序章(2) 全てが変わったあの日のこと
私が父に嫌われていると知ったのは、いつだっただろう?割と早かったと思う。
私自身、自分が満月の日にしか目覚めないと知るまでは、使用人の変わった態度に、違和感を抱いていただけだった。
だけど、生まれて始めて自分の父と会ったあの日、全てが変わってしまった。
父から急に告げられたのだった。
『お前は呪われている』と。
『呪われたお前を産んだ妻は、君のせいで死んだんだ』と。
私を軽蔑した目で見ながら、父は『娘であるならば、私の指示に従え』と言った。
告げられたことにショックを受けた私は、あの時何を考えたのか、その場で頷いてしまった。
あの時頷いていなかったら、きっと私はあの場で殺されていただろう。
だけど、今の私は、それでいいと思う。もしあの日に戻れたのなら、私は迷わず、頷かない判断をする。
・・・・いつでも、目を閉じると見えるのは、私を見つめる光の失われた目だったから。
初めてあの瞳を見た日、私はパニックを起こした。
自分と会うことを楽しみにしてくれていた人が、目の前で殺され死んでもなお、私を見つめてくる。 その瞳は、恐怖でしかなかった。
パニックになった私を、父はバルコニーに連れて行ってくれた。そこから見える、綺麗な満月と美しい星たちを見て、パニックは収まりかけた。
その時聞こえてきた、多くの人々の拍手が、収まっていた恐怖を増幅させ、私を凍りつけた。
「皆、美しい君を見れて嬉しいのさ」
父のその言葉が、私を今までとは違うどん底へ突き落とした。私はその場で倒れ込み、次に目が覚めると、また満月の夜だった。