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第2話

 僕にはいわゆる『霊感』というものがある。

 アニメや漫画では、よく霊感持ちが人から気味悪がられる展開があるが、もちろん僕もその道を通った。

 両親には「何かの病気なのではないか」と疑われたし、妹には「気持ち悪い」と言われ、同年代の子どもには「嘘つき」だと罵られる王道を進んできた。

 だから、『見えないもの』が見えても気にしない、口にしないということを徹底してきたのだが、あの時は――。



 僕は唯一仲良くしてくれる友達に誘われ、映画『暗黒の空』にエキストラ参加した。

 参加……というか、友達に強引に連れて行かれ、勝手に混じったのだ。

「たくさんの子どもエキストラがいるからバレないよ」と楽観的な友達と違い、気が小さい僕は嫌だったのだが、一人しかいない友達の誘いを断り切れず……。

 だが、その現場には母も裏方として参加しているから、みつかるとまずいので、妹の服や帽子を借りて変装していた。


 映画の撮影現場には、テレビで見ていた芸能人がたくさんいて興奮した。

 中でも、主演俳優の香坂大河こうさかたいがさんは、僕の好きな戦隊モノのリーダーをしていたので、会えたことが嬉しかった。

 だから、ずっと彼のことを目で追っていたら……見てしまったのだ。


『それ』は香坂さんの背後、15メートルほど離れたところにいた。

 一人だけ全身が真っ黒で、『影』が実体化したようだった。

 シルエットから、ストレートのロングヘア、スカートを履いていることが分かる。

 女性らしい体のラインが蠱惑的に見えた。

 そして、顔には仮面――。

 真っ白で……能面のようだが、不気味なほど笑顔だ。

 その『女の霊』はくねくねと体を揺らしながら、香坂さんの元へ向かっているのが分かった。


 それまで僕が見てきた霊は、生きている普通の人と見分けがつかないような姿だった。

 初めてみた異形な霊に僕は怯えた。

 本能的に『これに関わってはいけない』と分かる。

 そんなことを考えている間にも、女の霊はゆっくりと進み、香坂さんとの距離を縮めていて……。

 あと10メートルというところで、女の霊は仮面を外した。

 その途端、体にぞわぞわと悪寒が走る。


「…………っ!」


 《《それ》》を見て叫びそうになるのを必死に耐えた。

 仮面を撮った顔には、大きな赤い目が一つだけついていた。

 真っ黒な体の中に、血のような赤い目が浮きあがっているよう……。

 

『あー……』


 不気味な目がこちらに向けられたので、慌てて目を反らした。

 絶対に目を合わせてはいけない。


 ――なんだ、あれ……。


 女の霊がこちらを見る直前に気づいたのだが、赤い目の瞳孔は……レンズ?

 普通の目では白目の部分が『血のような赤』、黒目のところが『カメラレンズ』になっているような感じ……。

 その『目』と視線が合わないよう注意しながら、もう少し女の霊を観察する。

 すると、女の霊の体中に、あの目がついていることに気がついた。

 それらの目の瞼は閉じられていたが、近づくごとに次々と開いていく――。

 ぎょろぎょろと動いているので、どれかと目が合ってしまうかもしれない。

 怖くなり、慌てて顔を逸らした。


『ちがう ちがう ちがう ちがう ちがう ちがう』


 口がないのに、女の霊の声まで聞こえ始め、僕は恐怖に震えた。

 すぐに逃げたい……でも……このままだと香坂さんが……ヒーローがきっと死んでしまう――。

 そんな予感がしてならない。

 だから、信じては貰えないだろうけど……必死に伝えたのだ。


『もうすぐ来るよ! 早く後ろにいる悪い霊から逃げないと死んじゃうよ!』と――。


 僕の言葉に香坂さんはびっくりしていたが、すぐに振り返って後ろを確認し、首を傾げ……次の瞬間にはにこっと笑った。


『はは、怖いこと言わないでくれよ』


 どうやら『冗談』だと受け取ったようで、受け流されてしまった。

 やはり信じて貰えない。

 それでも、とにかくここから離れて欲しいと説得しようとしたのだが、現場のスタッフに止められてしまう。

 大人たちに現場から出て行くように強く言われ、従うしかなかったが……。

 僕が最後に見たときには、女の霊は被っていたお面を香坂さんにつけようとしていた。


 ――ああ、もう手遅れだ。


 香坂さんがどうなってしまうのか、見るのが怖くて……。

 僕は逃げるように去った。


 そして、香坂さんは亡くなった。

 自ら命を絶ったと報道されたが、その死には謎が残されており、『不審死』と言われている。


 これが僕から見た『死神少女』の真相だ。



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