序章(1) 私の日常
「姫様、おはようございます」
「・・・・おはよう」
「本日は三名でございます」
「・・・・そう」
私はいつも通り、真っ暗なドレスを着せられた。
「・・・・この1ヶ月の出来事は?」
「はい。大事はございません」
「・・・・集会は、どうなったの?」
「変化はありません。減らした分増え、プラスマイナスゼロ、でございます」
「・・・・そう」
気になっていることを聞き終え、私は部屋を出た。
少しの間、真っ暗な廊下を歩き、唯一光が漏れているドアを開ける。
「月光姫がいらっしゃいました」
私の前で行われることは、絶対に許されないこと。
そんなことはわかっている。
けれど、私にはどうすることも出来ない。
・・・・今、この瞬間も、そう。
「皆の者、面をあげよ」
私がそう言うと、そこにいる誰もが、幸福感と好奇心を宿した目を私に向ける。
・・・・そしていつも、それらの瞳は光を失い、私を地面から見上げるのだった。
「次も必ず来るように。父をこれ以上苦しめるな」
「・・・・はい」
そう返事をして、私はその部屋を出る。
使用人と一緒に自室に戻り、白いドレスに着替え、バルコニーに出た。バルコニーの下では、多くの支持者が集会をしていた。
「げ、月光姫だ!月光姫様がお見えになったぞ!」
たった一人に見つかるだけで、私には多くの視線が向けられる。
それを確認して、私はバルコニーを足早に去った。
「姫様、今日はもう、お休みになられますか?」
「・・・・ええ」
「でしたら、お手伝いをさせていただきます」
そう言って使用人が、私を寝巻きに着替えさせた。
「おやすみなさいませ」
使用人が部屋を出て行ったのを確認して、私は深いため息をついた。
今までの私のため息が詰まった自分の部屋の空気は暗く、重い。
その暗い部屋を照らすのはいつも月明かりで、いつも、なんの嫌がらせだろうと思うと同時に、月を恨む。
遠くの異国では、月を愛でる風習があるらしいが、それは、なぜなのだろう?これほどに憎らしいものを、なぜ愛でれるのだろう?
何度思ったかわからない問を考えながら、私はまたその空気を吸った。
そして、あの日を思い出していた。