エピローグ
心を目覚めさせるようなパイロの炸裂が起こると、観客は一気にボルテージを上げる。
この場にいる誰もがカシムを見ている。
この場にいる誰もがカシムを求めている。
この場にいる誰もがカシムの歌声に心を震わせている。
聞こえているでしょう。私を求めている声が。
今この世界の多くの人が私を必要としている。
私は何も持っていなかった。
あなたは何もかもを持っていた。
見えるだろうか、あなたの両親もあそこにいる。
あなたの居なくなった穴を埋めるように。二人には私が必要だったから。
私の名前はあなたの名前。
歪に並んだあなたの名前。
あなたの名前で私があなたの夢を叶えた。
もうすぐこのライブも大成功で幕を下ろす。
聞こえるでしょう、この歓声が。皆が歓喜している手拍子が。
カシムはまた一つ大きなステップを上がる。でも、それは些細なこと。
何一つまともに持たない私だったけれど、あなたの夢を叶えたの。
私の目的は歌手になることだったのだから。
あなたじゃなくて私が叶えた。
周りを見て香澄。これがあなたの欲しかったもの。
あなたの欲しかったものを、私が手に入れた。
世の中の理不尽は思うよりも遥かに多くて。
きっとこれからも、もっともっと理不尽なのに違いない。
だけど私は耐えられる。
だってあなたがいるのだから。
いつだってあなたがいたから私はやってこれた。
苦しい時も、悲しい時も、いつもあなたがいてくれたから。
私にはあなたが必要だ。
もしかしたら、全てを失ってしまうこともあるかも知れない。
それでもきっと大丈夫。
私にはあなたがいるから。
あなたがいてくれるから私は救われる。
璃子は小さく嗤った。
だって、
私は、
――生きているのだから。
終