第一章(4) 会釈をする機械と化した私
会場に入った私には、沢山の視線が向けられていた。
「げ、月光姫だっ!」
近くに居た若い男性はそう言うと、私の前に跪いた。
「先程は敬称も付けずにお呼びしてしまったこと、お詫び申し上げます」
「良かろう。滅多に外へ出られぬ娘ゆえ、娘が何者か分からぬ者も多いだろう。そんな時、君が助けてくれたのだ。礼をいう」
・・・・ああ、気分が悪い。
私はこの異様な会話を聞いて、気分が悪くなっていました。
敬称を付けなかったことへの謝罪?そんなことする必要があるとすれば、それは、王族に対してだけ。
男爵令嬢という身分である私のような人物に、そんなことをしてはならない。
「月光姫様、初にお目にかかります。私、ユーモ公爵家子息、ハンス・ユーモでございます」
この男性がそう名乗ったところで、私には何も響かない。
だって、私の現状を知ったうえでて、私なんかと結婚してくれる人はいないんだから。
私が、月に一度しか起きられない姫だなんて。
「これはこれは、ユーモ公爵子息様。こちらこそ、上から申し上げることも許されない、男爵家という立場でありながら身勝手なことを」
「いえいえ、そんな事はありませんよ。めったにお目にかかれ無い月光姫に、こうしてお会いできただけで、光栄です。これからもお目にかかれると嬉しいです」
「ええ。こちらこそ、これからも娘と会っていただけると光栄だよ」
こんな会話を、私は長い時間聞くことになったのです。
誰もが私達を敬う。
けれど、その誰もが、私達より身分が上でした。
私はお父様に何も言われていなかったので、何も話すことが出来なかった。
だから、お父様へ話しかける人達に、何も言うことなく会釈をするだけにしておいた。
お父様がその事を批難することは無かったので、私はずっと、会釈をする機械と化して、その場をしのいでいたのでした。
父がこのパーティの主催者に一人呼ばれ、私はやっと緊張を解くことが出来ました。流石に部屋のど真ん中で力を抜く事は出来なくて、壁際へ移動した
その時、私の腕が引っ張られました。