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第5話

『……いた』


 そう言って、いざなぎは居間に入って行く。

 続いて入ったカメラには、畳が敷かれた部屋の中央にドンと置かれた彫刻入りの座卓が映った。

 その上には、乱雑に置かれた新聞や週刊誌。

 そして――。


『死神少女の写真、発見しました! こんなにすぐ見つけるなんて、運命を感じる』

「!」


 運命、という言葉に動揺しつつ……思わず息をのんだ。

 いざなぎの手には、確かに見覚えがある写真があった。

 死神少女と呼ばれた僕、そして、大好きだったヒーローの香坂さんも写っている。


「香坂さん……」


 素敵な笑顔を思い出し、胸が痛んだ。

 生きていたら、ますますたくさんの人に愛される人気者になっていたはずだ。

 香坂さんの命日には、毎年ファンが集まって偲んでいるときく。

 僕も夏が近づいてくると、香坂さんのことをよく考える。

 今は天国で心穏やかに過ごしていて欲しい。


 とにかく、写真は週刊誌の切り抜きなどではなく、ちゃんとしたものだった。

 どうしてこんなところに……?

 ネットにあった写真を、印刷しただけかもしれないが……。


 因果が巡ってきたような……また、あんな悲しいことが起こってしまう予感がした。

 

「推しの配信だけど……これ以上見ない方がいいかも」


 僕が見ていると、悪いことを引き寄せてしまうかもしれない。

 悪縁を断ち切る願いを込めて、画面を閉じようとしたのだが――。


『死神少女、やっぱり可愛い……ビジュが良すぎる……絶対会いたい……』

『事故物件の中でデレデレするなんて変な人ですね……さすがサイコパスロリ好き……』

『おぢもそう思います』


 にやにやするいざなぎに、ニート霊能力者だけではなく、血縁者の恭介さんも引き気味だ。

 チャット欄にも『逮捕』という言葉が溢れている。


 僕は自分が『可愛い』と言われているようで照れてしまい、思わず両手で顔を押さえた。


「……はずかし」


 子どもの頃は顔つきも中性的で、体も小さい方だったから、妹の服を着ると完全に女の子だった。

 今は普通に男だし、同僚には怖がられているし……。

 とにかく、いざなぎのおかげで少し和んだので、もう少し配信を見守ることにした。


『っていうか、写真の隣にもっとすごいのありません?』

『え?』


 恭介さんに言われ、いざなぎが座卓に目を落とす。

 同じように下に向けられたカメラには、紫の布が被せられた黒い額縁が映っていた。

 これは、どう見ても……。


『遺影? 恭さん、布を捲ってもいい?』

『家の中はすべて映してもいいと許可は頂いているんですけど……。一応、お写真はやめておきましょうか。カメラ上に向けるので、その間に確認しましょう』


 座卓の上を写していたカメラが、ぐわんと動いて天井を映した。

 いざなぎたちが座卓を照らしている懐中電灯の光がうっすら届いており、かすかに木目が見える。

 叫んでいる不気味な人面のようだったが、これは点が三つあったら顔に見えるとシミュラクラ現象だろう。

 そんなことを考えていたのだが――。


『――……』


「!? ……あ、あれ?」


 一瞬、巨大な真っ赤な目が見えた気がしたが、瞬きする間に消えていた。

 仮面に顔を近づけ、改めてよく見てみたけれど……何もない。

 僕の恐怖心が生んだ見間違いかもしれない。


『あ、やっぱり遺影だ。中年男性ってことは、亡くなった家主……?』

『おそらく、そうですね。お仏壇もないようですし……。あまりご供養や法要はされてないんですかねえ。……すぐに戻しておきましょうか』


 遺影にかかっていた布を戻し、カメラの画面も戻ってきた。


『うん? 仁藤さん?』


 ニート霊能力者が、座卓の脇にあるくたびれた座布団をみつめている。


『ここに遺影の方が座っていますね……』

『え? そこにいるの? ……ガチ?』


 いざなぎは興奮気味に座布団を見つめているし、チャット欄もざわついているが……そこに霊はいない。

 霊が見える人同士でも、同じものが見えるとは限らないけれど、おそらくここにはいないだろう。

 改めて適当なことを言うなと思ったが、逆に和むことができたのでよかったと苦笑いをした、その瞬間――。


たん


『……うん? 今、何か音がしませんでした?』


 いざなぎの言葉に、ニート霊能力者と恭介さんの動きが止まる。


『『『…………』』』


 三人は耳をすませている。

 チャット欄には、同意する『聞こえた』というコメントがちらほらと流れ始めた。

 僕も聞こえたし、音の発信源は……おそらく二階だ。


たん たん たん たん


『あ! また聞こえた! 上から?』


 天井を見るいざなぎと一緒に、カメラも上に向けられたが……。

 はっきりと木目が見えただけで、特におかしい様子はない。


『仁藤さん。これはラップ音、ってやつですかね?』

『いや、足音じゃないですか!?』


 恭介さんの質問に、ニート霊能力者が焦る。

 どうしてお前が一番パニックになっているんだ!


 でも、僕もかなりパニック状態だ。

 なぜなら、一気に画面の向こうの空気が変わった気がしたからだ。

 悪いことが起こりそうな、危険な状態かもしれない。


『上、だよな? 気になるなあ。すぐに二階に行くか』

『ちなみに……家主の方が亡くなっていたのは、二階だと伺ってます』

『……今、それ言う?』


 恭介さんの鬼畜なタイミングでの情報提供に、リスナーも『鬼だ……』と戦慄している。


『さすがに不審者が侵入している、とかではないと思いますが……。ネズミとか動物が入っているのなら、所有者さんに教えてあげた方がいいので確認してきましょうか』

『そうだな……。……うっし、盛り上がってきたなあ! 行くか、二階!」


 気合を入れるためなのか、いざなぎがテンション高く歩き始めた。


『不退転の覚悟で参りますか! 怪我をしても、保険でなんとかなります!』

『わたくしは保険とか母に任せているので分かりませんが、霊的なものであればなんとかできます! 行きましょう!』


 恭介さんとニート霊能力者も、階段へと向かって行く。

 だめだ! 絶対に行かない方がいい!


「エセ霊能力者、あんたじゃだめだ!」


 画面に叫ぶが、僕の声が届くはずがなく――。

 どうすればいい? なんとか引き留めないと……!


 焦っている間に三人は、階段の下までやってきた。

 階段の先には、終わりがなさそうな暗闇が広がっていた。



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