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第30話

「死神少女の写真は、兄が撮ったものなんですよ」

「え」


 女性の話に、僕たちは固まった。

 あの家の住人も、あの撮影現場にいた?


「じゃあ、あの家に写真があったのって……」

「兄が撮ったからですね。うちにも同じものがありますよ」


 なぎさんの質問にそう答えると、女性は自分の前に伏せて置いていた写真を差し出した。

 なぎさんが受け取ると、慧が覗き込みに行った。

 ちらりと見えたが、撮影現場にいた僕を撮ったあの写真だった。

 恭介さんも横から見ているが、僕はなんとなく動けずいにいる。


「わあ……今まで見たどの写真よりも鮮明だ! この写真、くれませんか!?」


 それまでの微妙な空気を吹っ飛ばす嬉しそうな声で、なぎさんが叫んだ。

 女性も思わず苦笑いだ。


「構いませんよ。そう仰ると思って用意していましたから」

「ありがとうございます! やったー! はあ、死神少女可愛い……」

「甥っ子が立派なロリコンになってしまったなあ」

「オレは《《今の》》この子に会いたいんだよ!」


 なぎさんの言葉を聞いて、慧が何か言いたげな視線を向けてきたが、気づかなかったことにした。


「あの家に住んでいたお兄さんは、記者だったんですか?」


 写真を見続けているなぎさんの横で、恭介さんが質問を始めた。


「まあ……そんな感じです」


 どこか濁すように答えたのが気になったが、恭介さんは質問を続けた。


「お兄さんはどういう人だったんですか?」

「……優秀な人でしたよ。自慢の兄でした」


 女性はそう言って穏やかに笑っている。

 故人との思い出が蘇っているのかな、と恭介さんも和やかに聞いているが――。


 僕は女性の隣に、さっきまでいなかった二人が立っていることに気がついた。

 誰も反応していないので、僕にしか見えていないようだ。


 中年の男女だということは分かるが、顔だけは黒い霧がかかっていてはっきりと見えない。

 でも、女性と雰囲気が似ているから、おそらく両親だと思う。

 二人は女性に向かって何か言っているが……。


「鈴?」


 慧に声をかけられ、ハッとした。

 それと同時に女性と目が合ったが、すぐに逸らした。


「何か見えましたのかしら」


 女性が僕に聞いてきたが、答えていいか迷う……。


「えーと……」

「どうぞ、気兼ねなく何でもおっしゃってください。分かったことがあるなら、聞いてみたいです」


 女性がどこか挑戦的にそう言うと、なぎさんが目を輝かせた。

 言ってやれ! と期待されているのが分かる。

 あまり気は進まないのだが、何が香坂さんの死の真相に迫るヒントになるか分からないし、話してみるか。

 僕はお祓いができないから、霊は極力見ない、関わらないようにしているのだが、女性とその周辺に集中した。


 ……こっちに向かってきたら嫌だな。

 とにかく、やってみるしかない。


「あなたの隣に、中年の男女がが見えます。多分、ご両親です」


 ひとまずそう伝えると、女性は柔らかく笑ったが……。


「両親の霊がいる、ということでしょうか。まあ、私くらいの歳になると、両親が亡くなっているのは割とあることです」


 笑顔の中に棘を感じて、なぎさんが顔を顰めたのが見えた。

 それが気になりつつも、僕は女性に質問した。


「あの……お父さんは、ご存命では?」

「!」


 僕の質問に、女性が一瞬目を見張った。

 ……正解かな?


 二人の見え方に違いがあって、お母さんの方は割と姿がはっきりしている。

 こういう見え方をするのは、大体亡くなっている人だ。

 でも、お父さんの方は残像っぽいというか……ぼやけているというか……。


「どうなんですか?」


 なぎさんに聞かれ、女性は口を開いた。


「母は亡くなっております。父とは縁を切っているので分かりませんが……。親戚から『亡くなった』とは聞かないので、生きているかもしれませんね」

「おお……! さすがゼロさん!」

「すごいですね……」


 なぎさんと恭介さんがキラキラした目でこちらを見る。

 期待に応えられたのならよかったと、少しホッとしていたら――。


「!」


 女性の傍にいたお母さんが顔を動かし、こちらを見た。


「おい、大丈夫か?」


 思わず身構えた僕を見て、慧が近くに来てくれた。


「大丈夫……」


 そう答えつつも、落ち着くために腕を掴ませて貰った。

 お母さんの霊が、こちらに近づいてくることはなかったが……何か言っている。


―― …… …… ……


 聞き取りづらいが……同じことを繰り返し言っている。

 どういうことだろう?

 お母さんの霊だけではなく、改めて女性を注視した。


「あの……あなたは、ご家族がお嫌いでしたか?」

「…………」


 にこやかだった女性の表情が、無表情になった。

 あ……つい言ってしまったが、触れてはいけないことだったかもしれない。


「いいえ? 優しい両親と、自慢の兄――よい家族でしたよ」

「そう、ですか」

「はい。当てずっぽうで、そのようなことを言われるのは心外です」


 穏やかな口調ではあるが、女性から怒りが伝わってくる。

 家族について、あまり追及しない方がよさそうだ。

 でも、これは伝えた方がいいだろう。


「お母さんがずっと、あなたに話しかけています。『好きにしたらいいのよ』って」

「!」


 女性が大きく目を見開き、固まった。


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