冒険者たち
朝。嫌な朝が来た。
そう、三日目。私が餌の日だ……。
【コンコン……】【ビクッ!!】ドアのノック音に、心臓が跳ねる。
「誰?」
静かに開いたドアに、早助の姿。
「……あぁ、お帰り。何、餌?今、する?」
近づく私に、怖い表情の早助。
……?
不思議そうに首を傾げた私に、キスをした。
「……?!!?!」
あれ?飴を含んでいないのに、早助……お腹が減ってる??
ようやっと、解放された唇は熱を帯びる。
「……早助?飴を忘れてるよ??」
「何でだよ!!」と、辛そうな表情で抱きしめる。
何で?……焦ったからかな。私に訊かれても困るんですけど。
「李央……無意識なの?そんなに、簡単じゃないだろ?唇を……容易く……赦すな。何が、そうさせる?……役目?君は、餌じゃない!!」
……エサ……無自覚に?!!
「……俺は、雑種……君を求めなくても、栄養は取れる。……赦さない……君は、餌じゃないんだ。李央……それとも、もう手遅れなのかな?君の心は、あいつに惹かれてるの?」
……早助に、答えることが出来なかった。
「……まだ、間に合うね。彼の隠し事……勘のいい君は気がついたよね?……何かも、分かったかな。……教えてあげる……。」
「早助殿!!」
呼びに来た流烏が、叫んで早助の言葉を遮る。
「……ふっ、遅いよ……。あいつは、契りを交わした女性がいる。」
………。
契り……血で、彼の命を補うヒトが……
あぁ、やっぱり……納得した。彼の、私を見ない理由。
「……李央殿……」
「流烏……言い訳、してみなさいよ。聴いてあげるわ……。」
視線を逸らした流烏。
「……流烏に訊くのは、止めたほうがいいね。」
王利の落ち着いた声に、苛立ちが募る。
「……相手がいるなら、その子からもらえばいいわ。私は、旅にはついて行くけど……もう、あなたの餌にはならないわ!」
私の言葉を、悲しそうな……複雑な笑顔。
「……ごめんね。」
謝ってもらって当然なのに、私が悪いみたい……
心が痛い。王利を赦してあげたくなる……
「王利、言葉が足りません!誤解が……」
「黙れ……これ以上は、お前でも口にすることを赦さない。」
彼の、心の闇を……垣間見た。
その傷を癒すのは……私ではない。
「李央……百さんを起こして、旅に出ます。」
「……うん。」
まだ、あなたの名を呼んでいない。
この旅の目的は……叶わないかもしれない。
自分の身……命を捧げ、消えることを願った魔女……
あなたは、逃げた?私は、逃げ道にするわ……
『闇』……耳鳴りの中、小さな女性の声を聞いた。
「……“闇”?」
耳を押さえ、足元に視線が落ちる。
その目に、魔方陣が広がる。
「……痛い……」
右手の甲に、熱と痛みが走る。
「……っつ~~」
我慢が出来ず、気が遠くなる。
……苦しい……誰か、助けて……
『李央……さぁ、おばあちゃんが物語を話そうね。』
『……おかあさんと同じ物語?』
『……その続きだよ……』
意識を取り戻したのは、すぐだった。
物語は……
「李央、これ……闇の満月だよ?こんな大きなアザ……かわいそうだよ……。」
百の涙が、アザに落ちる。
「……百、これ……暗月かな?」
………。
「そうだっけ?」
………くすっ。
百に癒される。
「旅の用意は、出来てるの?」
「うん、もう出発できるよ。」
「……出ましょう。時が近いから……。」
そう、時が……
重い空気に5人が城を出た。
目的地は、ガラスの国【ラタバール】
「その国に、魔女の残したガラス球がある。それが、行き先を告げると伝承にある。」
黙々と、ただ……歩き続ける一行。
「……ふんふふ~~ん。ふふんふんふん……」
ただ、時間が経つにつれ……百の訳の分からない鼻歌が疲れを増やす。
「……ね、百……その歌は何?」
気になって訊いてみた。
「え?シンデレラの歌だよ♪」と、最高の笑顔。
「……早助、知ってる?」
「……いや、知らない。創作か?」
「知らないよ♪」
………。
「百、のどが乾きますよ?ふふ……水分をあげましょうか?」
おおかみの舌が……ペロリ。
「……流烏、あなたの言葉って……エロイ。」
「……当たり前です。百に、愛情を込めているのです。ふふ……情欲とも言いますが。」
ここまで、愛情を示されると……迷いが消えるだろうな……。
「え、何か言った?」
……百、聴いてあげようよ。
って、こんな変態の言葉を自然に受け止め始めた私は……やっぱり、おかしい??
「見えました、ラタバールです。まず、店に入って休憩をしましょう。……李央、手を出して……」
……?
自然に、右手を出した。
そのアザの部分に、布を巻いていく。
「……このアザは、全てのモノの希望。敵は、少ないほうがいい。……君を失ったら……」
王利の言葉は、そこで消えた。
私を失ったら、ミンナが困る?……あなたは、あの国の後継者……。
国を支えるために、心にない私を護る。
……あなたの栄養は、何で取れる?……
私の手に触れる、汗ばんだ手……。多分、無理をしてるんだ。心が痛い……
餌でもいい……
店に着いて、私は王利を引き止める。
他の3人は、(百に連れられ)中にどんどん進んでいく。
それを確認し……口に、自分が持ってきた飴を含む。
「高いわよ?」と、意地悪に笑ったつもり。
「……あぁ、覚悟するよ……」
王利の複雑な笑顔。
あなたの唇は、甘い……この苺の飴の所為なのか……あなただから?
口の中の飴は、彼の舌が運んでいく。
幸せが悲しい……
店に入り、食べ物を大量に注文した。
何が食べれるのか、分からないし……嫌な味のものが確かにあった。
「……流烏、宿を取って来て。」
「……では、着替えてから行きます。」
……食べながら、王利の顔色を見る。
うん、少しいいかな?ふふ……
私の様子を、早助は見ていた。気がつかなかった……
小さな喜びに……満足していたから。
多分、それが魔女なんだ……
宿。
旅の疲れをお風呂で癒す。
この世界にお風呂があるなんて、最高だ……。
ここは、人間(?)の国かな?
夕方に着いたが、町の露店にガラス製品。鏡も売られている。
シンデレラの国……昔、ガラスの靴とドレス、馬車をもらい王子と結婚した少女。
道程は険しく、国の内政・外政に巻き込まれた。
魔女の予言通り、閉じ込められた魔法の鏡からの救出。
その方法が、ガラス球。
それが城に眠っているはずだ。誰も行方を知らない……残された伝承。
「……ね、百……あなたは、流烏をどう思う?」
「好きだよ。李央は、王利のこと好き?」
「……うん。多分、そのために……ここにいる。命を懸けたら……ごめんね。」
静かな夜。一つのベッドに、二人で横になる。
「……李央、私……どうして、ここにいるのかな?」
「あなたは、流烏に出逢う為でしょ?」
返事は返ってこない……。
静かな寝息が聞こえる。
百……あなたの聞いた物語……確か、どこか……異なっていたような気がするわ。
思い違いならいい……。
この世界に、来た意味を求めるのは……私だけでいい。
怖い……この右手の甲のアザ……。この闇が、私を呑み込みそうで。
この月に、朝顔の花が絡んで咲き誇る。
朝日に、目が覚め……違和感。
【モフモフ……】まさか?!
私と、百の間に獣が一匹!!
「流烏ぅ~~?!」
私の声が響く。
「……朝は、静かに!しぃ~~李央殿。先に言いますね?私は、百にしか感じません。」
ムカッ!!
何故だ?無性に腹が立つ!!
【パコンッ】脱いだ靴で叩いてやった。
「……李央殿、この世界にはゴキはいないはずですよ?」
獣め……
「……流烏……私に、言いたいことがあるんでしょ?」
「……例えば?」
………。
見つめる時間が腹立たしい。
白い手が、流烏の目を塞いだ。
「……誰を見てるの?酷いわ……私以外を見ないで。流烏……私を愛してる?」
「……えぇ、あなただけです。」
……百の雰囲気が違う……目の色が緑色に輝いている。
「……百?」
私を見ないで、百は倒れるように眠る。
「……はぁ。どうして、呪いはここまで広がったのでしょう?」
流烏は、百に布団を被せ……私に背を向けた。
『複雑な人の想いは、力になる。だから、時の犠牲はこの一族をある期間……養えた……』
今、無意識に……自分の口から……言葉が出た。
「……李央殿……王利を信じてください。あの方は、契りの相手を失っています。想いは、微かなのです……」
失った?亡くしたではなく??
「思い出してください。出会いを……王利は、あなたを知らなかった。それなのに、あなたを選んだのです。」
「……私が、この役目だと知らずに……あのベロチュウをしたの?」
「……はい。これから役目のために、一人の女性を選ばないといけない身でありながら……一つ間違えば、一族から追放です。」
嬉しい。どうしよう……
「ただ、それがどうしてなのか……王利の中で複雑なのです。」
「……うん。私も、複雑だ……惹かれるのが、義務なのか……愛情なのか……」
「李央殿、それは……」
【コンコン……】
「入るよ?」
タイミングを狙ったかのような、早助。
「そろそろ、朝食にしようって……。ふふっ、俺はご馳走様かな?」と、ニヤニヤ。
……??
ほとんど、下着に近い姿?!!
「流烏、もっと早く言いなさいよ。」
「言われなくても、気がつくべきです。もう一度、言います。私は百にしか……」
【バキッ】本気のパンチが流烏の腹に直撃。
「ぐふっ……それは、ちょっと……もう少し手加減を……」
朝からバタバタだ。
一つ、気になることがある。百の睡眠の量だ。
私が気を失っていた2日間は、どうだったのか分からないが……多い。
城。
大きな広い部屋に、王様なのかな……何故か、人払いがされてる。
「……王利殿、紀央殿に似ておるね。ふふ……君も、知っているだろう?この城は、もう一族が必死に探した後だと……」
え……探した後??
「久々に、口を開けば王も……ふふ……おじの話は、心が痛むので控えて欲しいと……同じことを。」
「ふっ……洞察力のない。くく……楽しい。」
古い知り合いなのか、分からない昔話を……
ん??王が私を見て、微笑んだ。
……ニヘラ……愛想を振りまいてみる。
「ふっ……くくく……王利、お前……バカだろ?」
……?!!
いきなり、威厳やら何かが飛びましたか??
「王、仮にも……」
「ばぁか……くっ……はははっ。あぁ、久々に笑った。いいことを教えてやるよ。ね、君……呪文を。」と、百に微笑む。
《 ★% 》百は、無表情に何かを唱えた。
魔方陣が百の足元から、波の波紋の様に広がり……部屋を包んで消えた。
「……ふっ。喰えねぇ……」と、王様はご満悦。
……本当だ。喰えない……
「王利、『白雪の国』へ向かえ。その近くの森に隠れた家がある。そこに、ヒントがある。」
「……王、今まで……」
「ガラス球は、ここにはない。行け、未来の為に……」




