最終章(2) 私の人生で一番甘いひととき
「・・・・」
「釈放だ。もうこのようなことのないように」
「もちろんです」
もう、私が刑務所に行くことはない。お父様の指示がなかったら、あんなことはしていない。それに、そうでなくてもここは嫌だった。
壁が全て灰色なのだ。することも無く、ずっと壁を眺めていたら、気が滅入ってしまった。
「あれから一度も、会えてない・・・・」
私とテスロ様は、結局あの後一度も会っていなかった。面会が禁止されてる訳でもないのに。
「・・・・何考えてんるだろ」
私は刑務所の門を俯きながら通る。
三年も経ったら、きっと私の事なんてみんな忘れてる。ベルア・シアンを知っていた人ほど私のことは覚えてないだろう・・・・月光姫という存在は忘れられてないんだろうけど。
「・・・・きっと、幸せに暮らしてるんだうな」
それでいい。あんないい人には幸せになっていてほしい。
「そうだね、幸せだよ」
この声、聞いたことがある。知ってる。
でも、そんなわけない。あるはずがない。
「・・・・おかえり、ベルティーア」
そんなはずはない。でも、私の前にいる人が誰なのか、私にはわかってしまう。私のことを、ベルティーアなんて呼ぶ人は一人しかいない。
「どうして・・・・?」
「どうして?それは、僕が君の婚約者だからだよ」
「婚約者?私が、テスロ様の?」
「そうだよ。ちゃんと、国王陛下に認めてもらっているからね」
どうしてだろう。国王陛下が、私みたいな悪人の婚約なんて認めないだろうに。
「僕の婚約者はいや、かな?」
「・・・・わけ、ない」
もう、あんな後悔はしたくない。
私は、私は、私は、私は・・・・。
「テスロ様が大好きです。出会ってからずっと」
どんな結果でもいい。婚約者って言うのか嘘でもいい。
「ベルティーアっ!」
名前を呼ばれたと思ったら、私は抱きしめられていた。
「ベルティーア、心から君を、愛してる」
ああ、なんて幸せなんだろう。
大好きな人に、愛してると言われることは、こんなにも幸せな気持ちになれるんだ。
「ありがとうございます、テスロ様。私も、貴方様を愛してます」
私の言葉を聞いたテスロ様は、私の唇にキスをした。
それは私の人生で一番甘い、一時だったと思う。