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3話:神祇省への勧誘

 何分か、何時間か経ったかわからない。頭に布を被せられ、引き立てられるように歩かされ、階段を上ったり、ドアを通ったり、そして、ようやく新鮮な空気を吸えた時、そこはどこかの一室だった。


 狭い部屋。入ったことはないけど警察の尋問室?みたいなのをイメージした。目隠しが外されたという事は外した人がいる。後ろを振り返ると一人の女の子がいた。背丈も年頃も同じくらい。黒い髪をポニーテールにした、切れ長の瞳の女の子。スクールバックを持ち、どこかの学校の制服を着ている。


「ごめんね。大変だったよね? もう大丈夫だよ。もう少ししたらうちの監督が来るから」


……監督? まるで部活みたいな言い草に面食らってしまう。さっきのは何なのか、あのバンってすごい音は何なのか、彼女は誰なのか。


「あ、あの......さっきのは一体......お姉さんは……?」あなた、という呼び方が浮かんだが、すごく失礼な感じがして、お姉さんと呼んでしまう。


「あたしは白瀬雫。あなたは?」彼女は私の本当に聞きたい事には答えてくれない。


「私は、のぞみです。才脇のぞみです」


「よろしくね、のぞみちゃん」


 ――お互いに名前だけ知り合ったところで、窓が一つもない部屋の唯一の出入り口のドアが開いて、黒いスーツに葬式みたいなネクタイを付けたおじさんが入ってくる。髪に白髪はないし、髭は丁寧に剃っているしで、若い印象を抱いた。


「初めまして。私はこういう者です」


彼が渡してきたのは名刺だった。「神祇省庶務課:鳳誠」。鳳凰の鳳と書いて、おおとりと読むらしい。しかし、神祇省とさっきの事を結び付ける事はできなかった。神祇省とは皇室関連の業務や、海外の宗教省庁との交流、神社の管理や保全、儀式の実施を司るただの役所。それが何で?


「良いですか、落ち着いて聞いてください。才脇さん、あなたには二つの選択肢があります。これから、今日の出来事の記憶を消すか、我々と契約をするか。その二つしかありません。どちらにもリスクはありますし、どちらも貴女にとって即座に悪影響が出る事もないでしょう」


記憶を消す? そんなことできるの? 見なかった事にして日常に帰れってこと?


「記憶を消すってどういうことですか?」


「文字通り今日の出来事を何も覚えていないようにして差し上げます。ただし、注意点として今後このような自体に巻き込まれない保証はありません」


「どういう事ですか?」


「あなたの霊的感受性は平均水準を大きく超えており、あなたの体と心は霊的存在に共鳴しやすく、霊的存在もまたあなたに接近したがる。そして、あなたはその強すぎる霊的感受性により、本来一般人が立ち入ることができない封鎖空間内に紛れ込んでしまった事で今回の事態が発生しました」


SF? オカルト? 何言ってるのかさっぱりわからない。しかし、こんな大人の人がふざけるとも思えない。でもさ、私は幽霊が見える。変なのが日常的に見えるから。鳳さんの言葉は私が異常者ではないとまるで科学的に伝えてくれたようにも感じた。


 一呼吸おいて鳳さんは続ける。


「このような事はこちらとしてもイレギュラーな事態でした。そして、あなたのその能力がある以上、今後二度と起こらないとは言えません。たとえ記憶を消したとしてもです。あなたが近寄らなくても、環境はあなたを異界へ吸い寄せ、霊体はあなたを求めてくることは変わらないのです」


それは確かにそうだ。


「じゃあ、幽霊を見えなくすることはできないんですか?」


「できません」と即答された。鳳さんの言い草は間違いなく何かに勧誘しようとしている。もう一つの提案について聞いてみた。


「これは機密事項であり、あなたが提案を受け入れる場合、守秘義務が発生します。記憶消去を望む場合、この会話の記憶も消去されます」


 鳳さんが何かを合図すると、雫さんはスクールバックから何かを取り出した。蛍光灯の光にぬらぬらと黒光りしているそれは明らかに映画の中で見るような拳銃であった。モデルガンかと思ったが、鳳さんはそれが本物であることを告げた。


 拳銃の上の方を引くように動かすと金属部品?が飛び出して机の上に転がった。それは弾だってわかる。弾にはびっしりと筆か何かで文字のようなものが書き込まれていた。


「あたしたちの仕事はこれで除霊すること。霊的感受性が高い人間が、信仰心と敵意を持って引き金を引き、火薬の力で銃口からそれを飛ばす。そうするとそういう連中を消滅させることができるの」


雫さんは弾丸を拾い、取り外した弾倉に詰め直してからもう一度装填した。


「楽しくないし嫌な思いや怖い経験するけど、今まで手も足も出せなかった奴らに仕返しができるし、給料も良いしで悪くないバイトだよ、〝巫女さん〟は」


彼女は自分の仕事を巫女だと言った。神社でお札を売ったり、掃除したりが仕事のイメージだったけど、全く違う。


 詳しく聞くと、本採用までの半年の研修期間があり、そのうち30日の訓練を修了することで巫女になることができるそう。訓練は一日5時間、ある程度日付を融通できるらしく、その上日当1万円と交通費が支給されるとか。……バイトしたことない。そりゃ華のJKになったばっかりだから、これから探さないといけないというところだった。


 単純計算で30万円、そんな大金見たことない。全部貯めたらどうなる? お金持ちじゃん。


 ――詳細は後日話す事にし、機密保持の宣誓書にサインをして解放された。時刻はもう12時を回っており、入学式はとっくに終わっている時間であった。


 学校で先生に叱られた後、生徒手帳を渡され、最寄り駅で定期を発行するために行列に並んでいた時、LINEが送られてきた。


「やほ」今朝、連絡先を交換した雫からだった。


「明日暇かな? 良ければカフェにでも行かない?」


返事はもちろんYesだった。もっと話を聞きたい。今度こそ新生活に胸が躍っていた。


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