序章(3) あの日から続く私の仕事と、私の叶わない願い
「皆、美しい君の、更に美しい姿は見たいようでね」
・・・・皆、死にたいわけじゃないはずよ。
そもそも、死ぬなんて思想定してないのよ。
「次の満月の日はそのつもりで」
そう言われた私はあの時、自分が殺してもらえるのかもしれない、と思った。
母を殺した私が、美しいと言われるのは死んでからだと思ったから。
あの頃はまだ、狂っていても期待はしていたのだと思う。
それなのに次の満月の日、私はまた光の失われた瞳を見て、そして外で満面の笑顔で拍手をする人々を見た。
その次もその次もその次も、今までずっと、目が覚めると私の目にあるのはただの人殺しの傍観者という仕事だった。
何度も何度も、その部屋に行かないようにしようと思った。
「これ以上、父を苦しめるな」
そう、苦しそうに言う父を見てしまったら、行かないなんてことができなかった。
使用人の話では、父と私が何をしているのか知ってる人は居ないらしい。
私の知る限り、私たち2人と夜に私を起こしに来る女中だけが、今回の悪事を知っていた。
そう思うと、私は不安でいっぱいになった。
もし、誰かにこのことが知られてしまったら?
私は父と同じ裁きを受けることになるのではないか、と。
理不尽だけど、それもいいと思えた。父に命令されたわけではなく、私が自ら、勝手にその願いに応えたのだから。
それでも、目の前で多くの人が死んでいくのを見ると、願わずにはいられなかった。
『早く私を解放してください』
『どんな罰も受けるから解放してください』
『もう、殺してください』
願っても願っても、それらの願いは叶うことはなかった。
理想も、神様への願いも、もう叶わないと諦めた時には、初めて目の前で人が死んでから十年が経っていた。