表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/14

突如始まった、新しい日々

 「失敗したなぁ……」

 目の前に大量に積み上げられた書類を見て天井を仰ぐ。

 ――どうして、こうなったんだろう?


 王都に戻ってから十日が経過した。予想外な事が立て続けに起きたので、一ヶ月も経過したかのような錯覚に襲われる。

 時間感覚を狂わせる主な原因は目の前の書類の山。朝から晩まで、執務机で書類を一枚ずつ読み内容を吟味し、了承か却下のサインをしなくてはならない。これが一番神経を使う。

 外交に関しては専門家がいるから丸投げ出来る。けれど、内政に関しては宰相との相談か、議会で決めなくてはならない。その議会も面倒な狸が多くて進みが悪い。

「あ゛~」

 余計な事を思い出してしまった。椅子に座ったまま軽く伸びをして、深く息を吐く。

「どうしました? 大公陛下」

 唯一の同室者である、宰相(サドラー侯爵の無理心中に巻き込まれた宰相の息子。妻子持ち)が書類から顔を上げずに尋ねて来る。

 大公だったら普通は『閣下』が適用される筈なんだが、何故か、皆『陛下』を付ける。王国時代の気分が抜けていないからか?

「議会に潜む狸爺の一括処分出来ないかなって思って」

「それは無理でしょう。野心しかない老害ですが、手腕は確かです」

「老害って陰口を叩かれるまでやる意味あるのかな? さっさと引退すればいいのに」

 狸爺共の顔を思い出す。どいつもこいつも、六十を超える何時ぽっくり逝くか分からない年寄り共だ。引継ぎだけはしっかりとやって欲しい。

「後進が育っていないからです」

「人材育成を理由に仕事をさせていたよね?」

「させていますが、何処も人手不足が祟って老害にもある程度の仕事を振らねばならない状況です」

「本当に、ままならない状況ねぇ」

「全くです」

 二人同時にため息を吐き、無言で仕事を進める。

 目の前の書類を片付けないとサンドイッチ以外の食事が取れない状況だ。いい加減、仮眠室以外で眠りたいから頑張ろう。

 黙々と書類を捌きつつ、十日前の一件を思い出す。

 人生に波乱万丈としか言いようのない刺激を求めた覚えはない。覚えはないのに、どうしてこうなったんだか。


 諸悪の根源は色々と遺言を残していた先王だろう。

『エリオットとの婚約がなくなったアメリアには『大公』の爵位を与え、王都の守護役に任命せよ』と言う内容の、秘匿されていた遺言が公表された結果。誰を玉座に座らせるかで揉めていたセレスト王国の議会は――恐ろしい事に自分を王に担ぎ上げた。

 たかが十六歳の小娘を玉座に座らせるなど、大変正気を疑う行為だ。しかし、誰かが国のトップにならなければ混乱の終息が見込めない状況でもある。叙爵許可を既に王が出していた事も在り、否応無しに自分が祭り上げられた。

 これに伴い国名も『セレスト大公国』に変わった。

 国名こそ変ったが、王城勤めの文官と武官以外の領地に引き籠っていた貴族と平民の生活には影響は出なかった。慌ただしいのは文官と武官だけだ。

 何しろ、少し前まで政変と戦争が同時に起きていたのだ。政変で国の幹部がほぼ死に、侵略戦争の防衛で数多の優秀な武官が戦死した。

 まぁ、侵略国のコンスタンス帝国もセレスト大公国と似たような状況に陥っているが、こちらと違い各地で反乱が起きている。反乱と分裂が原因で、帝国が地図から消える日はそう遠くない。

 ウチは地図から消されない為に、自分を王と言う名の生贄に担ぎ上げただけ。王不在があと数日続いていたら別の国から侵略を受ける事は容易に想像が付く。

 現在、空席の役職には就いていたもの達の息子を座らせ、引退していた老人達も引っ張り出し、国政に当たっている。

 ――仕方が無い。しょうがない。

 何度自分にそう言い聞かせても、納得出来ない。大公の爵位持ちってだけで、王の立場を押し付けられるんだよ。書類仕事に忙殺される日々は、思っていた以上に自分の精神を蝕んでいた。

 まぁ、引き受けるに当たって、議会に期限を設けさせた。最初は『十年』と言い張ったが、短過ぎると反対を受けて提示された期間は『五十年』だった。流石に長い。真ん中(?)を取った結果、『三十年』で決着は付いた。

 どうにかして、『退位を早める』予定でいる。方法はまだ思い付いていない。何かの漫画か、何かの奴を参考にしようかとは思っている。早急に案を考えなくてはならない。ふわっとした内容を考えて、細かい事は宰相に丸投げする気でいるけどね。

 焼き菓子を貪って、冷めたお茶を飲み干し、書類を読み進める。……この書類の経費計算合計が合っていないから経理課に差し戻しだな。

 防衛戦の戦死者の割り出しを始めとした、諸々の調査と処理は総騎士団長以下、武官達が引き受けてくれた。

 政変による死者と裏切った近衛騎士の割り出し、周辺国との外交、新体制下での治世……やる事が多過ぎる。

 幸なのは、国家立て直しの為に文官武官一丸となっている事か。第二・第三王子達の側近達が非常に頑張っているお陰で仕事の進みも良い。老害の狸爺共も今は『国家立て直し』を優先して野心を抑えている。こちらは長く持って一年程度と見込んでいる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >大公だったら普通は『閣下』が適用される筈なんだが、何故か、皆『陛下』を付ける。 「陛下」は統治者に付けられる尊称だもんね 位の名称に関わらず実質的には「女王」だし、そう呼ばれるのも仕方ない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ