
中央にガラス球……導く水晶球が現れた。
「百……百!!」
魔方陣が私と王利を包む。
「……も……百?何……」
目覚めた流烏の魔方陣は、違う色に輝いている。
「百ぉお~~~!!」
百枝side。
本当は、この時を知っていた。
学園に先見がいる。時の役目を持ったその人が、私に言った。
出逢った人を信じるようにと。
流烏を信じた……
一生に一人、私だけだと言った。だから鏡の中を選んだの。
私のわがままで……私の心の支えに、流烏をここに留めた。
一時的な魔法で、一族の目にはただの犬にしか見えない。
触れられない苦しみ。
水晶球が李央の手に入った時、一族が入ってきた。
移動の魔法で、二人を送った。
追いかける一族の目に、流烏は映らなかった。
流烏は、私を遠くで見ている。
必死で、人の姿になろうとしているのね。
ごめん……その姿で我慢して?私が辛いから。
覚悟していたつもり……泣かないつもりだった。なのに、涙が止まらない。
「……百、百……」
近づく流烏……
声は、魔力で届けるね。
『ごめんね……流烏。愛してるわ……少しの我慢。李央が、水晶球をもって、帰ってくるまで……信じて待ちましょう?ね、流烏……怒ってる?』
「……いいえ、それが最善だったでしょう?百……願うなら、会えるまで眠っていたほうが……いや、これもいい。ふふ……我慢の限界をあなたが作った。覚悟して?あなたは、私のものです……。」




